石榴


登場人物
私,猪股氏,(赤池君,谷村絹代,谷村万右衛門,琴野宗一,斎藤警部補)

主な舞台
信濃のS温泉,名古屋の郊外G町,翠巒荘

作品一言紹介
絶壁の崖の上、警察官で探偵小説好きの私のよって同じく探偵小説を好む猪股氏に昔の探偵小説的な実際の手柄話で語り出された硫酸殺人事件。硫酸、それは残忍きわまりない石榴の実現には必要な物だった。老舗饅頭屋二軒の主人間に起こった諍いがあり、恋愛闘争も含みつつ、それは硫酸を飲まして結果的に石榴を作り上げるという残酷すぎる殺人に発展したのだ。一つの物事から組み立てた論理の大転換が面白く、真相が二転三転する所が圧巻の本格探偵小説だと言えるだろう。

章の名乱舞(参照はちくま文庫)
1から5まで

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
1から5まで

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「中央公論」昭和九年九月号に発表。(柘榴とも書くが私は石榴の方が正しいと教わっている)そのころ中央公論からしばしば原稿の依頼を受けていたが、実際に執筆したのはこれ一篇だけであった。中央公論は私のこの作を、ほとんど一枚看板のようにして優待してくれた。編集後記にも「これこそ筆者自身が久方振りの力作と自負される問題のもの、先月号に於て、永井荷風氏の「ひかげの花」が一大波紋を呼び、本号またこの大作を得て、吾らの意気は昂る」と大物扱いであった。中央公論のこの号は評論に切り取りを命ぜられたものがあり(戦前には、小売店に配本されている雑誌から、問題の部分だけ切り取らせて販売させるという罰則があった。出版社にとっては、雑誌全体を発売禁止処分にされるより、この方がましだったのである)改訂版として再広告をしなければならなかったのだが、その再広告には私の「石榴」だけが「本年度収穫の圧巻」と称して、大きくのせられたものである。この作は純文学評論家から批評を受けたが、多くは悪評であった。私の作が新味に乏しかったせいでもあるが、一つには、中央公論が大衆小説を一枚看板にしたことへの反感もあったのではないかと思う。それらの批評は拙著「探偵小説四十年」に詳しく記録しておいた。

※(注)初出時のタイトルは「柘榴」


短篇小説作品集に戻る乱歩の世界トップへ戻る