登場人物
北川氏,野本氏,(妙子<北川氏の妻>,越野氏,井上氏,松村氏)
主な舞台
特に記載なし
作品一言紹介
北川氏が妻の死に関して、野本氏を疑い復讐のトリックを弄するが・・・・・・(自らの錯誤によって気が狂うはなし)
著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「新青年」大正十二年十二月号に発表。「二銭銅貨」と「一枚の切符」を「新青年」編集長森下雨村さんに送って好評だったので、気をよくして、大いに気負って書いた三番目の作品なのだが、私が小説家として未熟であることを暴露したような結果となり、森下さんに長いあいだ握りつぶされていて、大震災のあとの復活号にやっとのせられたものである。私はこの三番目の作で自分の力にあいそをつかし、一時は、もう小説を書くまいと思っていたのだが、その後、また強く催促を受けたので、つい「二癈人」「双生児」とかきつづけたわけである。それから三年ほどのち、昭和二年のはじめに、朝日新聞に連載した「一寸法師」に、われながらあいそをつかして、放浪の旅に出た、あれを小型にしたような自己嫌悪が、すでにして、この三番目の作品のときに起こっていたのである。
※上記文章では乱歩は、「新青年」大正十二年十二月号に収録されたと書いているが、実際は同年十一月号に収録されている。また、新青年復刻版を参考にしたところ、初出の話末に附記旧字が付いていたので、それも新字体に変換して、下記に引用しておく。(旧字体版はこちらを参照(新青年感想))これを見ると、当時の乱歩の考えたる、この『恐ろしき錯誤』創作中の変移についてや、名作短篇『赤い部屋』の草案は既に完成していた興味深い事実がわかるのである。
初め、作者は越野氏の事件に重点を置くつもりだった。その意図から云うと、ここまでは越野氏の事件に入る前提に過ぎないのだった。しかし、作者はここまで書いて来て、ふと気が変わった。越野氏の事件はそれだけを切離して一つの小説にした方がもっと面白いものになるという気がして来た。それと、一つは時間のなかった関係もあって、この話には兎も角これでお終いにすることにした。そういう訳で、この話には全体にわたって越野氏の事件に対する伏線が敷かれてあるので、これだけのものとして見ると少なからず変な感じがするかも知れない。だが、確かに一段落はついていると思う。越野氏の事件は多分『赤い部屋』と題して発表することになるだろう。