押絵と旅する男


登場人物
私,(押絵と旅す)男,「押絵と旅する男」の兄(押絵の男),お七

主な舞台
汽車内,浅草など

作品一言紹介
これは夢か幻か、私は上野行き汽車の二等車両の中で押絵を持った一人の老人のような見てくれの男に出会った。その男は妙なことに押絵の描かれてる面を窓の方に向けていた。一種異様の恐怖を感じつつも私はその男に近づき幻想的な話に耳を傾けるのだった。その話とは・・・・・・・・・・・?これは代表作に必ず加えられる名作である。

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「新青年」昭和四年六月号に発表したもの。この作には当時の「新青年」編集長、横溝正史君との間に一つの挿話がある。昭和二年の晩秋、そのころ私は朝日新聞の「一寸法師」以来ずっと休筆をつづけていた。横溝君はその私にどうしても書かせようとして、京都や名古屋の私の旅先へ追っかけてきたものだが、その或る日、名古屋の大須ホテルで横溝君と枕をならべて寝物語をしていて(戦前には横溝君とよく寝物語をしたものである)実は一つ書いたのだが、どうしても発表する気になれないので、いま破り捨ててきたところだといって、横溝君をくやしがらせたことがある。これについては私の「探偵小説四十年」の昭和六年の「代作ざんげ」の項に詳記したし、また、「宝石」昭和三十七年三月号の「ある作家の周囲」「横溝正史篇」の中にも、やはり「代作ざんげ」と題して横溝君の談話がのっている。これが「押絵と旅する男」の第一稿であった。
 しかしその破りすてた原稿は、出来がわるくて、とても「新青年」にのせられる代物ではなかった。それから一年半ののち、同じ題材で書いたのが、ここに収めた作で、これは私の短篇のうちでも最も気に入ってるものの一つである。
 この作はジェームズ・ハリス君訳の私の英訳短篇集
Japanese Tales of Mystery andImagination(1956)の中に The Traveller with the Pasted Rag Picture と題して収めてあるし、また、ウイーンの Paul Neff社から出版された Neff-Anthologie 全三巻の第二巻、世界怪奇小説集 Der Vampire (1961) という大冊の中に Der Mann, der mit seinem Reliefbild reiste と題して編入されている。独訳者は学習院大学教授、岩淵達治氏である。


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