※異本たる春陽堂バージョンに於ける異題は『木馬は回る』
登場人物
格二郎,お冬,若者,お梅
主な舞台
特に記載なし
作品一言紹介
格二郎はラッパ片手に木馬館で働いていた。元は人気花形音楽師も時代の流れで木馬館。ラッパの間は貧乏で苦しい現実を忘れ、楽しい木馬の世界に浸り続けるのだ。しかし「夢の国」とも言える木馬館で働いていても、浮き世ではそう夢のようにはいかず、厳しい生活が待っていたのだった。その格二郎、中年で妻も大きい子供もいるが、少女とも言える切符切りに恋慕のようなものを感じてしまう。そこに現れたる青年は曰くありげな封筒残して去っていく。しかし木馬は廻った。邪だろうが、木馬は廻り続けたのだ。この郷愁感ずる一篇は何を語るか!?
著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「探偵趣味」大正十五年十月号に発表。大毎の春日野緑君と私とで大阪ではじめた同人雑誌「探偵趣味」は、第十号から東京の春陽堂が出版を引き受けてくれ、まだ早大文科在学中の水谷準君が編集に当たることとなった。その水谷君に頼まれて書いた小篇。同誌には随筆はよく書いたが、小説は全巻を通じてこれ一篇をのせたきりであった。われわれは当時、宇野浩二さんの短篇小説の影響で、浅草木馬館のメリ・ゴー・ラウンドを懐かしんでいたが、この小説はその木馬館の哀愁を描こうとしたものである。