登場人物
私(語り手),明智小五郎,小林刑事など
主な舞台
D坂
作品一言紹介
明智小五郎の初登場作品でその面からも乱歩の中心作品の一つに常に数えられる。事件はD坂(本郷区駒込団子坂?)にある古本屋(まるで乱歩が昔やっていた三人書房みたいな古本屋なのだろう)で明智の幼なじみである古本屋の女房の死体が発見された。ひょんなことから向かいの喫茶でコーヒーをすすっていて、あることから状況を不審に思った私と明智が第一発見者になり、事件について、独自の解答を導き出すというもの。
章の名乱舞(参照はちくま文庫)
【(上)事実】【(下)推理】
※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
【(上)事実】→【事実】,【(下)推理】→【推理】
著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「新青年」大正十四年一月増刊に発表した。この作ではじめて明智小五郎を登場させた。別にこれをきまった主人公にするつもりはなかったのだが、方々から「いい主人公を思いつきましたねぇ」と言われるものだから、ついにその気になって、引きつづき明智小五郎を登場させることになった。「D坂」のころの明智はまだタバコ屋の二階に下宿して、本の中に埋まっている貧乏青年にすぎなかった。「D坂」を一月増刊に発表してから毎月、この年の夏まで「新青年」に短編を書きつづけた。これは「新青年」がその後よく催した六ヶ月連続短篇というものの最初の試みであった。私は「D坂」の次に「心理試験」を書いて、いよいよ専業の作家になる決心をしたので、「新青年」編集長森下雨村さんが、この機会に六ヶ月連続短篇を催して、私を激励してくれたのである。その連続短篇というのは、
心理試験(二月号)、黒手組(三月号)、赤い部屋(四月号)、幽霊(五月号)、(六月号は休載)、白昼夢、指環(七月号)、屋根裏の散歩者(八月増刊)
であった。中途で一回休んでいるが、ともかく六ヶ月つづけたわけである。その中には「黒手組」や「幽霊」のような駄作もあるが、「D坂」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」などは、私の短篇の代表的なものに属するわけで、この連続短篇はまずまずの成功であった。この年には、「新青年」の七篇のほかに「苦楽」(二篇発表、その一篇は「人間椅子」であった)「新小説」「写真報知」「映画と探偵」などに九篇の短篇を書いているから、合わせて十六篇となる。私としてはよく書いた年であり、私の初期の代表的な短篇の半分近くは、この年に発表したといってもいいようである。
初出による話末の附記(新青年復刻版引用=新字体に変換、旧字体版はこちら)
■作者附記
わずかの時間で執筆を急いだのと、一つは余り長くなることを恐れたためとで、明智の推理の最も重要なる部分、連想診断に関する話を詳記することが出来なかったことが残念に思う。この点はいづれ稿を改めて、他の作品において充分に書いてみたいと思っている。