毒草


登場人物
私,友だち,郵便配達夫の女房

主な舞台
特に記載なし

作品一言紹介
主人公の私と友人は小川の側のじめついた所にそれを発見した。それは毒草、普通の人には全く効かない無意味な草だが、ある目的の為には有用な毒草なのだ。それは堕胎なのである。戦前堕胎罪が重罪だった時の本作はその恐怖を描いているのだ。主人公と友人の毒草談義、実に思わずなのか声が大きく、しかも偶然密かに聴衆があったのだから、主人公は戦慄を覚えずにはいられなかったのである。

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
松本泰氏が出していた雑誌「探偵文芸」大正十五年一月号に発表した掌篇。ショート・ショートといってもよい短さである。発表当時は好評であった。この作には貧乏人の悲惨が描かれているので、現社会制度への批判のようなものが感じられ、それが好評の一因となったのかもしれない。その点で、私の別の短篇「芋虫」が左翼方面から好評を受けたのと共通したものがある。しかし、私はそういう気持で書いたものではなかった。犯罪としての堕胎の恐怖を描こうとしたにすぎなかった。戦後は姦通と堕胎が犯罪でなくなったので、この掌篇は現代人の同感を得ることはできない。何をそんなに恐怖しているのか、全く無意味に感じられるであろう。道徳上、法律上の善悪は一定不変のものではなく、同じ事が時と所によって、善ともなり、悪ともなるという理論の好例証である。


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