登場人物
わたし,N某(序盤のみ)/ぼく(祖父江進一),黒川博士,黒川夫人,黒川鞠子,姉崎曾恵子,綿貫正太郎,浮浪者,園田文学史,鎚野くん,熊浦氏,竜ちゃん,
主な舞台
牛込区河田町など
作品一言紹介
やはり未完とわかっていても、思いっきり謎のまま終わると、どうしてもしっくりこないものしか残らない。当時のリアルタイム読者にとっては比べ物にならない感覚だろうが。
書簡形式で進む本篇であるが、いきなり密室殺人事件が発生するのには圧倒させられるしかあるまい。しかも謎の暗号、謎の死の状況などなどに加え、本格ミステリに必要な異常な登場人物の異常性、降霊術中の謎、これらをどう料理する構想だったのだろうか? 少しでも構想ノートが見つかれば面白いと思うのだが・・・、そうは問屋が降ろしてくれないようで残念至極。
章の名乱舞(参照はちくま文庫)
【発表者の付記】【第一信】【第二信】
※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
無し
著者(乱歩)による作品解説(春陽文庫(探偵小説十五年)引用)
「兎も角」にしろ、雑誌が「新青年」なのだし、それに推理のある探偵小説を書く積もりだつたので、いくら私でも凡その荒筋は持つていた。だがその細目までは出来上がつてゐず、書いて行くにつれて、色々の矛盾が生じ、それを克服出来なかつたばかりか、それまで書いた部分を読み返して見ると、我ながら少しも面白く感じられないので、私の癖の熱病のやうな劣等感に襲はれ、どうにもかきつヾけられなくなつてしまつたのである。
著者(乱歩)による作品解説(河出文庫(桃源社全集)引用)
「新青年」昭和八年十一月号から九年一月号まで三回連載で中絶した失敗作だが、この第一回ののった「新青年」は再版を刷るほど、読者から待ちうけられていたもので、中絶を決意するまでには、ずいぶん苦しんだし、また、中絶に対する非難も強かったものである。それらの詳しいことは「探偵小説四十年」の「中絶作悪霊」の項に書いておいた。
昭和三十年の春陽堂の「江戸川乱歩全集」第十六巻には、中絶作と連作の私の書いた部分を全部入れたが、連作の一部分なんて読む人にはおよそ意味がないので、この全集には、中絶作一篇と、連作の私の執筆した部分一篇だけを入れるにとどめた。
「悪霊」はいま読み返してみると、前半はなんとなく物々しいけれども、後半は気が抜けてしまっている。書くことがないのを無理に引きのばしている感じだ。この小説は、ほかの雑誌とちがって、われわれの本拠である「新青年」ににのせるのだから、大体のプロットはあらかじめ考えてあったのだけれど、登場人物の性格や、それらの人々の関係や、心理などの矛盾百出、どうにも書きつづけられなくなったのである。こんなことになるのも、結局は私に際立った創意がなかったためであろう。読者はこの中絶を非常に惜しんでくれ、あのつづきを書けという声が、戦後までも聞かれたほどである。しかし、私はどうにも書きつぐ気がおこらなかった。