「恐怖王」が残したもの 後編「妖虫」「人間豹」編


前編「恐怖王」編の続き

欠点が多すぎる『恐怖王』ではあるが、その失敗点が、確実に直後に連載開始した『妖虫』および『人間豹』に上手く昇華させているというのは興味深いことだ。

つまり『妖虫』においては、似たような青眼鏡を登場させ、その青眼鏡が『恐怖王』におけるロイド眼鏡よりも効果的に首領の役割を果たしているということだ。
確かに『恐怖王』同様に直接的な首領らしい活躍は多くは無いとはいえ、重要な役割を果たした「赤い蠍」の化身が青眼鏡の重大な関係者であり、また動機もはっきりしている点などにおいて、長編「恐怖王」の不足していた部分を上手く発展させていると言えそうだ。

同様に『人間豹』では、獣としての特長を生かした恐ろしい獣人像を描き出しているが、これは『恐怖王』におけるゴリラ男の「ゴリラに似ている人間」やら「凶暴」やら「低能」というだけの冗談のようにいい加減な設定を上手く昇華した結果とも取れるだろう。この『恐怖王』効果とこれまた従前の作品(合作だが)『空中紳士』における獅子のトリックとの融合効果が、怪物人間豹を生み出したのではなかろうか、と勝手に推測している。

最後に、ここだけの話だが、実は私は「妖虫」事件の犯人こそ真実の「恐怖王」だったのではないのかとすら疑っている。あまりにもつまらぬ妄想なので非難を浴びそうだが。
「妖虫」事件では銀幕の人気女優やらミスニッポンやらミストーキョーやら美女を次から次へと惨殺するなど、喜色満面を浮かべていた犯人だったが、「恐怖王」事件においてまず最初にゴリラとの死骸婚礼を企てて、美人に死後の屈辱を味あわせ、更には美人二人の殺害に及んでいるのだ。果たして花園京子殺害に及んだ際に「ハコ」が近くになかったと断言できるだろうか? 「ハコ」さえあればどのような不可能時も可能たらしめるのが、妖虫のはずではないか。
え、「恐怖王」事件のゴリラ男はその後どうしたかって?
それはゴリラ男は知能的には魅力の薄い生物だけに容易く騙すことができたと捉えてもいいのではないか、ゴホンゴホン。
(2009年7月10日記す)

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