「孤島の鬼」における刑事苦心


「孤島の鬼」は前半は探偵小説で、中盤以後は冒険小説的様相が強くなっているというのは前回の「孤島の鬼」梗概と感想でも記しておいた通りだ。

しかしご存じの通り、この事件の探偵小説が消えて無くなってしまったわけではない。というのもラストにおいて中盤の始めに少しばかり登場していた警察関係者(北川刑事)が再登場し事件の幕引きを担ったからだ。

この「孤島の鬼」がもし普通の探偵小説ならば、箕浦と諸戸は主役の座を北川刑事(名探偵)に譲っていたに違いない。
そして作中に出てきたように一寸法師を懐柔し、「お父つぁん」こと諸戸丈五郎の真実の息子との対決になったのだろう。
「お父つぁん」はもちろん怪人役だ。丈五郎の島には暴力性の強い恐ろしい可哀想な者たちは少なかったが、外部に出ている「お父つぁん」率いる人造人間(彼らの表現に窮したので、ここではこのように表現する)たちは「一寸法師」事件の一寸法師と同じように狂気に満ちた者も多かったに違いない。北川刑事に切っ掛けをくれた一寸法師は穏やかだったものの、あの友之助少年の悪魔の性格を見てみれば、それは至極当然と言わねばならぬ。しかも諸戸島から途中屈強な者たちが「お父つぁん」と合流しているのだ。

作中の北川刑事の活躍はわずかしか述べられなかったが、相当な苦心と対決、大冒険活劇があったことは想像に難くない。
友之助殺害事件から調査を開始したはずが、三重県の諸戸島まで発展したのだから。その人造人間製法の人外の悪意を知ったときの彼の驚愕は想像するだに見物だっただろう。
そして諸戸島に上陸後も主犯の丈五郎が行方知れずで、しかも箕浦、諸戸両人も行方不明になっている最中、白髪鬼(鬼ではないけど)の箕浦が突如としてはい出してきた時は、また人造人間の仲間がいたのか、と思ってギョッとしたに違いない。もっともその前に既に「お父つぁん」率いる人造人間集団との激しい対決を経ている上に、島で奇怪な秀ちゃん吉ちゃんを見て、話し合いすらしてるだけに、全く驚きの感覚も麻痺していたかもしれない。だからこそ、作中、警察関係者が白髪鬼(鬼ではないけど)を見ても、全く冷静に声をかけることができたのだろう。

さすがは「孤島の鬼」、裏からの眺めを妄想してみるのも楽しいではないか。



(2009年7月24日記す)

ネタバレ感想トップへ戻る / 乱歩の世界トップへ戻る