これから読まれる方へ


 これから江戸川乱歩を読んでみようと言う方を対象に、その読書する参考にでもなれば、と思い、このコーナーを設けました。(あくまで青年物の小説を初めて(あるいは数十年ぶりに)読む方を対象にします)

 まず乱歩に興味を持たれた方によって、その動機というものが異なってくるものと思います。それを次に箇条書きしてみると、

(1)TVドラマ、映画等を観て、原作も読みたくなったいうパターン
(2)子ども時代に少年物の世界に浸り込んでいた事から、ブランクを空けた後にその世界に回帰したくなったパターン
(3)推理小説ファンとして、その元祖に触れたくなったパターン
(4)昨今のホラー小説ブームから、怪奇幻想のクラシックに興味を持ったパターン
(5)情報バラエティ系列のTV番組から興味を持ったパターン
(6)幻想文学ファンから、興味を抱いたパターン


 このように分類出来るかと思います。これら以外にもあるかも知れませんが、とりあえずこの六パターンそれぞれについて、書きだして行こうかと思います。

 と、その前に、現在、本屋さんで容易に手に入る乱歩原作本の紹介をしておく必要があるでしょう。何しろ、その乱歩本シリーズをお奨めしていくわけですから、ですね。ここでは文庫本のみを対象と致します。

 トップページから行ける《小説作品収録本紹介》の中の現在発売中の各シリーズリストに連携する形で紹介していきます。

・創元推理文庫から出ている《乱歩傑作選》シリーズ。現在(2002.8)19冊出ていて、挿絵付きという嬉しい代物です。収録作リストはこちらをご覧下さい。比較的大きめの本屋さんにしか常備していないかも知れません

・春陽文庫から出ている《江戸川乱歩文庫》シリーズ・全30冊。現在手に入る中では唯一全作品を網羅しています。恐らくは大きな本屋さんにしかないのが残念な所です。収録作リストはこちら

・角川ホラー文庫から出ている7冊。角川文庫系列なので、比較的どの本屋さんでも置いてある可能性が高いのが嬉しい所。収録作リストはこちら

・新潮文庫から出ている「江戸川乱歩傑作選」。一冊しかないですが、もっとも本屋さんに置いてある確率は高いかと思います。収録作リストはこちら

・ちくま文庫から出ている《江戸川乱歩・全短篇》シリーズ全3冊。これも比較的大きめの本屋さんにしか常備してないかも知れません。収録作リストはこちら

・光文社文庫から出ている《江戸川乱歩全集》シリーズ全30冊(2005.8現在は25冊既刊)。これは現在出版中シリーズで、しかも光文社と言った大手中堅クラスの出版社だけに、入手は比較的容易かと思われます。収録作リストはこちら

 この六つの出版社から江戸川乱歩の小説文庫本は出ています。作品数どころか、出版されている点数が、これだけあると一番最初に何を読めば良いやらわからないかも知れません。そこで、あくまで個々人の可能性(プロバビリティ)の問題ですが、確実に楽しむ事が出来るかも知れない、初めての乱歩読書術というのを書いていきたいと思います。

 そこで生きてくるのが、最初に四項目挙げた、なぜ乱歩を読みたいと思ったかの第一の動機です。

 かくいう執筆者のアイナットの第一の動機は明智物のTVドラマでした。で、興味を持った作品も明智物です。これはある意味、至極当然だと思います。
もし、この私の例のように(1)で言うTVドラマや映像系、殊にそれが名探偵・明智小五郎シリーズから原作に興味を持たれた方の場合にお奨めしたい作品をズバリ挙げましょう。それは「魔術師」or「黄金仮面」or「黒蜥蜴」です。理由はと言えば、これらの作品ではお目当ての明智小五郎が最初の方から登場するからで、しかも期待に添う面白さを示してくれるかと思うからです。
(ただ「魔術師」については、「蜘蛛男」「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」という物語に繋がりのある一連のシリーズの第二作目に当たるので、第一作目の「蜘蛛男」の次に読んだ方がいいという意見もあるかも知れません。が、その「蜘蛛男」は明智の出て来るのが後半である事から、第一回目には向かないような気がします。ちなみに私が最初に読んだのは「魔術師」で、それは夢中に読んだものでした。)
これらの三作については、何れも創元推理文庫の乱歩傑作選で読む事が出来ますので、出来る限り挿絵の付いたこのシリーズで読まれる事をお奨めいたします。確かに全作品は揃いませんが、この挿絵はそのデメリットを優に覆い尽くすメリットがありますと言いきれるので。

 また同じ(1)の映像系から興味を持たれたにせよ、それが明智とは無縁の怪奇幻想作品であった場合です。この場合は、短篇集がよろしいのではないかと思います。角川ホラー文庫「鏡地獄」は怪奇幻想系列の傑作を集めた中短篇集です。

 次に、(2)の少年物世界に浸った思い出を持っている方ですが、これもその延長線上から楽しめるという意味では、明智探偵も出てきて相手役も某有名紳士怪盗という「黄金仮面」が最初に読む作品には最も相応しいかと思います。次点はやはり「黒蜥蜴」「魔術師」でしょうか。また「暗黒星」もいいかも知れません。

 さて、(3)の現在の推理小説ファンの場合です。このケースは素直に処女作「二銭銅貨」からの初期本格推理を読んでいくのがベストかと思います。創元推理「日本探偵小説全集」やちくま文庫の全短篇1で読めます。また中篇では「何者」「陰獣」辺りが良いかも知れません。

 続けて、(4)の怪奇幻想小説ファンの場合ですが、これも(1)の怪奇幻想映画と同様に、角川ホラー文庫「鏡地獄」がお奨めです。表題作他「人間椅子」「芋虫」「パノラマ島奇談」にはきっと夢中になれるかと思います。また長篇では「孤島の鬼」(創元推理文庫など)

 今度は(5)のTVの情報バラエティ番組から興味を持たれた方です。これは番組の内容によりますので、一概に言えませんが、番組内で言及された作品から読まれるのが一番良いだろうと思います。文庫別収録作品については、上の方からリンクしておりますので、そちらから参考頂ければと思います。

 最後に(6)の幻想文学ファンですが、このケースでは純粋な幻想小説の傑作「押絵と旅する男」を第一に読んで頂きたい物です。これは普通の文学小説を好む人にも言える事ですね。と言う事で、ちくま文庫「江戸川乱歩全短篇 III 怪奇幻想篇」や春陽文庫「屋根裏の散歩者」などの「押絵と旅する男」収録文庫を第一にお薦めしたい所です。



 以上、それぞれのパターンについて、私の勝手な見解の基に、最初に読む乱歩原作を奨めてみたわけですが、これらの作品をきっと楽しんで頂けるのではないかと思います。。第一作目に夢中になれれば、次はある程度、何れでも良いと思います。あとはこのサイトなどの紹介が参考になれば、と思います。(2002/8/3初稿【同8/6改訂】 アイナット生)



追記(2005/07/17)】
 初稿以降に刊行されたため漏れていましたが、いきなり最初の方から出来るだけ全ての作品を読み集めたいと言う方もいるでしょう。また少年物も読みたい、読み直したいという人もいるでしょう。また随筆評論も読みたいという人もいるでしょう。
そういう皆さんにお勧めなのが、光文社文庫版の江戸川乱歩全集 全30巻(予定)です。おそらく本年度中にはコンプリートされる見込みと思われます。このシリーズを集めれば、現在手に入る中では、同じ文庫本で最大限の作品を読むことが出来るため、全作品を読み集めるんだという強い動機があるようでしたら、この光文社文庫版を強くお勧めします。




2005/07/17 本文改訂
出版社に江戸川乱歩全集刊行中の光文社を加えました。

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