《第5話 「めぐりあわせ」》のネタバレ感想


出典:(コミックバンチ2004年30号(7月9日号(実際は6月25日発売日)))


野上は自家用車で野上家具店に戻ってきていた。しかし消えぬは大事な椅子を傷つけられた怒り。佳子の仕業であると勘違いしているのだ。まぁ、普通に考えれば、あの場合で佳子以外に椅子をナイフで刺せる可能性なんて考えられない。野上の勘違いは妥当であり、仕方がないものだ。誰もが家具の中の人の暴挙とは思わないだろう。日常に生きている我々だって頭の隅にだって存在しない考えだ。

ところで、番頭のおじさんによると、その野上家具店は創業二十五周年記念の祝賀会をやるそうだ。そこで柏木佳子に言葉を頂戴することが野上の若旦那の役割だったそうだが、今の野上は役割を果たせそうにない。それを番頭に任せることにすると同時に、佳子の安楽椅子の背張りの張り替え修理をするように命じたことは、野上の佳子に対する愛情ゆえか、それとも椅子に対する愛情ゆえか。

一方の佳子、身に覚えのない濡れ衣まで着せられてしまい、謎の切り傷について不思議に思うが、その切り傷に顔を近づけて軽く調べてみる。そうなると、一人手に汗握る必要が生じるのは人間椅子の桐畑。呼吸音さえも止めようと必死になって、身を潜めようとする。しかし私が思うに呼吸じゃなくて、焦りから生じる心臓音の方が問題のような気がする。で、幸い佳子の詮索は長続きしなかった。例の野上家具店の番頭のおじさんが尋ねてきたのだ。

桐畑は勘がいいのだろう。トラック付きで野上家具店から従業員が来ていることで、電光石火のスピードで椅子を修理に出すことを察したのだ。そして判断力は桐畑を自身の工房へ急がせる。中の人間椅子になれる構造をみられたら桐畑には生きていける場所はなくなるのだ。まして弟子にみられては・・・。それはそれは特急のスピードで駆け抜ける。

番頭は噂の椅子の異常な重さがないことを気にしながらも、野上家具店のトラックに載せた。そこへやって来たのは佳子。佳子も工房へ行くというのだ。番頭はその必要もないし代金も要らぬと決まり切ったことのように言うが、佳子は譲らなかった。もはや佳子の椅子、金やらの面倒は佳子みたいと云う。事情を知らぬ番頭としては困った状況だっただろう。ちなみにだが、二十五周年の話は確認できなかった。

急ぐ桐畑、路面電車に乗って、辛うじて間一髪で、同時到着出来た。そして佳子と対面してしまったのだ。桐畑はただただ急ぐばかりで、佳子自身が来ることを想定していなかったのだろう。ところが、工房に間に合ってみれば、この衝撃。椅子という触感の世界の一方的恋人の前に、桐畑は生身の躯をさらけ出してしまう。まさに動揺が走っても仕方のないことだ。幸いなことに、佳子と野上商店の番頭、そして桐畑の弟子は、そんな桐畑の動揺に驚いたものの、佳子が有名作家ということから、桐畑が佳子を雑誌か何かで知っていたので驚いたと早合点してくれたので、その場は納まったが、はたして桐畑は椅子という隠れ蓑無しで、佳子と応対していけるだろうか。今後、人間椅子が視覚で認識してしまった女の感触に楽しめるのだろうか? という疑問を残しつつも、今後の展開が待たれる。



と、まとめると、今回は安楽椅子の修理までの過程と衝撃の邂逅が注目。椅子として触感だけのの世界に生きた男が、人間として、その主と、視覚を中心とした五感の当たり前の世界で出会ってしまうのだ。ファンタジーで良くありありそうなシチュエーションだが、ドロドロの生々しい現実世界での衝撃の程は生半可な物ではない。これが今回の注目点だった。

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