《第4話 「兇器」》のネタバレ感想
出典:(コミックバンチ2004年29号(7月2日号(実際は6月18日発売日)))
今回は人間椅子再び、佳子と野上の確執。小刀でシートをグサりなどと見どころは満天。ただ野上と佳子のやり取りは面白いが、桐畑と人間椅子絡みの方は多少短絡的展開の感じも受けた。今後のプロットは大丈夫なのか?
タイトルの兇器とは前回で最後で出てきた佳子へのオマージュとなるはずのよく切れる小刀。これが話に絡んでいくのだが、原作「人間椅子」にも触れられた隠れ蓑殺人ネタが少し面白かった。
以下、詳細なネタばれレビュー。
いくら佳子に切れ味抜群の小刀を託したいからと言って、桐畑のやっている行為は泥棒と同様。文字通り、真っ昼間から窓から書斎へ忍び込む。桐畑の言う最後のオマージュを佳子に捧げるためとは言え、あまりにも犯罪的。
しかも案の定、その書斎へやって来る気配を感じさせる佳子。それも当然で、何せ作家の佳子にとっては書斎を離れることの方が珍しいことなのかも知れない。
ともかくも、桐畑は間一髪で、再度椅子という隠れ蓑に身を包むことになる。そこに聞こえてくるのは野上と佳子の話。
佳子の悩み、それは容赦ない批評にたじたじになっているのだ。今をと時めく流行推理作家柏木佳子と最初に軽々しく持ち上げられながら、その後に続くは破綻した論理への批判。謎かけ名人、混沌とした未消化の謎という海にて土左衛門にならぬことを祈りますヨ、といったような皮肉に満ちた記事。まるで「猟奇」(※)の辛口コラムだ。
そこに野上の嘲笑。小説に対するこの男の認識は所詮「戯言」2文字に過ぎぬ。加えて更に言うかこの男、女でここまで書ければ充分過ぎるだろう、発言までしてしまうのだ。
案の定、佳子は野上に馬鹿にされていると認識。詰め寄るが、野上の口から漏れるは更に拍車がかかるばかり。つまりは極上の椅子を進呈したりしたんだから、佳子は辛口批評などには相手にせず、もっと大様に、そして作品を大量生産さえしていればいいというのだ。野上曰くに、女流作家という現実だけで魅力的で、小説の内容は二の次、三の次と言うことらしいのだ。恐るべきは野上の傲慢無神経さだ。
椅子の中の桐畑は、その野上に怒りを感じていた。桐畑に取れば椅子に腰掛けているのが野上であるというのは自明の理。そして原作の人間椅子が頭に描いたように、桐畑もまた頭に思い浮かべる。そして尚悪いことに衝動的に持ってきた小刀で椅子の背を突いたのだ。これも捕まれば、かっとしてやった、今では反省している。となるのだろうか。しかし椅子の中にいた理由は層単純にはいかないだろう、危うし桐畑。
という私の心配も杞憂に終わったので幸いだった。偶然の神の悪戯によって、野上は巧みに避けていたのだ。そして椅子の背にナイフの傷が残る。
その傷痕から桐畑の視覚が復活する。こうなると人間椅子の威力はまったくないが、ともかくも桐畑は初めて佳子の顔を知るに及ぶ。
一方野上の方は相変わらずの佳子に佳子保護のための考えを述べ続けるが、ついに佳子が爆発してしまう。偽善的説教、低俗な考えの人などと野上に失望したと。
献身愛だなと思っていた野上には、考えられるはずもなかった佳子の反撃に、野上は捨てセリフを残して立ち去る。佳子は桐畑の椅子のシートに顔を付けて涙するが、一人悦にはいるのは桐畑。慰め役にでもなっている気分なのか?
そこへ忘れた上着を取りに来た野上。そこでさすがに殊勝に謝罪の言葉を口にするが、そこで見付けてしまった椅子の刀刺し傷。佳子が腹いせにやったと思い、更に佳子を責めるが、佳子は当然知らぬこと。結局、最悪の仲違い。
桐畑は刺殺間一髪の衝動に衝撃を感じ。椅子という魔の世界の仕業に転嫁しようとしていたが・・・。
※「猟奇」……昭和三年(1928)から昭和七年(1932)まで、中断を含みつつも、続いた探偵小説専門雑誌の一つ。短篇収録を種としており、その短篇にも目立ったものはないが、読者投稿の辛口コラムでは一般の探偵小説ファンの軽くも重い寸評を載せるなど、その果たしてきた役割は大きい。参考までに、現在は、光文社文庫の『「猟奇」傑作選』が出版されている。
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