復刻版「新青年」を読んでの感想〔大正十一、同十二及び同十三年〕


新青年 大正十三年第十四號(十二月號)=一册五十錢

「財布」/本田緒生/9ページ(2000/11/18読了)
これも完全に面白みに欠けたもの。会社を首になるなど癇癪を起こしていた主人公は思わずスリのようなことをしてしまい、罪悪感に囚われてしまったものの、最終的には何でも無いばかりか、別口で金を得る話。ただスリには変わりなく、同じような題材の山下利三郎の「頭の悪い男」にはもちろん、並レベルの「裏口から」にすらも全然劣る低レベルのものだ。(我ながらボロクソ言ってるな(汗)


新青年 大正十三年第七號(六月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「二癈人」のある号。13ページ


「琥珀のパイプ」/甲賀三郎/22ページ(2000/11/16読了)
二つの事件が美事に複雑怪奇に混ざり合ってるのを松本名探偵が解き明かす。この本格ミステリも甲賀三郎の化学知識を生かしつつ、全く最後の驚くべき真相、この演出は心憎いばかりではないか、あまりにネタばれになるから伏せておくが、例の探偵小説では有名な目くらましトリックに出くわすとは思いもよらなかった次第である。主人公が琥珀のパイプを見るたびに、冒頭文の通りにゾッとせざるをえないのもよくわかるというものだ。


「孤兒」/水谷準/10ページ(2000/11/18読了)
まぁ、論理的にも無理があるし、せいぜいが並だろう。二人の兄弟のような仲の孤児の一人に実は父親がいて、しかもその父親が莫大な遺産を残して死んだということから皮肉な事件が勃発する・・・・・・。


「裏口から」/山下利三郎/14ページ(2000/11/18読了)
不景気のせいで定職を失ってしまった主人公は信じていた神からも見捨てられた心持ちがして、やけっぱちになっていた。とそこに裏口があいている家を見つけて思わず泥棒に墜ちるところだったが・・・・・、特に意外性もなく大したものではない。善人を悪に導かぬ神様の話というべきか・・・。


新青年 大正十二年第十三號(十一月號)〔帝都復興號〕=一册五十錢

※江戸川亂歩「恐ろしき錯誤」がある号である。ちなみに27ページ
(越野氏の事件は「赤い部屋」で云々の附記があり、東京創元社の乱歩選「算盤」を確認しても復刻されていないようなので、後日写して引用させてもらうことにする。〔よく見たら解説に収録されていました。まぁ、一応引用文は残しておきます。〕)
それでその「恐ろしき錯誤」末尾に付せられた文がこれ。(新字体版はこちらの説明ページを参照)
(附記)初め、作者は越野氏の事件に重點を置くつもりだつた。その意圖から云ふと、こゝまでは越野氏の事件に入(い)る前提に過ぎないのだつた。併し、作者はこゝまで書いて來て、ふと氣が變つた。越野氏の事件はそれ丈けを切離して一つの小説にした方がもつと面白いものになるといふ氣がして來た。それと、一つは時間のなかつた關係もあつて、この話には兎も角これでお終ひにすることにした。さういふ譯で、この話には全體に亙つて越野氏の事件に對する伏線が敷かれてあるので、これ丈けのものとして見ると少なからず變な感じがするかも知れない。だが、確かに一段落はついてゐると思ふ。越野氏の事件は多分『赤い部屋』と題して發表することになるだろう。


「カナリヤの祕密」/甲賀三郎/28ページ(2000/11/13読了)
二人の類似した毒瓦斯中毒事件を扱ったなかなかの秀作である。カナリヤという謎の最期の言葉から名探偵の橋本が事件の謎を解明する。なお、この作品にも良く出る科学知識、前號第十二號(大震災記念號)に本名の工學士 春田能爲名義で「探偵小説と化學」という評論を書いている。これが甲賀三郎の新青年初登場であろう。


「ある哲學者の死」/山下利三郎/26ページ(2000/11/15読了)
哲学者がある人の会合上のセリフを鵜呑みにして自殺したという展開だったが、ラスト二ページの二重のどんでん返しにはまさに驚愕の一言。


新青年 大正十二年第九號(八月號)=一册五十錢

二人の罪人(つみびと)」/田中健三郎/6ページ(2000/11/15読了)
懸賞二等當選とのことだが、全然面白くない。二人の罪人が登場し、軽罪の方が重罪がいるにも関わらず逮捕されるのがいかにもおかしいということが表したいらしいが。


新青年 大正十二年第五號(四月號)=一册五十錢

※江戸川亂歩「二錢銅貨」(作品説明)がある号である。ちなみに20ページ+小酒井不木の「「二錢銅貨」を讀む」2ページ+亂歩「探偵小説に就いて」2ページ


頭の悪い男」/山下利三郎/9ページ(2000/11/11読了)
非常に面白いものであった。最後の主人公の様子を想像するとプッと吹き出しそうにもなる。つまりは表題通り、主人公は頭の悪い男であるのだが、それゆえのとんでもない邪推と悪人になる勇気がないばかりに(もっともこれは良いことだが)とんでもない間違いをしでかしてしまうというもの。


詐僞師」(さぎし)/松本泰/6ページ(2000/11/11読了)
大した作品ではない。ただ二重の意味で詐欺が行われていた、それだけである。ちなみに目次上のタイトルでは「詐欺師」になっている。


山又山/保篠龍緒/22ページ(2000/11/11読了)
新青年でも翻訳を頻繁にしていた保篠氏(00/11/13に春日野緑氏と同じ人だと気がついた〔※〕)の創作探偵小説。暗號あり、ダイイング・メッセージありと、材料的には興味深い点が多いがいかんせん小説というか事件が今一つで、しかも比較的長いものだから少々怠さを感じた。
〔※後日、再度保篠氏と春日野氏が別人だと気がついた(笑)詳しくは、とりあえず割愛。一言でだけ、本名がそっくりなのだ。


新青年 大正十二年第三號(二月號)=一册五十錢

ブルドック」/田中健三郎/4ページ(2000/11/11読了)
=懸賞一等當選=こちらは探偵小説である。タイトルにもなってるブルドックが出てきたところでネタがバレるというものでペテン的な要素が強い。


」/加藤鉦一/8ページ(2000/11/11読了)
=懸賞一等當選=とあったので読んだが、青年小説の部であった(笑)ということで普通小説。


新青年 大正十一年第十四號(十二月號)=一册五十錢

好敵手」(かうきしゅ)/水谷準/4ページ(2000/11/11読了)
=懸賞一等當選=作品。ある意味ペテンにかけ犯行を露顕させてしまうというもの。ほんの短い掌編だが読後の痛快感は十二分である。


新青年 大正十一年第六號(五月號)=一册三十錢

佛蘭西製の鏡」(フランス〜)/藤田操/6ページ(2000/11/11読了)
=懸賞一等當選=作品。ちなみにライヴァルには次点に「夜光珠」の角田喜久雄、他に「脅迫者は何處に」の横溝正史、「眞鍮の鋲」の安田城西、「呪はれた美男子」の山本寂夕、「絨氈(せん?)の下」の馬場多缺志が最終候補として森下雨村の机に残ったそうだ。作品については本格形式であり消えた宝石の行方を突き止めるというもの。鮮やかな解決がこころにくい。