十字路

登場人物(ダブり含む)
伊勢省吾,沖晴美,伊勢友子,田中倉三,白犬,真下幸彦,相馬芳江,相馬良介,ガソリンスタンドの男,トラックの男,十字路の警官,バー「桃色」のマダムの桃子,客引き女,松葉杖のマリ子,香住万里子,南重吉,南探偵事務所の少年給仕,花田警部,和子など伊勢家女中の三人,島村たみ子,山際夫人

主な舞台
青梅街道から多摩川沿いに谷沢町更に山道を行くと行ける藤瀬部落,銀座,青山高樹町の若葉荘アパートの晴美の部屋,神宮外苑前のガソリンスタンド,新宿近くのガード下十字路とその近くの交番,新宿花園街のバー「桃色」,西銀座の洋装店カズミ・マリー,銀座の南探偵事務所,豊島区千早町三丁目の相馬のアトリエ,警視庁,銀座通りの志摩真珠店,三光町,目白の伊勢の家,麻布六本木の日輪教教団本部,丸の内の伊勢商事,西銀座のフランス料理「鳳来」,渋谷区代々木富ガ谷町の代々木アパートの真下幸彦家

※真下幸彦のアパートだが、【エピローグ】では代々木の白銀アパートになっている。引っ越しか、別称か?ちなみに代々木アパートは【花田警部】の章。

作品一言紹介
人を思わず殺してしまうと、考えることは死体の処理とアリバイである。主人公の伊勢の着想した死体の隠し場所はそれにはもってこいの場所だった。しかしその閃きの計画は、十字路での意外な予想だに出来ない一大事件により、別の方向から破綻の憂き目を見ることになるのである。さすがに良く構成されていてそれなりの面白さはある。ただ、よく言う乱歩らしさは全く絶無であり、乱歩の小説らしからぬ普通すぎることがこの作品の最大の欠点になっている。加えて、そのリアル路線のわりに都合の良すぎる「偶然の相似」があったりすることが更に欠点を深めている感じがする。

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【プロローグ】【若葉荘】【十字路】【松葉杖の女】【闖入者】【湖底の秘密】【南探偵事務所】【好敵手】【犯罪交叉点】【二人の孤独者】【花田警部】【対決】【第二の殺人】【破局】【エピローグ】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
松葉杖の女】→【松葉づえの女】,犯罪交叉点】→【犯罪交差点】,【二人の孤独者】→【ふたりの孤独者

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 講談社「書下し長篇探偵小説全集」第一巻に書きおろした長篇。私は戦前から現在までに、書きおろし長篇全集に三度参加している。
(1)昭和七年、新潮社「新作探偵小説全集」(十巻)の第一巻「蠢く触手」
(2)昭和三十年、講談社「書下し長篇探偵小説全集」(十三巻)の第一巻「十字路」
(3)昭和三十四年、桃源社「書下し推理小説全集」(十五巻)の第一巻「ぺてん師と空気男」
 三回とも私は乗り気ではなかったのだが、みんなが書くのだから、あなたがはいっていなくてはおかしいというので、止むを得ず書くことになったものである。(1)の新潮社の全集の場合は、第一巻だけれども、配本はずっとあとにしてもらったが、それでも自分で書くことができず、友人岡戸武平君にたのんで代作してもらった。筋を作るときには、いくらか相談したけれども、実際筆を執ったのは岡戸君であった。したがって、この作は私のどの全集にも入れていない。
 (2)の「十字路」は、筋を立てるのに、初期からの探偵作家クラブ会員渡辺剣次君に助力してもらった。作中の雄大なトリック、ダムの湖水の底に死体を隠す着想や、新宿の十字路で二つの殺人事件が相交わるという着想は、渡辺君の創意によるものであった。渡辺君の立ててくれた筋を、私に書きやすいように多少の変更を加えて、文章は私自身が書いた。したがって、これは半ば以上私の小説といっていいので、全集にも入れることにした。
 この小説は発表の当時、好評であった。中には、江戸川乱歩はこういう従来とはちがった作風に転身するのではないかと言ってくれた人もある。こういう傾向は、これより前、昭和二十八年、「宝石」の連作小説で私が第一回五十枚を書いた「畸形の天女」にも見られるもので、私自身もその方向へ転身しようかと一時は考えたのだが、結局それはつづかなかった。やはり初期の短篇や、その後の通俗長篇などに現れているものが、死ぬまで直らない私の性格なのだろうと思う。
 (3)の「ぺてん師と空気男」は、これも少しも乗り気ではなかったのだが、桃源社の矢貴社長の根気にまけて、ずいぶんおくれたし、枚数も少なかったけれども、自分で書きあげたものである。この作については第十七巻の「あとがき」にしるしたので、ここにはくり返さない。


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