幽霊塔


登場人物(ダブり含む)
私(北川光雄),児玉丈太朗,渡海屋一郎兵衛,お鉄婆さん(長田鉄),和田ぎん子,野末秋子,三浦栄子,久留須次郎,ルンペン風の薄汚い小僧,花屋敷館の関係者,肥田夏子,肥田の猿,赤井時子,軽沢氏,軽沢家使用人(女中や書生),軽沢夫人,虎,児玉家召使い(女中や書生),烏婆さん,青大将紳士(長田長造),黒川太一弁護士,岩淵甚三,K町の医師,森村刑事(名探偵),池探索の二人の人夫,M駅近くにいた車夫,岩淵家の老婆,医学士の股野礼三,佝僂少年,芦屋暁斎,看護婦,芦屋家老人,黒川家書生,その他警察関係者など

主な舞台
長崎県の山に包まれたKという町から、半里ばかり奥に入った山裾=時計屋敷,K町〈花屋旅館,千草屋周辺〉,長崎市〈軽沢邸,黒川事務所,長崎市西浦上村滑石養虫園=蜘蛛屋敷(最寄りは長崎市手前のM駅)〉,東京市麻布区今井町二十九番地=芦屋暁斎の西洋館など

※(ちょっとした“うんちく”)
1.東京市麻布区今井町とは現在の港区六本木3丁目〔4番地、2番地の一部、5番地の一部〕、六本木2丁目全域、六本木4丁目〔1番地、2番地の一部〕あたりに相当する。また東京市麻布区今井町29番地は昭和16年の地図によると今で言う港区六本木4丁目1番地あたりか!?(この話は大正4年のもの)
2.長崎市西浦上村滑石養虫園と肥田夏子は言ったが、間違いなく長崎県〜の言い間違いであろう。なぜなら昭和12年の時点でも西彼杵郡に所属しているからである。一応言えば2000年現代でギリギリ長崎市内。なお、M駅=道ノ尾駅(次の3参照)の北西の方角にある。
3.M駅は長崎市の手前ということで、間違いなく道ノ尾駅であろう。大正5年当時の地図では、まさに長崎市の手前に当たる。諫早側に小さな川もあるようだ。
4.幽霊塔最寄りの駅もあるK町、これの絞り出しには少々手こずった。条件は長崎県内で国電のK駅のあるK町である。まずK駅を探すと、長崎市にほど近いところに喜々津駅を見つけた、しかし昭和12年の時点でも残念ながら喜々津村であった。ということで×。次に少々遠くなるが、長崎本線に小長井という駅を見つけた。だが、ここも小長井村・・・、またハズレ×だ。長崎本線はこれで全滅、仕方なく佐世保までの佐世保線をチェックする。すると、昭和12年の地図で現在でもそのまま存在する東彼杵郡川棚町を発見。川棚駅も大正5年の地図で確認、さて決定かと思いつつも大正5年の大まかな地図では川棚町か川棚村かは判断できなかった。あと佐世保線から長崎まで直通汽車があったのかも調査出来なかった。しかしそれでも川棚町しかK町に該当する町が皆無なので、私はおそらくK町=川棚町と信ずることにする。それでそうだとすると、幽霊塔(時計屋敷)は川棚駅(K駅)の北にある山の方にあるかと予想することが可能であるのだ。

作品一言紹介
北川は叔父が入手した時計塔に下検分に行った。そこは二人の幽霊の噂及びそれに関連して財宝が隠されてるという。そしてその際に謎の美しき女野末秋子に出会ったのである。更に言うなら秋子の謎の部分は話が進むにつれて謎が謎を呼ぶとばかりに深まるばかりで、まさにこの物語の中心であるのだ。その秋子の過去に遡る世にも驚くべき秘密とは何であったか?また時計塔に潜む財宝の秘密とは?そしてこの物語の主題であろう、秋子を巡る熾烈な恋の行方は?

章の名乱舞(講談社の推理文庫参照)
【時計屋敷】【怪美人】【深まる謎】【何者】【神秘の呪語】【大魔術】【虎の顎】【電報の主】【青大将】【黒川弁護士】【復讐戦】【血を流す幽霊】【猿の爪】【密室の毒刃】【手首の秘密】【名探偵】【異様な風呂敷包み】【意外意外】【暗夜の怪人】【大椿事】【蜘蛛屋敷】【鎖の音】【暗がりの部屋】【佝僂少年】【ポスターの眼】【恐ろしき陥穽】【芦屋暁斎先生】【毒草】【鏡の間】【地底の秘密】【二つの顔型】【人間創造】【恐しき真実】【手首の傷痕】【闖入者】【異様な取引】【緑盤の秘密】【機械室の囚人】【奥の院】【地獄図絵】【極悪人】【大団円】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
【時計屋敷】→【とけい屋敷】,【深まる謎】→【深まるなぞ】,【虎の顎】→【トラのあご】,【復讐戦】→【ふくしゅう戦】,【猿の爪】→【サルのつめ】,【異様な風呂敷包み】→【異様なふろしき包み】,【大椿事】→【大珍事】,【蜘蛛屋敷】→【クモ屋敷】,【暗がりの部屋】→【くらがりのへや】,【佝僂少年】→【せむし少年】,【ポスターの眼】→【ポスターの目】,【地底の秘密】→【地底の密室】,【手首の傷痕】→【手首の傷あと】,【異様な取引】→【異様な取り引き】

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
「講談倶楽部」昭和十二年一月号より翌十三年四月号まで連載。第八巻の「白髪鬼」とこの「幽霊塔」とは黒岩涙香の翻訳をわたし流に書き改めたもので、したがって「白髪鬼」の「あとがき」にもしるした通り、涙香の息子さんの黒岩日出雄氏に諒解を求め、謝礼をした上で執筆したものである。「白髪鬼」の原作はコレリの「ヴェンデッタ」と、はっきりしているので、私もそれを読むことができたが、この「幽霊塔」の原作はどうもよくわからない。涙香本の序文には The Phantom Tower, by Mrs. Bendison (アメリカ作家)と明記してあるけれどもアメリカの探偵小説史、通俗小説史などにはベンディスンという作者はどこにも出ていない。これほど面白い小説がダイム・ノヴェル研究家の記録にも残っていないのは、まことに不思議というほかはない。したがって、私は原作を読まないまま、涙香の翻訳のみにもとづいて、これをわたし流に書き変えたにすぎないのだが、最後の人間改造術のところは、第七巻「猟奇の果」についてもしるした通り、涙香の本では何か神秘的な霊術のように書かれているのを、私はもっと科学的な整形外科手術に書き変えている。それからずっと後になって、私はアメリカの「大統領探偵小説」を読み、私と同じ着想が、私より一層詳しく書かれているのに驚き、「類別トリック集成」(早川書房版「続幻影城」に収む)の中の「異様な動機」の項に詳しくこれを紹介した。この人間改造術は隠れ蓑願望または変生願望を科学的に実現させる手段であって、あの子供のころからの夢がそのまま実行できるという深刻なる快感を伴うわけだが、私は人一倍隠れ蓑願望にあこがれる性格だから、機会さえあれば、重複をいとわずこのことを筆にしているわけである。

※(註1)上の乱歩による作品解説は、昭和36年からの桃源社版江戸川乱歩全集に載っていたものを、河出文庫が再録してるもので、ゆえに巻数はその全集のもの。
(註2)連載スタートは昭和十二年三月号からの間違い。

比較的最近の収録文庫本
角川文庫・江戸川乱歩作品集『芋虫』
講談社文庫・江戸川乱歩推理文庫『幽霊塔』
春陽文庫・江戸川乱歩文庫『幽霊塔』
創元推理文庫・乱歩傑作選『幽霊塔』


(注意)残念なことに角川文庫と講談社文庫は品切・絶版中・・・


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