ぺてん師と空気男


※異本たる春陽堂バージョンに於ける異題は『ペテン師と空気男』

登場人物(ダブり含む)
野間五郎(わたし:語り手=空気男),四十くらいの奥さんらしい人,伊東錬太朗,幹部社員らしき五十の洋服男,伊東美耶子,伊東家女中シゲ,金物屋の店員と主人,床屋の主人とその周辺の人,バスの女車掌や乗客,重役風の洋服紳士,厚化粧の婦人,酒巻(下町の料理屋主人),区役所の戸籍課長,京成大学助教授,箕浦(傷痕のある義眼の男),警察関係者,宇宙神秘教関係者など

主な舞台
東京駅,沼津駅,沼津駅近くの旅館,国電東海道線下り二等車内,青山高樹町の木造洋館;伊東邸,六本木;野間のアパート,青山へんのとある町,渋谷区穏田

※(ちょっとした“うんちく”)
青山高樹町はこのお話の時点(第二次大戦中期頃)では赤坂区であり、麻布区と渋谷区の区界に位置していた。なお現在の住所は港区南青山六丁目,七丁目の大部分に当たる。

作品一言紹介
わたしこと野間五郎は凡人中の凡人と言う意味で「空気男」と呼ばれていた。その野間五郎がある日二等車内で不思議な人物に遭遇する。その人物こそプラクティカル・ジョークの名手たる伊東錬太朗であった。野間も彼との出会い以後、その伊東とその美しい妻の美耶子らとともにジョークに興味を抱くようになっていくのだが・・・・・・。果たしてそのジョークの世界とは如何なるものであったか・・・・・・?

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【空白の書籍】【金の壺】【ジョーカー】【「田園の憂鬱」】【青写真】【喧嘩バス】【重役と婦人会長】【眼中の国旗】【ジョークと犯罪】【眼と歯】【贋造人間】【犯人あかし】【降霊術】【殺人ごっこ(一)】【殺人ごっこ(二)】【破局(一)】【破局(二)】【監禁】【地下室】【空気男の推理(一)】【空気男の推理(二)】【宇宙神秘教】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
【「田園の憂鬱」】→【『田園の憂鬱』】,喧嘩バス→【けんかバス】,眼と歯→【目と歯】

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 昭和三十四年、桃源社の「書き下し推理小説全集」第一巻として執筆したもの。古くは昭和七年、新潮社の「新作探偵小説全集」、戦後では、講談社の「書き下し長篇探偵小説全集」など、探偵小説界の主な人たちが揃って長篇を書くというような場合には、私の作を第一巻に入れる慣例になっていたので、私が書かなければ全集が出ないのだとおどかされ、無理をしておつき合いをしたものである。この「ぺてん師」もそういうわけで、桃源社々長の矢貴さんが数え切れないほど拙宅を訪問して、おだて、はげまし、おどかし、あらゆる手段をつくして督励されたおかげで、やっと書きあげたものである。
 そのころ私は西洋のプラクティカル・ジョーカーの逸話集のようなものを愛読していたので、その実例なども取り入れて、この一篇を書きあげた。「空気男」の方は大正十五年「写真報知」に連載しはじめて間もなく、同誌が廃刊になったので、そのまま中絶していたのだが、その同じ主人公を、この書き下しに登場させたのである。しかし、出来上がったものはジョーカーの話ばかりで、空気男の方は、ほとんど書けていない。
 プラクティカル・ジョークというものは、読んでは非常に面白いのだが、さて書くとなると、私のがらではないので、今読み返してみても、この小説は筋も登場人物の描写も、全体になんとなく稀薄な感じを受けるのである。 

比較的最近の収録文庫本
角川文庫・江戸川乱歩作品集『影男』
講談社文庫・江戸川乱歩推理文庫『堀越捜査一課長殿』
春陽文庫・江戸川乱歩文庫『ペテン師と空気男』

(注意)残念なことに角川文庫と講談社文庫は品切・絶版中・・・


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