登場人物(ダブり含む)
大真珠陳列台の四人の看守(中年男と三人の少女看守),お茶の男,黄金仮面,大博覧会の警察官たち,看守監督の男,喜劇「黄金仮面」の見物たち(勇み肌の職人ていの男など),喜劇「黄金仮面」の黄金仮面役の役者,「産業塔」下の群集たち,探照燈係という背の高い男,消防夫の粂さん,青年団,探照燈係の男,鷲尾正俊,鷲尾美子,千秋,F国大使ルージェール伯爵,ルージェール伯爵の秘書官(=書記官)と通訳,警視庁捜査課係長の波越警部,鷲尾家侍女の小雪,鷲尾家執事の三好老人,木場,鷲尾家書生,明智小五郎,地方(日光)の警察署長,鎧武者の男,S湖の漁師,きこりの女房といった風体の四十女,鼻たれ小僧,田舎親爺の旅人,大鳥喜三郎,大鳥家執事の尾形老人,大鳥不二子,不二子の乳母のお豊,大鳥家書生の青山,大鳥家女中,運転手,開花アパートのボーイ,明智の隣室に住む会社員O氏夫人A子さん,開花アパートの小使,警視庁H捜査課長,大工職D,刑事部長,F国大使の二名の秘書官(浦瀬七郎とF国人秘書官),F国実業家代表歓迎大夜会の関係者たち(英国大使館一等書記官のB氏,L氏,米國武官令嬢,メフィストフェレスの仮装者),警視総監,アルセーヌ・ルパン,ルパンの部下五人,検事のE氏,エベール,川村雲山,川村絹枝,川村家使用人たち,白い巨人のフランス人,シャプラン青年,帝国ホテル関係者(支配人,玄関番ボーイ,部屋ボーイ),S飛行場の群衆たち,木更津の漁師のお神さん,その他警察関係者
主な舞台
上野公園,日光山中の鷲尾侯爵家の別邸,C湖とその周辺,お茶の水の開花アパート(表の電車通、川にも面してる場所),戸山ガ原の怪屋,麹町の大鳥家,日比谷公園,警視庁,麹町区Y町F国大使邸宅(大使館内),麹町区M町の川村雲山邸,銀座界隈(カフェ・ディック,電車道,百貨店,尾張町,日比谷公園前の帝国ホテル),横浜の少し向こうの神奈川県O町,京浜国道,S飛行場,木更津付近の海岸
※(ちょっとした“うんちく”)
日光山中のC湖とは、まず間違いなく中禅寺湖のこと。確かにこの広さの湖の真ん中で船が沈没し、もし救助がなければ危険極まりないだろう。
作品一言紹介
黄金の仮面を被った金ぴかの怪人の登場。この神出鬼没の黄金仮面はなぜかその裂けた口から血をタラリタラリと流しつつ、狙った古美術品を蒐集していくのである。この怪人に挑むるのはご存じ名探偵の明智小五郎。しかしさすがのこの名探偵も稀代の怪盗・黄金仮面の前には苦戦の連続。さてさて、ワールドワイドにまで拡がる壮大な大犯罪の果てはいかなるものだったか!?大鳥不二子さんと圧倒的な国宝・玉虫厨子の運命はいかに!
章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【金色の恐怖】【大真珠】【恐ろしき喜劇】【黄金のヤモリ】【大空の縊死体】【怪しき声】【美子姫】【小美術館】【浴場の怪人】【A・Lの記号】【意外! 意外!】【鎧武者】【奇妙な呼吸器】【第二の殺人】【恐ろしき水罠】【名探偵の腹痛】【黄金仮面の恋】【怪賊現わる】【恋の魔力】【悪魔の妖術】【金色の戦い】【金色の錯覚】【月光の怪異】【「モロッコの蛮族」】【名射撃手】【死体紛失事件】【大夜会】【「赤き死の仮面」】【金色の死】【アルセーヌ・ルパン】【ルパン対明智小五郎】【人体溶解術】【ひらけセザーム】【驚天動地】【アトリエの怪】【異様な自殺】【密室】【仏陀の聖堂】【白き巨人】【三つのトランク】【闇の中の巨人】【白毫のガラス窓】【大爆発】【落下傘】
※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
【鎧武者】→【よろい武者】,【恐ろしき水罠】→【恐ろしき水わな】,【「赤き死の仮面」】→【赤き死の仮面】,【ひらけセザーム】→【開けセザーム】,【闇の中の巨人】→【やみの中の巨人】
著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
「キング」昭和五年九月号から六年十月号まで連載したもの。はじめて「講談倶楽部」に書いた「蜘蛛男」が好評だったので、同誌には引きつづいて昭和五年正月号から「魔術師」の連載をはじめたが、一方、同じ講談社の代表雑誌「キング」からも懇請されて、その年の夏からこの「黄金仮面」を書きだしたのである。そのころの「キング」は日本一の発行部数を持つ大雑誌で、百万部を越していたと思う。したがって、老若男女だれにも向くようにという講談社的条件が、この雑誌にはことに強くあてはまるわけであった。だから、私もその気持になって、ルパンふうの明かるいものをと心がけ、変態心理などは持ち出さないことにした。別の巻の解説にも書いたように、大部数の娯楽雑誌の連載ものは、涙香とルパンを混ぜ合わせた味でというのが、私の心構えだったが、この「黄金仮面」にはルパンの方が強く出ているようである。いや、それどころか、この小説にはアルセーヌ・ルパンその人が登場して、明智小五郎と一騎打ちをやるという思いきった筋になっている。そういうわけで、この作は私の長篇小説の中でも、最も不健全性の少ない、明かるい作といえるのではないかと思う。
「黄金仮面」という題は、その後流行した「黄金何々」とか、「何々仮面」とかいう少年読みものの題名の先駆をつとめたわけだが、私にこの題名を教えてくれたのは、そのころ愛読したフランス作家マルセル・シュウォブの「黄金仮面の王」であった。