盲獣


登場人物(ダブり含む)
水木蘭子,沢君子,里見雲山,上野美術館の盲人,美術館の制服の男,水木家女中,三十面の男按摩,蘭子顔馴染みの若い按摩,浅草の興行界では顔なじみの花屋の若い者,蘭子舞台の見物人たち,浅草名物のチンピラ乞食,小村昌一,小村の運転手,謎の運転手,番人,麹町の屋敷の女中たち,盲獣,盲目の少年,雪女郎に集った群衆たち,浅草公園の人たち(婆さんたち,露天商人,子どもたち,職人風の男など),警察の人たち,シナ料理屋帰りの青年紳士,見世物小屋関連(親方,愛ちゃんこと蜘蛛娘,親方のおかみさん,半纏着の男など見物人たち,黒山の人だかりなど),滝の湯の主人,真珠夫人,絹屋の番頭,絹屋の小僧たち,絹屋主人,由比ヶ浜の男女,他由比ヶ浜の人たち,大内麗子,松崎未亡人,下田未亡人,無精髭の黒い田舎親爺,潮風に赤黒く光った貌の海産物仲買人,綿紗縮緬の似合わぬ不行儀な奥様,漁村の小学校の先生,他の漁船の客たち,お留など四人の蜑,首藤春秋,N展覧会の客など

主な舞台
上野公園の美術館,水木蘭子の宅,浅草,麹町の住宅街の屋敷(麹町区Y町),銀座街,浅草公園(観音様のお堂の前,瓢箪池のふちの高台ベンチ),日比谷公園裏の官庁ばかり建ち並んだ非常に淋しい往来,両国国技館裏の見世物小屋,新宿の盛り場の滝の湯,三越百貨店の裏,小石川区S町の絹屋呉服店,その河岸を越えた大森のある質屋,鎌倉の由比ヶ浜,赤坂区のとある家,巣鴨のはしっぽにある淋しい一軒家,東京から百里離れたI湾の汽船,とある南国の漁村,汽船も着かぬ非常に淋しい漁村,N展覧会場

※(ちょっとした“うんちく”)
1.麹町区Y町とは、有楽町一丁目or二丁目かと推定もされたが、この住所は、当時から、どう考えても住宅街ではない。よって、Yにゐゑを加えることで、飯田町一丁目or二丁目と推定するに至った。
※有楽町一丁目、二丁目=ほぼ現在と同じ位置。
飯田町一丁目、二丁目=ほぼ現在の飯田橋1丁目、2丁目、3丁目、4丁目に該当する。

2.小石川区S町は候補地が異様に多いので下記に、(当時のS町=現在の住所)と照らし合わせつつ列挙していく。
櫻木町=音羽1丁目、28番地+関口2丁目2番地の東の方少し。
三軒町=小日向4丁目6番地
水道町=春日2丁目2,3,4,21,26番地周辺+水道1丁目11,12,13番地周辺
水道端町一丁目、二丁目=水道1丁目6〜10番地+水道2丁目13〜19番地+小日向4〜13番地周辺
諏訪町=後楽2丁目4,5,13,14,18,19,20番地周辺
清水谷町=小日向4丁目の4番地の一部+5番地
指ヶ谷町=白山2丁目26〜37番地周辺+白山4丁目29〜33番地+白山5丁目1,2,4,35,36番地+白山1丁目13,14,18,19,20,21,30〜34番地周辺。
関口水道町=関口1丁目の一部(一休橋と大滝橋の中間の東側;つまり1〜9番地、11,12,14〜18番地以外の関口1丁目)
関口駒井町=関口2丁目2番地周辺
関口臺[=台]町=関口2丁目、新江戸川公園の一部
関口町=野鳥の森公園の一部+関口1丁目28番地〜43?番地周辺(一休橋と大滝橋の中間より西)+関口2丁目3番地+関口3丁目9,10,12,13番地周辺
新諏訪町=後楽2丁目1〜3番地

作品一言紹介
恐るべき究極の触覚物語であり、怪奇変態もの。盲獣は触覚の愛を求めて、まず彫刻芸術から水木蘭子に狙いを 定めはじめた。そして触覚愛の絶頂に溺れていく・・・・・・。そこから始まる盲獣の残忍ぶりを描いたこの悪魔の所業の数々の物語、神出鬼没の盲獣は人々の盲点に隠れて活動を促進させていくのだ。そう、この盲獣ほど自己願望を成し遂げた幸せ?な怪人はそうはいなかった。さて、この盲獣の最期はいかなるものだったか!?

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【レビュー団の女王】【うごめく触手】【執念の花束】【鏡の裏】【悪魔の曲線】【地底の盲獣】【天地晦冥】【地底の恋】【情痴の極】【雪女郎】【足のある風船】【冷たい手首】【蜘蛛娘】【めくら湯】【真珠夫人】【肉文字】【紫檀の太腿】【巨人の口】【女泥棒】【怪按摩】【砂遊び】【寡婦クラブ】【ゴム人形】【女怪対盲獣】【裸女虐殺】【芋虫ゴロゴロ】【盲人天国】【盲目の彫刻家】【悪魔の遺産】【触覚芸術論】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
蜘蛛娘→【クモ娘】,紫檀の太腿→【紫檀の太もも】,女泥棒→【女どろぼう】,怪按摩→【怪あんま芋虫ゴロゴロ→【イモムシごろごろ】,【※”削除章”】→【鎌倉ハム大安売り】(【芋虫ゴロゴロ】と【盲人天国】の間)
※の削除章【鎌倉ハム大安売り】についてとりあえず簡単に説明すると、昭和36年の乱歩による最終改訂の為された桃源社版全集以降の版(角川文庫版や各種講談社全集版など)では基本的にこの章は削除されている。乱歩があまりの気持ち悪さに吐き気を覚え、桃源社改訂の際に削除したからである。ただこの春陽版はその桃源社最終版テキストに依っていない初出+戦前検閲削除などの謎の独自テキストのために存在し、また創元推理文庫版でも桃源社版全集に初出テキスト確認を加えている編集方針のためにこの章は復活させている。


著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 博文館の大衆雑誌「朝日」の昭和六年二月号から翌七年三月号まで、休み休み連載したものである。当時原稿を書いたきり、一度も読み返していなかったが、今度、校訂のために初めて通読して驚いた。ひどい変態ものである。私の作がエログロといわれ、探偵小説を毒するものと非難されたのは、こういう作があるからだと思う。この作は全集に入れたくなかったが、しかし、そんなことをいって、気に入らぬ作を省いていたら、半分以上なくなってしまい、全集の意味を失うことになる。作者自身が校訂などやると、こういうときに困るのである。だから、目をつむってのせることにしたが、終りの方の「鎌倉ハム大安売り」という章だけは、作者の私が吐き気を催すほどなので、この一章、原稿紙にして八,九枚は、削らせてもらって、辻褄の合うように前後の文章を直した。ご諒承ください。
 この小説に取り柄があるとすれば、「触覚芸術」という着想であろう。この点は面白いという批評も受けた。しかし、それは最後の、二,三章を書くときになって思いついたので、もしこの着想だけを中心にして短篇小説を書いたら、面白いものができたかもしれない。「彼の通俗連載ものにも、ときどき光った着想がまじっているのだが、それを発展させないままで終わっているのは惜しいものだ」と、好意の批評をしてくれた人もあるが、私自身もそれを感じていた。これは他の連載長篇についても同じことが言えると思う。

比較的最近の収録文庫本
角川文庫・江戸川乱歩作品集『パノラマ島奇談』
講談社文庫・江戸川乱歩推理文庫『盲獣』
春陽文庫・江戸川乱歩文庫『十字路』
創元推理文庫・乱歩傑作選『盲獣』


(注意)残念なことに角川文庫と講談社文庫は品切・絶版中・・・


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