吸血鬼

登場人物(ダブり含む)
三谷房夫,岡田道彦,柳倭文子,塩の湯A旅館の女中たち,唇のない男,蛭田嶺蔵,畑柳庄蔵,畑柳倭文子,畑柳茂,シグマ,チンドン屋,畑柳家召使いたち(書生二人,乳母のお波,斎藤執事,花を含む女中二人,小間使いのお菊,),麹町警察の司法主任の警部補,山内の乞食とその子供,賊,賊の運転手とsのの助手,小川正一,警視庁捜査課の恒川警部,明智小五郎,文代,小林少年,もと岡田が住んでいたアトリエの家主,菊人形開演中の両国国技館関係者たち,SOSに気が付いた青年,国技館の支配人のS氏,或る船会社の電信技師,仕事師の若者など,国技館周辺の群衆,巻き取り作業の人々,黒い洋服を着た男,某新聞社の社会部記者,園田黒虹,墓堀り人夫たち,検事のS氏,谷山三郎,谷山二郎,焼いた後の人夫たち,S病院看護婦,その他警察関係者たちなど

主な舞台
塩原温泉の塩の湯A旅館,麹町の畑柳邸,上野公園の図書館裏(桜木町近く),上野の北川病院,神宮外苑から青山墓地の先にある大邸宅の塀の一方の怪屋,三谷の家の青山のアパート,お茶の水の「開花アパート」(明智事務所),代々木練兵場の西の郊外の怪アトリエ(岡田アトリエ),両国国技館,隅田川の下流の清洲橋付近→永代橋→月島→相生橋→お台場先の海上(品川湾),塩原妙雲寺,代々木の怪アトリエ近くのO村西妙寺,目黒の工場街にある西南製氷会社の残骸,信州のS町,本號のS病院

作品一言紹介
現代の決闘、それは毒のグラスの取り合いだ。お互いに不自然ならぬ遺書を書き、遅効性の毒をどちらかが飲む。恐るべき決闘ではないか。それも恋のためであったが、しかし読了後に読むと物凄く不自然・・・・・・、まぁ、それは置いておいて、この物語は唇のない怪人が畑柳家に恐慌を与える怪異であり、その種類は地獄のごとく、それを防ぐべくに明智小五郎が活躍するも・・・だ! 更には小林少年初登場、そして何より文代さんファンは必見だ。この積極的能動的大活躍が美事すぎるのだ。国技館ではもちろん、真相芝居や殺人芸術阻止にでも大活躍する。とにかく恐るべき復讐の鬼と化した吸血鬼のような賊と畑柳家の運命は如何に!? このサスペンスを見よ! である。

ネタばれ感想
ネタばれ感想コーナーの『「吸血鬼」の浅薄さと奥深さ』へのリンク。未読の方は読まぬように。

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【決闘】【唇のない男】【茂少年】【悪魔の情熱】【奇妙な客】【妖術】【名探偵】【裸女群像】【青白き触手】【女探偵】【お化け人形】【離れ業】【飛ぶ悪魔】【海火事】【三つの歯型】【意外な下手人】【母と子】【葬儀車】【生き地獄】【墓あばき】【魔の部屋】【一寸法師】【井戸の底】【三幕目】【真犯人】【最後の殺人】【逃亡】【執念】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
唇のない男→【くちびるのない男】,離れ業→【離れわざ】,魔の部屋→【魔のへや】,三幕目→【三幕め

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 昭和五年九月から翌六年三月まで「報知新聞」に連載したもの。当時の「報知新聞」は今のようなスポーツ紙ではなく、東京三大新聞の一つであった。そのころ講談社の野間清治社長が「報知新聞」の社長を兼ねることになり、太平洋横断飛行の壮挙を主催して気勢をあげたものである。私の小説は講談社の雑誌で好評を博していたので、「報知新聞」社長になった野間さんから再三懇請され、断りきれなくなって、例によってハッキリした筋もないままに、無理に書きはじめたものであった。探偵小説というよりは、怪奇、残虐、冒険活劇の物語で、筋の運びかたは、やはりルパンふうを狙っていたようである。
 この昭和五年度には、第四巻に収めた「魔術師」のほかに、「吸血鬼」よりも早く「猟奇の果」(文芸倶楽部)、「黄金仮面」(キング)を連載しはじめているが、「魔術師」で芽生えた明智小五郎と文代さんとの恋愛が、この「吸血鬼」で実を結んでいるものだから、その順序に従って、これを第五巻に収めたわけである。
 なぜ名探偵を結婚させたのか、その当時の気持をよく覚えていないが、明智探偵は単なるシンキング・マシンではなくて、情理かね備えた人という意味だったかもしれない。それにしては、私はその後、明智の私生活などは一向書いていないのだが。
 この小説には、明智の結婚のほかに、もう一つ、助手の小林少年の登場がある。私が最初の少年探偵小説「怪人二十面相」を書いたのは昭和十一年だが、それより六年前に、早くも小林少年を着想していたわけである。。この少年探偵は、昭和三十六年の現在でも、明智探偵の助手として活動している。いつも十三、十四歳で、リンゴのような頬をしていて、少しも年をとらないのである。
 この「吸血鬼」は戦後昭和二十五年に「氷柱の美女」と題して、大映で映画化された。企画、関幸輔、脚本、高岩肇、監督、久松静児、主演、岡譲二、相馬千恵子であった。大映の示す通り、小説の最後の美女氷づめの場面に重点を置いたもので、製氷会社で、裸体人形を入れた大氷柱を造らせて撮影し、これを売りものとしたのであった。


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