影男

登場人物(ダブり含む)
影男=速水荘吉=綿貫清二=鮎沢賢一郎=殿村啓介=宮野緑郎=佐川春泥,張ホテルの支配人,ジャンゴーの此村大膳,プロメテのような美女,アル中乞食・大曽根とその妻,ジャンパーヨタ者風青年,大衆酒場のエプロンの男ボーイ,大曽根さち子,二十三、四の洋装美人,今日新聞の北野君,みや子,秘密クラブ会員達(春木夫人,琴平咲子,二宮友子など),闘人の黒と白(小林昌二と井上),影男の部下達,尾久の土地の仕事師の親方,若い仕事師,須原正,殺人会社の重役残り二人の男女,ルコックのマスター,毛利幾造,毛利家使用人達,比佐子,ドラゴンの姉さんや幇間たち,白髪白髯の老人,色白のチョビひげ紳士,その他不思議の国関係者たち,山際良子,川波良斎の小間使い・千代ちゃん,川波良斎,篠田昌吉,川並美与子,浮浪者のような男,アパートの主人の奥さん,明智小五郎,運転手の斎木,谷口爺さん,松下東作,作蔵,中村警部,小林少年,その他警察関係者達など

主な舞台
張ホテル,明治神宮外苑,東京周辺の或る繁華街(大衆酒場など),渋谷の酒場街,帝国ホテル,代々木の原っぱの中の一軒家,尾久,銀座のルコック,浅草公園花やしき,世田谷区榎新田,銀座のキャバレー「ドラゴン」,銀座裏のバー,中央線の沿線で荻窪の少し向こう,不思議の国,速水荘吉の麹町の高級アパート,川波邸,隅田(ママ)区吾嬬町の小さなアパート,六本木に程近い住宅街の人殺しの部屋,世田谷区蘆花公園近くの日本建ての佐川春泥書斎,住田川口の霊岸島魚仙という舟宿,ボート上,京王電車蘆花公園駅に近い交番,神社の森,六本木及び御殿山及び尾久の殺人会社事務所

作品一言紹介
彼は速水荘吉、地主・綿貫清二、貿易商社社長・鮎沢賢一郎、遊蕩紳士・殿村啓助、宮野緑郎、更には怪奇犯罪小説家・佐川春泥などなどと数々の名前と肩書きを持つ影男。時には強請の種を求める悪神に、また時には不幸な人を救済するこの上ない善神に、更には悪には違いないが祕密結社の危機を救出してみたり、と、その知恵と影のような存在術を使って猟奇心のままに大活躍を示していたのだが、そこに絡んできたのが、殺人請負会社であったり、地底の楽園であったり、そして明智小五郎であったりしたのだが、さて、影男の運命はどうあいなったか!? 乱歩臭を徹底的に味わえるゾクゾク楽しい作品に仕上がっていると言えるだろう。真の悪でない義賊的主人公・影男に感情的に移入しやすい所も楽しめる要因だ。私は影男の人生の中に理想の一端すらも感じるのである。

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【断末魔の牡獅子】【隠形術者】【どん底の人】【空飛ぶ夢】【善神悪神】【闘人】【女装男子】【逆のアリバイ】【死体隠匿術】【善良なる地主】【殺人会社】【空中観覧車】【底なし沼】【不思議な老人】【地底の大洋】【水中巨花】【女体山脈】【血笑記】【最後の売物】【恋人誘拐業】【蛇性の人】【二つの首】【クモの糸】【小男の来訪】【殺人前奏曲】【毒チョコレート】【壁紙の下】【消えうせた部屋】【海上の密談】【お前が被害者だ】【密室の謎】【裏の裏】【艶樹の森】【明智小五郎】【この世の果て】【肉体の雲】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
断末魔の牡獅子】→【断末魔の雄獅子】,最後の売物】→【最後の売り物,【クモの糸】→【蜘蛛の糸,【消えうせた部屋】→【消えうせたへや,【お前が被害者だ】→【おまえが被害者だ,【密室の謎】→【密室のなぞ

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 光文社の「面白倶楽部」昭和三十年一月号から十二月号まで連載したもの。久しく小説を書いていなかった私は、昭和二十九年秋の還暦祝いの席で、来年こそは幾つかの小説を書きますと宣言して背水の陣を敷き、その口約を守って、三十年には「化人幻戯」「十字路」「影男」の三つの長篇と二、三の短篇を発表した。この「影男」は筋に一貫性がなく、場当りの思いつきで、ごく通俗に、私の好きな幻想を追ったもので、昔の「パノラマ島奇談」や「大暗室」などに書いたものの二番煎じにすぎなかった。しかし、それだけに、この年の三つの長篇のうちでは、私の体臭の最も濃厚なものにはちがいないのである。


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