陰獣


登場人物
私(寒川),大江春泥,本田,小山田六郎,小山田静子,平田一郎,青木民蔵,糸崎検事,他警察関係者など

主な舞台
上野,浅草,向島小梅町など

※(ちょっとした“うんちく”)
向島小梅町というのは、本所区向島小梅町である。なお、それは本所区小梅一丁目&二丁目の一部を差し、現在においては墨田区向島一丁目〜三丁目の一部をさす番地が相当する。

作品一言紹介
私は、ひょんな事から知り合いになった小山田静子という人妻から奇妙な相談を受けた。それは静子に元恋人であり、探偵作家の平田一郎=大江春泥から復讐予告の手紙がたびたび来るというものだった。はたしてその復讐の内容とは如何なるものだったか…。そしてそこから発展してくる恐るべき犯罪とは!? それまでの乱歩怪奇幻想作品の雰囲気を惜しげもなくちりばめた贅沢な作品で初期乱歩の総決算的傑作だ。

章の名乱舞(参照はちくま文庫)
一から十二まで

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
1から12まで

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「新青年」昭和三年八月増刊から九,十月号と三回に分裁した。「陰獣」が「淫獣」と誤解されたが、私のつもりでは、猫のような魔性の「陰気なけもの」という意味であった。朝日新聞に連載した「一寸法師」に自己嫌悪を感じて放浪の旅に出てから一年半、雑誌「改造」から頼まれて書き出したのだが、依頼枚数の四倍近くになってしまったので、我儘の利く「新青年」に廻したところ、当時の編集長横溝正史君が非常に宣伝してくれたので、雑誌の再版、三版を刷るという売れ行きを見たのである。今読んでみると大したものではないが、この小説には楽屋落ちみたいなものがあり、そこに奇妙な魅力が感じられたのではないかと思う。この小説の犯人は江戸川乱歩に酷似した人物で、しかも、最後にはその人物が女とわかり、結局、江戸川は架空の作家だったということになってしまう。つまり私は小説の中で自己抹殺を試みたのである。この作は賑やかな批評を受けたが、それらの批評の多くは、結末に疑いを残したことを非難していたので、その後の版で、私自身、疑いの部分を削ってしまったことがある。しかし、やはり原形の方がよいと考えるので、この本では、最初発表したときの姿に戻しておいた。この作は昭和七年十二月、新橋演舞場において、市川小太夫さん一座により劇化上演せられた。


甲賀三郎による感想(甲賀三郎の世界
「マイクロフォン」(「新青年」昭和3年10月増大号)、そしてもう一つはトリックばれ注意の「女性の謎」(「新青年」昭和3年11月号)


比較的最近の収録文庫本
角川文庫・江戸川乱歩作品集『陰獣』
講談社文庫・江戸川乱歩推理文庫『陰獣』
春陽文庫・江戸川乱歩文庫『陰獣』
創元推理文庫・日本探偵小説全集2 『江戸川乱歩集』
ちくま文庫『江戸川乱歩全短篇2ー本格推理2』

(注意)残念なことに角川文庫と講談社文庫は品切・絶版中・・・


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