復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和九年〕

新青年 十二月號

「人喰い風呂」/大阪圭吉/9ページ(2001/11/6読了)
ユーモア探偵小説である。女湯に客が三人しかいないというのに着衣が四人分、こういう謎のような事件が続けざまに起こった。ある者は裸で走り去ったんだとか訳のわからないことを言うが、実際人が風呂に食われたかのような状況も謎々である。その動機とトリックとは!? まぁ、こんなもんか、程度のものである。


新青年 十一月號

「網膜脈視症」/木々高太郎/20ページ(2001/11/6読了)
木々高太郎の処女作で精神病学の大心地先生シリーズ。精神分析によって、旧悪の謎を暴くというもの。大心地先生の元に来た子どもは突如あるはずのないものが見えるという。そして更に起こるのは動物恐怖症・・・、これらの神経症を分析することによって大心地先生と可哀想な岡村学士はその奥に潜む謎を解決するに至ったのである。


新青年 十月特大號

「驚き盤」/水上呂理/15ページ(2001/10/31読了)
それほど期待したほどではなかった。怪文字から始まるこの事件は恐るべき計画に支えられていたのだ。


「靴下と夫」/乾信一郎/12ページ(2001/10/31読了)
旧友への嘘は膨らんでいき・・・切実だった。相変わらずユーモアなのだが笑い出したくなるような馬鹿らしさはなく、物足りない。


新青年 九月號

「義眼」/大下宇陀兒/20ページ(2001/10/31読了)
どうも面白くとも何ともない。これも文中のルビから見て「いれめ」と呼ぶようだが、渡辺啓助のあの作品に比すべくもない愚作である。低能の少女を主人公にする作者らしい趣向だが、義眼の男と女の二人連れに関わったばかりに悲劇が待っていたという物。しかし女の子も目的は達成していたのがせめてもの救いと言う所だろうか。


新青年 七月號

「なかうど名探偵」/大阪圭吉/9ページ(2001/10/31読了)
てんかん病死者のなこうど名探偵は見事な推理でトマト泥棒を言い立てたが、その実はとてつもないピエロだった。しかしなこうどは仲人であり、潔き仲人探偵であったのだ。圭吉ユーモアもなかなか面白い。


新青年 六月號

「塗込められた洋次郎」/渡邊啓助/13ページ(2001/10/31読了)
妖気が乗り移り、悪夢が湧いて出る。エジプト物のこのストーリーは復讐と快楽の果てに見られるものだったのかも知れない。もっとも大した成果ではないが。


新青年 五月號

「ユーモア連作 5本の手紙 第五話 サクラ騒動」/大下宇陀兒/14ページ(2001/10/31読了)
これは大したことないな。しかも最終話なのに単なる意味不明な一本の手紙で終わってしまっている。


新青年 四月増大號

「ユーモア連作 五本の手紙 第四話 各人有祕密(ひとごころ)」/水谷準/14ページ(2001/10/31読了)
これはユーモア物であるばかりでなく、探偵趣味物としても面白い物だった。叔父の手紙を受け取った主人公だったが、その手紙の内容が恋文っぽいのだ。そして差出人らしき人物も分かったので、探りを入れてみるが・・・。謎もある意外性のユーモア探偵小説で、今までのこのシリーズで一番の出来だと思う。


「亞米利加發第一信」/酒井嘉七/8ページ(2001/10/31読了)
新人創作その一として発表された物。タイプライターの印字濃度によって個人を特定してしまおう、と言う技法で復讐者を言い当てる本格物。まぁ、小説技法も含めそれなりの面白さ。


新青年 三月號

「ユーモア連作 五本の手紙(その3) 犯人捜査行進曲」/甲賀三郎/15ページ(2001/10/25読了)
猪狩萬太は自己の名前で自分の名前を克服する旨の手紙を受け取った。その犯人を捜すために彼は知人に当たりまくるが・・・。挙げ句の果てのユーモアだ。


新青年 二月號

「柿色の紙風船」/海野十三/18ページ(2001/10/25読了)
ラジウム、しかもそれが痔の治療のためのものだから少し笑える、を巡っての完全犯罪。それは帆村荘六をも出し抜いた。だからと言う訳ではないが、何かヘンテコな感じに思える。ゴミのような小さいラジウムの皮肉や隠し方の面白さもある。犯人の凱歌。


「当世やくざ渡世」/久山千代子/16ページ(2001/10/25読了)
久山秀子の妹、千代子が語り手。秀子も出てきて活躍する。その隼探偵局!そして依頼された事件も美事解決するのだった。


「連載ユーモア小説 五本の手紙 第二回 五千圓の卵」/延原謙/14ページ(2001/10/25読了)
例の伯父からの今回の手紙は遺書。その形見の十円債権が転じて大いなる活躍を生むことになった。


新青年  新年特大號

「連作小説 5本の手紙[第一回]金縁の御挨拶」/乾信一郎/14ページ(2001/10/25読了)
とてつもなくしょうもないユーモア小説。大体非常識にもほどがある。独身論者へ謎の自分の結婚挨拶状が来て、しかもそれを真に受けるとは異常だ(笑)。それにそれが実は・・・の関係だったとは。


「気狂ひ機関車」/大阪圭吉/19ページ(2001/10/25読了)
青山喬介シリーズ。これは美事なる論理と機械的トリック。さて、恐るべき復讐劇を演じた犯人の悪魔の手段とは!? さすがの面白さと言えよう。


「痲痺性痴呆患者の犯罪工作(檢事局書記の私的調査)」/水上呂理/16ページ(2001/10/25読了)
刑法第三十九条「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の条文を利用し、発狂状態での恐るべき犯罪計画。何だか現在でも見た法の隙間を付く犯罪である。しかしその狂人の目論見は直接間接は不明ながら失敗に終わったのである。さすがは水上呂理の凄さがここにもある。


「吸血花」/渡邊啓助/14ページ(2001/10/25読了)
呪いは血を求める。自殺した弟を引き取りに来た男はある真相を知る。まぁ、大したことはない。


「幻」/水谷準/19ページ(2001/10/25読了)
大したものでもないが、上海である外国人が懺悔話をする話。自分勝手とは言え、そこには哀しみのようなものが流れている。