復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和八年〕

新青年 十二月號 ユーモア・ナンバア

「ボ−ナス狂譟曲」/久山秀子/9ページ(2001/10/24読了)
隼シリーズ。盗まれたボーナスをめぐる。全然大した物でない。


新青年 十一月號

「白菊」/夢野久作/16ページ(2001/10/24読了)
再読だが、やはり面白いと思えない。彼を狂わせたのは何か!?


新青年 十月増大號

「豚兒の廢業」/乾信一郎/36ページ(2001/10/24読了)
百枚読切中篇の掉尾。あまりにしょうもなくて笑ってしまうユーモア物。豚児と言われる主人公と豚狂いのその叔父を中心に馬鹿馬鹿しい話が進む。叔父自慢の豚「壽」號の突然死もその一つ。兎も角もしょうもなさ過ぎる作品。


「ゴールデン・バツト事件」/海野十三/32ページ(2001/10/24読了)
帆村荘六もの。ある凄惨な殺人事件を端緒に麻薬中毒がもたらした悲劇が明らかになっていく。面白い。


「恐ろしき臨終」/大下宇陀兒/28ページ(2001/10/24読了)
再読である。正直弁護士のあまりもの悲劇。まさに恐ろしき臨終であろう。


新青年 九月號

「花爆彈」/橋本五郎/50ページ(一段組)(2001/10/24読了)
百枚読切中篇。防空演習で光がなくなった日に起こった花火屋への謎の放火。これから展開していくスパイ的本格物。二人の中学生の活躍で、鳩ノ少年物。


「青春の墜落」/石濱金作/7ページ(2001/10/24読了)
飛行機の墜落を夢で見てしまう二人の男女。しかしその墜落は思わぬ所で・・・。


新青年 八月號

「蝕春鬼」/葛山二郎/49ページ(一段組)(2001/10/12読了)
何か物凄く期待外れな百枚中篇もの。どうも面白さがよく分からない。蝕春鬼の謎、脂の恐怖、絡む女・・・、でもやっぱり凡作だと思う。


「氷人」/南沢十七/14ページ(2001/10/12読了)
これは恐るべき意外な真相的探偵小説だ。いわゆる冷凍保存からの生還を目指した生物学研究者に起こった悲想。


「血痕二十奏」/渡邊啓助/13ページ(2001/10/12読了)
凄い目茶な話。タイトルの元は菊池寛の「結婚二重奏」だが、悲劇の幕開けも有閑夫婦のこの遊戯の仕業だった。中盤の展開はメチャメチャのような気もするが。


新青年 七月號 ユーモア集

「白鮫號殺人事件」/大阪圭吉/20ページ(2001/10/10読了)
ヨット白鮫号でキャプテンが殺された事件をお馴染みの名探偵青山喬介が解決する。第三作にして、圧倒的な分析分析分析で、重量から犯人を割り出すのは美事である。動機などの背景も真に適当で圧巻の本格探偵小説と云えるだろう。


新青年 六月號

「ものいふ死体」/延原謙/35ページ(一段組)(2001/10/9読了)
百枚読み切りシリーズだが、全く詰まらない。今まででダントツの駄作だろう。スパイ探偵小説で、同じ顔の人物と言うことで主人公はある種冒険に巻き込まれるが。


「五萬人と居士」/乾信一郎/10ペ−ジ(2001/10/9読了)
ユーモア小説。記憶力だけが芸の居士は仙人のような生活で満足していたが、ある日、5万人の名前を覚えられなかった同じ趣味の社長と知り合ったのが、ある種喜劇の始まりで・・・。とりあえずの作品だが、社長にどんな深意があったのかが謎であるのかが意味不明だ。


「小盗兒[せようとる]市場の殺人」/大庭武年/11ページ(2001/10/10読了)
例のごとく大連を舞台にしたストーリー。恐るべき秘密を知られ、強請にあう主人公。そこで魔窟・小盗児で完全犯罪を企てるも・・・・・・、相手のある癖のせいで失敗する話。一応倒叙物だろう。


「ココア山奇談」/稻垣足穂/7ページ(2001/10/10読了)
美しき幻想小説だ。月光に対する驚き!


新青年 五月號

「美女魔」/石濱金作/12ページ(2001/10/9読了)
美女の被害。美女に関わったための悲劇。そして狂気へ。まぁ、取るに足らないもの。


「マネキン人形事件」/西田政治/7ページ(2001/10/9読了)
茶番狂言で隠し方の盲点を狙った本格物。よくありそうでこの時代ではあまり見かけないトリックが効果的!


新青年 四月號

「さらば青春」/水谷準/47ページ(一段組)(2001/10/5読了)
百枚読切中篇第四回(二回目は二百枚以上書いてきた夢野「氷の涯」、三回目は甲賀「體温計殺人事件」)。T大学の総長が突如消失し、代わりに妙な支那そば屋がその部屋から見つかるという奇々怪々な事件の真相は、まさに青春の謳歌!青春にさらば、する前に経ておく大学記念祭が動機には隠されていた。原題は「恐ろしきかくれんぼ」だったが、タイトルはこの「さらば青春」の方がよいのは言うまでもないとにかく面白い本格物であり、「さらば青春」には二重三重の意味もある所がまた面白い。ただ黒鞄の秘密はもっと効果的に生かせたのではないかと思う所もある。


「地獄横町」/渡辺啓助/15ページ(2001/10/9読了)
生前批評でやっつけるなど仲も良くなく交流も殆ど無い男の遺書、そしてそれに付随する遺著作「地獄横町」に込められた恐るべき復讐の悪意に主人公も読者も仰天するのである。


「箪笥の中の囚人[めしうど]」/橋本五郎/14ページ(2001/10/9読了)
鳩ノ少年が探偵役を務める本格物。中々の面白さと言える。突如として他人の家の箪笥から転げ落ちて来た男。しかも囚人の如く両手両足を縛られ、猿轡まで噛まされているのだ。そしてそれに二百円の紛失やらが絡んでくるから事件は紛糾するばかり。その犯人と動機とはいったい何なのか、と、この謎を解くのである。特にその動機には圧巻であり、関心してしまった。


新青年 三月號

「蹠[あしうら]の衝動」/水上呂理/20ページ(2001/10/5読了)
神経衰弱患者の医師と刺激を求める文明病患者。フロイトの精神分析によって確かめられた女の変態異常。そして変態性欲者と化した精神異常者の衝動。さすがの面白さだ。


「もだん・しんごう」/星田三平/9ページ(2001/10/5読了)
面白くもないペテン的ユーモア物。あるボクサーがもだん・しんごうを通じて、ある誤解に陥ってしまう。


新年号の読者採点の結果を以下に掲げておく。
平均点82 横溝正史「面影双紙」
平均点82 甲賀三郎「アラデインの洋燈」
平均点80 南澤十七「人間剥製師」
平均点79 夢野久作「煙を吐かぬ煙突」
平均点78 葛山二郎「古錢鑑賞家の死」
平均点77 瀬下耽「罌粟島の悲劇」
平均点77 角田喜久雄「怪盗Q」
平均点72 海野十三「キド効果」


新青年  新年特大號

「灰人」/大下宇陀兒/46ページ(一段組)(2001/10/4読了)
百枚読切中篇探偵小説の第一番手である。この中篇の面白い所は、犬のルルウが主人公で事件の発端と解決で役を果たしていることだ。犬をこうまで取り上げたのは、大下宇陀児が最初ではないかと思う。この手の着想は強い。ただ探偵小説としては、というと最大の問題点は突然のXXXである。せっかく探偵はしているのにこの点は駄目すぎる。この辺りを上手くすればと思っているのだが。


「怪盗Q」/角田喜久雄/16ページ(2001/10/4読了)
Qの正体は意外や意外だが、気狂いで済ませるのはちょっと難だ。本格物。なお再読だとつけ加えておく。


「キド効果」/海野十三/18ページ(2001/10/4読了)
興奮曲線に表れるキド現象。しかしその正体はキド効果であるという、恐るべき皮肉。


「罌粟島の悲劇」/瀬下耽/15ページ(2001/10/4読了)
これも本格物。三人兄弟と父親と二人の女がいる島で起こった連続殺人事件。


「古錢鑑賞家の死」/葛山二郎/15ページ(2001/10/4読了)
おおっ、さすがは錯覚の魔術師である。美事な本格トリックの花堂シリーズ。


「人間剥製師」/南澤十七/14ページ(2001/10/4読了)
怪奇なんだろうが、どうも面白くない。