復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和五年〕


新青年 昭和五年十二月號(第十六號)=一册六十錢

「競馬會前夜―郷警部手記の探偵記録―」/大庭武年/14ページ(2001/7/5読了)
「十三号室の殺人」の名探偵郷警部活躍の話。騎手の男と愛馬の彗星が殺される事件が起こる本格で面白い。騎手の男の拳銃は自身と馬とを撃ち殺した凶器であったが、底に隠された謎はいかがなものだったか!?


新青年 昭和五年十一月號(第十四號)=一册六十錢

「良心」/城昌幸/11ページ(2001/7/5読了)
「完全な犯罪」は動機ない「完全な理性」による犯罪。犯罪のための犯罪により、初めて成立し得るという理論。恐るべし犯罪小説である。十分の面白い。


「虚實―あり得る場合―」/濱尾四郎/16ページ(2001/7/5読了)
二つの関連した過失事件。しかし少し解釈を変えるだけで故意にもなり得るのである、と言う話で、なかなかの面白さ。


新青年 昭和五年十月増大號(第十三號)=一册八十錢

地球診察號

「貨車拔取事件」/大下宇陀兒/5ページ(2001/7/4読了)
これって、翻案のようなきがするのだが、さてさて?とにかくタイトルそのままの窃盗事件。


「欺く灯」/瀬下耽/9ページ(2001/7/4読了)
どうも全然面白くない。変態性欲者夫婦のローマンス。


「たらんてら」/水谷準/5ページ(2001/7/4読了)
レコードに刻まれた断末魔の恐怖、と言った話。これも大したことはない。


「蒼ざめた弟」/橋本五郎/3ページ(2001/7/4読了)
弟は兄夫婦の世話になっていた。しかしある日ハタと気が付いたのだ。それは月給を遙かに超えた出費である。一時は計算に合っていると安心もしたが、月賦といういわばローンの支払いが沢山あったのである。これでは大赤字ではないか? そこでとなると、この兄が出張と言って何度も出掛けることに謎があるのだろうか ? 詰まらない小篇ながら、弟が蒼ざめる気持もよくわかるのである。ああっ、気の毒なりか。


「階段」/海野十三/17ページ(2001/7/4読了)
足音曲線!と言った理化学も登場する作品であるが、どうも大したことないように思う。さて、階段に関わる絞殺事件の謎は如何なるものだったか!? 前半の方が性格掴んで面白いかな。


「十三号室の殺人」/大庭武年/56ページ(2001/7/4読了)
二等当選作品(一等は無し)。本格探偵小説でわかりやすぎる感もあるが、なかなかフェアな構成である謎解きだ。密室殺人に二重人格など異様な性格の登場人物など設定は申し分なし。


新青年 昭和五年九月號(第十二號)=一册六十錢

「街の僞映鏡」/佐左木俊郎/16ページ(2001/7/4読了)
世の中を歪めてみせる偽映鏡の巻き起こした狂人劇。別に面白くも何ともない。


「夜曲」/妹尾アキ夫/15ページ(2001/7/4読了)
妹尾アキ夫の作品は意外に面白いものが多い。これは意外性の強い異色本格とも言うべき作品で、自殺しようとした男が所謂止むを得られぬ理由で手記を代書してもらうのだが・・・・・・、という話を効果的に仕上げている。


編輯後記の「戸崎町風土記」の乱歩記事コーナー。(J・M・)署名。
(前略)
◇連作第一回は江戸川亂歩氏の大努力によつて、俄然壓倒的なスタートを切った。妖姫江川蘭子の創造は、會つて谷崎潤一郎氏がナオミを創りだした當時のやうなセンセーシヨンを讀書界に與へるに違ひない、と、次號横溝君の作が今から待遠しい次第である。


新青年 昭和五年夏季増刊(第十一號)=一册壹圓

新進探偵小説傑作集

「せんとらる地球市建設記録」/星田三平/40ページ(2001/7/4読了)
当選小説第三等。恐るべきSFでかなり面白い。漂流から何とか陸地へ戻ってきた主人公たちは死んだ町を見ることになり、東京でも人の死体ばかりという死の町の恐怖を描いたSF。探偵小説的要素はほとんど無く、中盤にぎこちなさもあるような気がするが、なにより怪奇SFテーマで面白さを勝ち取っていると云える。もしこれに意外性のトリックがあれば、圧倒的秀作になったとは思うので少し探偵小説にして頂きたく思った。まぁ、中途半端になる恐れの方が高いという説もあるが。


新青年 昭和五年八月號(第十號)=一册六十錢

「芙蓉屋敷の秘密」/横溝正史/20ページ(2001/7/2読了)
連載第四回の最終回。結局それほど効果的とは思えなかったが、本格物らしい意外な犯人で締めくくり。


新青年 昭和五年七月號(第九號)=一册六十錢

「芙蓉屋敷の秘密」/横溝正史/22ページ(2001/7/2読了)
連載の第三回。ちょっと複雑怪奇じみてきたかな。


「アパートの殺人」/平林初之輔/22ページ(2001/7/2読了)
四人の証言で構成される本格探偵小説。ただ動機に意外性がある程度で、どうも読後の最終評価は、中途の興味に比すると下がらざるを得ないだろう。アパートで妖婦を殺害したのは誰だったか!?


新青年 昭和五年六月號(第七號)=一册六十號」

「七人組戀愛倶樂部」/大下宇陀兒/30ページ(2001/7/2読了)
日記形式に綴られた恐るべき犯罪。或る一人の夫人には七人の愛人が週に一度ずつのローテーションでその一人が夫人の元へ通うという権利がある。しかし或る日その一人が殺され・・・、という話だが、どうも中途までは凄い効果的なんだが、ラストが頂けない。効果を生かしきれていないような気がするのである。


「血笑婦」/渡邊啓介/15ページ(2001/7/2読了)
姉妹の恋と、或る一枚の絵がもたらした悲劇。


「芙蓉屋敷の秘密」/横溝正史/22ページ(2001/7/2読了)
連載の第二回。どうも今一つ興味に乏しいような気もするが。


ヴァン・ダインの「探偵作家心得二十ヶ條」と半身写真像を収録。


新青年 昭和五年五月號(第六號)=一册六十錢

「芙蓉屋敷の祕密」/横溝正史/30ページ(一段組)(2001/7/2読了)
芙蓉屋敷で白鳥芙蓉が殺された。二度放置された帽子や時を超えた二人の白鳥芙蓉などの謎はどうなるというのか!? 連載物の第一回。ちなみに犯人当て五百円大懸賞小説である。


新青年 昭和五年四月増大號(第五號)=一册八十錢

「正義」/濱尾四郎/25ページ(2001/6/29読了)
何が正義なのか、を考えさせる恐るべき法廷小説。法律の正義が絶対なのか、それとも情の正義なのか?


「霧の夜道」/葛山二郎/18ページ(2001/7/2読了)
「赤いペンキを買った女」の姉妹編とも言うべき作品で、花堂弁護士シリーズ。男が女に突き落とされた都目撃した男の言葉に反して、実際墜落死していたのは女だったという矛盾。日常的心理盲点を利用したトリックを使った恐るべき事件だったのである。ちなみに竹中英太郎の挿絵の一つの左隅に「一九三〇・二・一〇・この作半に渡辺温氏の訃報を聞く。噫!」と書かれていた。


谷崎潤一郎の「春寒」(一段組9ページ)という随筆が載っていた。前半には「途上」より「私」が気に入っている云々と、探偵小説のこと。後半は渡辺温の夙川事故などについて。


新青年 昭和五年三月號(第四號)=一册六十錢

「暗い出生」/葉山嘉樹/8ページ(2001/6/25読了)
貧乏の哀しさを素直に表し、新しい生命への期待が込められたまったく所謂普通の作品。


「われらの三人探偵映畫座談會」上山草人、藤原義江、江戸川亂歩出席。10ページ。ハリウッドで探偵物の俳優をしている上山草人を中心とした話。


新青年 昭和五年新春増刊(第三號)

「犯罪研究座談會」というのが8ページ。江戸川亂歩、高田義一郎、川端雄男、大平久が出席。殺人方法について論じていた。具体的には、甲賀の「幽霊犯人」のピストル、大下の「情獄」の温泉場、フリーマンの青酸ガス、実話の小笛殺し、谷崎の「途上」の危険率の高い偶然、海野の「電気風呂の怪死事件」、ヴァン・ダインの「グリーン家の惨劇」、乱歩「何者」などなどが話題に上った。


「片腕」/横溝正史/26ページ(2001/6/25読了)
ある二重生活者の破綻の話。大したこともなく二流以下なのは違いない。


新青年 昭和五年二月號(第二號)=一册六十錢

「復讐」/夢野久作/28ページ(2001/6/25読了)
珍しく本格チックな話であった。が、ラストの復讐は恐るべきだ。


「疑似放蕩症」/渡邊圭介/12ページ(2001/6/25読了)
何という虚しい疑似放蕩だろう。というか馬鹿馬鹿しすぎるその虚無の恋愛遊戯。こんなんだから最大悲劇もまたユーモアである。


「壺の中の五つの骨」/佐左木俊郎/14ページ(2001/6/25読了)
何だ、この中途半端な話は!? 殺人事件があり、夫と情夫数人が疑われた。それから関係者の話があっただけで終わってしまった。意味不明。


新青年 昭和五年新年増大號(第一號)=一册壹圓

「情獄」/大下宇陀兒/34ページ(一段組)(2001/6/25読了)
恐るべし犯罪者の告白手記である。中学時代からの友人であり、恩人である井神家を崩壊へと導いた恐るべき人間心理のキマグレが巻き起こした悲劇。


「死都[ポンペイ]の怪人」/辰野九紫/14ページ(2001/6/25読了)
最後にユーモアがある程度で全く面白くもなんともない。「死都の怪人」とは、イタリヤの国粋映画?・・・・・・、とにかくムッソリーニまで出てくるヘンテコぶりなのである。


「吸血鬼」/城昌幸/10ページ(2001/6/25読了)
実に異外な打明け話。エジプトの吸血鬼、そして血を吸われる快楽・・・・・・、たとえミイラのように痩せさらばえようとも、素晴らしい快感には勝てない・・・・・・、ああっ、麻薬の如く。


「素晴しき臍[へそ]の話」/岡戸武平/12ページ(2001/6/25読了)
何の燃料もなく動き続ける「永久器械運動」。この不可能を完成せしめた主人公の狂気。まさかそれが素晴らしき臍のおかげであるとは恐るべきである。