復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和四年〕


新青年 昭和四年十二月號(第十四號)=一册六十錢

「壜から出た手紙」/妹尾アキ夫/18ページ(2001/6/23読了)
一冊の詩集を巡るストーリー。底に隠されたキーとは!? と言う話で、ガンジス川に投げ込まれた告白書の壜の運命は非常に皮肉でユーモアだった。


「或る探訪記者の話」/平林初之輔/13ページ(2001/6/23読了)
ああっ、新聞記者の悪魔的仕事熱心よ。妊婦の考えていることが胎児に投影されるという、まるで不木の「印象」のごとき精神遺伝。この学説の裏には、好色な最低医者の姿がチラホラする。


新青年 昭和四年十一月號(第十三號)=一册六十錢

「復讐藝人」/渡邊圭介/16ページ(2001/6/23読了)
盲目の女のナイフが十字架男に次から次へと投げられる。そのシーンが印象的だが、どうも全体としては面白味が少ない。身勝手な恐怖復讐譚なのだが。


「錯覺の拷問」/佐左木俊郎/17ページ(2001/6/23読了)
決して普通の拷問をイメージするようなものではないが精神への拷問だ。学校である教師の蟇口が消失したことから起きた錯覚の二重悲劇。しかし単なる偶然の産物で、詰まらぬ真相よりも錯覚の方が面白いと言うことはある。


新青年 昭和四年十月増大號(第十二號)=一册八十錢

「夢の殺人」/濱尾四郎/16ページ(2001/6/21読了)
恐るべき夢遊病者要之助の殺害計画。しかし正当防衛の鎧を着たこの計画には意外な落とし穴が待っていたのだ。秀作だろう。


「空[くう]を飛ぶパラソル」/夢野久作/26ページ(2001/6/21読了)
文章自体は面白いような気もするが、肝心の中身の面白味が今一つとしか言えない。半端な感じなのだ。


「赤耀館事件の眞相」/海野十三/34ページ(2001/6/21読了)
帆村唱六なる名探偵が出てくるが、帆村荘六とは絶対的に別人であるようだ。色んな点でチョット邪道なところもあるような気もするが、なかなかの本格探偵小説である。X線及び寒暖計、湿度計、気圧計で謎を明かすのは美事であるだろう。更に秀逸なのは毒殺トリックである。ちなみにプロットに癩病も出てくるが特に誤解的表現は皆無であった。


「惡運」/城昌幸/6ページ(2001/6/21読了)
掌編であり、まぁ、それなりに面白い程度のもの。


「鬼頭夫妻の遊戯三昧」/大下宇陀兒/22ページ(2001/6/21読了)
恐るべき四月馬鹿遊戯。それを利用した真偽の怪異。何か不足しているが、まぁ悪くはないだろう。


新青年 昭和四年九月號(第十一號)=一册八十錢

「花嫁の訂正 ―夫婦哲學―」/渡邊温/12ページ(2001/6/21読了)
ああっ、美事な配偶者取り替え術。一カ年の新婚夫婦二組が仲良く交際していたが・・・というユーモア話。


「赧[あから]顔の商人」/葛山二郎/12ページ(2001/6/21読了)
大したことない。恐るべき人の欲望の話から展開していく。最後が少しだけ見物か。


「呪はれた惡戯」/瀬下耽/11ページ(2001/6/21読了)
大したものでもないが、「トリ・・・」の謎となる兇器が少し面白い。


新青年 昭和四年夏季増刊(第十號)

「佝僂記」/渡邊圭介/20ページ(2001/6/21読了)
些かアッサリしすぎているが、なかなか面白い探偵小説だ。佝僂男が自殺して、暫く後、謎の怪火が自殺家屋をつつんだ。その佝僂男、謎のクロスワードパズルに関する遺書を残していて・・・・・・、さて、、この世の星のキーワードは何を意味するか!?


「反對訊問」/山本禾太郎/14ページ(2001/6/21読了)
禾太郎らしい形式なのだろうが、駄作である。証人と弁護人二人の対話形式であるのでだが、中身は詰まらない上に普通過ぎるのである。


新青年 昭和四年八月號(第九號)=一册六十錢

「都會の怪異」/城昌幸/8ページ(2001/6/21読了)
単なる怪談四連発。もっとも怪談もどきのユーモアも含めてだ。とにかくも良くある普通の怪談なので、取るに足らないだろう。


新青年 昭和四年七月號(第八號)=一册六十錢

「黄昏の告白」/濱尾四郎/(2001/6/18読了)
妻が死に、強盗が死んだ。夫たる男はその妻と子に疑心を持っていたが・・・・・・、告白するもの、告白されるもの、物凄い効果がラストにあるのだ。もっとも全体としては今一つの感は拭えないよう気がするが。


「リウ・キノウの不思議な夢」/大下宇陀兒/4ページ(一段組)(2001/6/18読了)
全然面白味のない掌編。


「氷上の殺人」/伊藤松雄/15ページ(2001/6/18読了)
とりあえず本格物。意外な隠し場所。


「僞[いつはり]の記憶」/葛山二郎/8ページ(2001/6/18読了)
既視感にも似た偽りの記憶。つまり既に経験したような感じがするのである。これに取り憑かれた男の話。真の記憶か、偽の記憶なのかの決定的判断に本格的ものを感じる。


戸崎町だより(所謂編輯後記)、によると延原謙主幹の時代は今号で終結。延原は「朝日」の編輯部に移り、次号より「新青年」は水谷準、荒木十三郎(=橋本五郎)の二人体制になるとのこと。


新青年 昭和四年六月増大號(第七號)=一册壹圓

「白蛇の死」/海野十三/15ページ(2001/6/18読了)
変電所での謎の三分間の殺人事件プラスその死体のバラバラ事件。その被害者が白蛇のような肌の持ち主たる妖婦お由だったのである。内容はパンチも中途半端で全然足らず大したものではない。


「假面の決闘」/瀬下耽/4ページ(2001/6/18読了)
掌編ながら、凄い効果的復讐譚。仮面の決闘に、これほどの確実なトリックが用いられるとは!


「私はかうして死んだ!」/平林初之輔/12ページ(2001/6/18読了)
法律上死んだ人間の完成。死んでいるのに実際は生きている恐るべき状態。安易な死亡手続きを糾弾したものだろうか!?


「エレヴェタア事件」/石濱金作/8ページ(2001/6/18読了)
全然興味薄し!所謂噂の恐怖とユーモアなんだろうが。


「死の倒影」/大下宇陀兒/24ページ(2001/6/18読了)
殺人魔の恐るべき手記。小学生時代からの屈折した性格と犯罪を記しており、二つの未露見殺人を含めた三つの殺人。最初の方は物凄さも感じたが、後になると意気込みとは逆にやや効果が薄れている感じがする。もっとも怪画「死の倒影」の秘密の部分は凄かったが。


新青年 昭和四年五月號(第六號)=一册六十錢

「父の不思議」/稻垣足穂/6ページ(2001/6/14読了)
相変わらず不可思議な話。


「遺書(かきおき)に就て」/渡邊温/13ページ(2001/6/14読了)
珍しく本格ものである。真相が二転三転としていく様が面白くなかなかの作品。


新青年 昭和四年四月増大號(第五號)=一册壹圓

「奇聲山」/甲賀三郎/10ページ(2001/6/14読了)
全然大したことはない。奇声山というのは、角力が弱いことと、奇声で謡う持ち主だから付いたあだ名であり、これはその奇声山が臨時雇いから、准社員になるために仕組んだ奇計の物語なのである。でもやっぱり凡作に過ぎない。


「R島事件」/瀬下耽/22ページ(2001/6/14読了)
本格ものである。自然を利用した謎はなかなか面白い部分もあった。


「二萬圓」/川田功/8ページ(2001/6/14読了)
復讐物語のように見えて、底には恐るべき詭計が潜んでいる意表。


「支那米の袋」/夢野久作/32ページ(一段組)(2001/6/14読了)
一生に一度の恐るべき遊戯の恐怖。異国の怪しげな話である。まぁ、大したこともないが。


「ペリカン後日譚(ものがたり)」/橋本五郎/25ページ(2001/6/14読了)
これはアンチ本格ものの秀作である。名探偵・・・、確かに推理は作り物臭かったが、それも伏線だったとは、驚くばかりである。まさに真のユーモア探偵譚だといえるだろう。さて、その名探偵、犬の元の飼い主を言い当てたり、区にとって大事な龍眼を瞬く間に探し出したりして、名探偵の名を欲しいままにするに至ったのであるが、誘拐事件を依頼されるに及んで、ほとほと困り果ててしまったのである。しかし名探偵の眼力は伊達ではなかったのだ。ユーモア爆発。


「惡魔の弟子」/濱尾四郎/31ペ−ジ(2001/6/14読了)
恐るべき犯罪事実の手記。しかも悪魔の弟子の殺人嫌疑者が、その悪魔である検事に送った手紙なのである。錯誤に沈み、更には思いもしない結果を生んだ完全犯罪の計画は、悪魔の弟子に相応しい滑稽な末路を生んだと言っても良いものなのだ。同性愛や何やらの怪異をも内包する浜尾の筆力にも注目。


一記者の署名の「戸崎町だより」(=編輯後記)より少々乱歩関連の記事を引用
 ◇3月號に江戸川亂歩氏の「空気男」を豫告した。同氏はそのためわざ\/和歌山県勝浦の淋しく不便な温泉に俗塵を避けて精進してくれたのであるが、そして編輯局は出來るだけ〆切を延して力作の出來上るのを待つたのであるが、遂に間に合はず、讀者諸君に對して違約するの已むなきに至つたことを、ここに謝する次第である。
◇亂歩氏はたとひどんなに苦しくても、間に合わせのものは書きたくないと云つてゐる。その眞劍な態度に對しても、どうか御寛恕を得たい。――これは頼まれたわけでないが、亂歩氏の代辯である。
◇その代り、来月こそはどうしてもすばらしい力作を誌上に飾りたいものである。實は同氏には「空氣男」「押繪と旅する男」ほか二三の腹案があるのだが、それが十分醗酵しないため、筆にのらないでゐるのであるから。

と、これを読むと、嘗て《写真報知》に連載し、中絶した「空気男」の続きを書こうとしていた様子がわかろうではないか。最も、これは戦後「ぺてん師と空気男」でようやく成し遂げられたことであったが。


新青年 昭和四年三月號(第四號)=一册六十錢

「假面の男」/平林初之輔/20ページ(2001/6/13読了)
探偵戯曲である。おかめの面を被る仮面強盗。想像すると笑い出したいが、それだけの恐怖だ。金持ちのものを盗り、貧しきものに還元する単純な話ではあるが、その奥には平林氏の非階級的平等指向のようなものの臭いがするし、なかなかの面白さだった。結末まで義賊の物語には悲劇は無い。


「龍吐水(ポンプ)の箱」/山本禾太郎/17ページ(2001/6/13読了)
禾太郎がこの手のユーモア探小を書くとは発見であり、随分面白い作品でもあった。久山秀吉、隼の秀が主人公の一人という、なんかどっかで見たことのある設定からしてユーモアだ。その彼は職が職だけに独房に入れられてしまうが、隣の独房者に同性愛にも近いものを感じてしまう所も描写も良いし、看守にそれを邪魔されたと早合点するところも面白い。その際の龍吐水の箱の錯誤は、之は大したように思われないが、それの仕掛け人がまたちょっと意表であり、読後感もスッキリして良い。


「少女」/渡邊温/6ぺーじ(2001/6/13読了)
何やら全然探偵小説えはないが、情緒に満ちた人の心理の話、とでも言うべきだろうか。悪くはない。


新青年 昭和四年新春増刊(第三號)

「蛞蝓奇譚」/大下宇陀兒/16ページ(2001/6/13読了)
それなりに恐奇も感じ、面白いが、どうも結末がいけない。蛞蝓の妖術が本当にいい加減な推理で台無しになっている感じがするのである。


「双生兒(ふたご)」/横溝正史/21ページ(2001/6/13読了)
恐るべき双生児への疑心暗鬼、恐るべき偏執狂(モノマニア)の錯誤。なかなかの心理的探偵小説であり面白い。さすがは作者自身が乱歩の「双生児」の姉妹編と言うだけのことはあるのである。


新青年 昭和四年二月號(第二號)=一册六十錢

「川越雄作の不思議な旅館」/横溝正史/15ページ(2001/6/12読了)
全然探偵小説でなく、ユーモアというかなんというかという短篇なのだが、とにかく横溝(川越雄作)は浅草の廻転木馬からヒントを得て、愉快な旅館を考案したのである。


「彼が殺したか」(完結篇)/濱尾四郎/29ページ(2001/6/12読了)
恐るべき真相!法廷ものが、これほど狂奇に化けるとは、さすが浜尾子爵である。


新青年 昭和四年新春増大號(第一號)

「青バスの女」/辰野九紫/12ページ(2001/6/12読了)
別に悪い意味でもないが、騙された憤慨居士の話。大したものでもなく、探偵小説と言うよりも日常の面白い錯誤の話であろう。


「彼が殺したか」/濱尾四郎/29ページ(2001/6/12読了)
恐るべき法廷犯罪小説の前篇である。完全なる自白、程度の証拠のある事件は一体どうなると言うのか!?


「女を捜せ(シエルシエ・ラ・フアンム)」/甲賀三郎/43ページ(2001/6/12読了)
犯罪を探し求める男の物語。犯罪のある所に女あり、という法則のようなものを逆説的に解釈し、彼は女を捜して、求める犯罪にぶつかる、という奇人である。その彼は主人公の友人。感想としては、本格としての材料提出など面白い面も多々あるが、どうも頂けない部分が多い気がする。そもそも題名の暗示が全然重要視されていないのである。それに中編という長さの割にどうも結末も大したことのないあっけない感じもある、それに過去の事件の探索と言うせいでもないだろうが、何か探偵小説的魅力を欠いてるような気がする。もちろん怪奇味がないとは言わないし、謎もなかなかクロスしていて面白いのだが。