復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和二年〕


新青年 昭和二年第十四號(十二月號)

クリスマス・ナンバー

「一枚の地圖」(楠田匡介第六話)/延原謙/14ページ(2001/5/18読了)
悪党の最後とはこんなものなのか・・・・・・。しかし突然のあっけなさすぎる感がする。


新青年 昭和二年第十三號(十一月號)

ユーモア短篇集

「二重人格者」/小酒井不木/9ページ(2001/5/18読了)
「赦罪」という掌編も内包されていたが、こちらは「印象」にユーモアを付加したような作品。で、「二重人格者」だが、大星由良之助と高師直という二つの人格を持ってしまったが、その二つの入れ替わる間隔が短くなってきている。これでは自滅するのではないか、というのを医者に相談に行った話。ユーモアの固まりである。


「一枚の地圖」(「楠田匡介の惡黨振り」第五話)/山本禾太郎/15ページ(2001/5/18読了)
今までの楠田ものと大きく変わり、禾太郎らしい裁判シーンの羅列である。楠田匡介も検察と弁護人の客体に過ぎない。地図を根拠に殺人罪の容疑で検察に訴えられた匡介を弁護側がどう守るというのか!?


新青年 昭和二年第十二號(十月號)=六十錢

創作飜譯傑作集

「股から覗く」/葛山二郎/28ページ(2001/5/11読了)
股から覗くと真実や美が見えるという一種の変人が、マラソン大会時の殺人事件を目撃。しかしその証言たるも不可思議なもので、疑わしい容疑者は増えるばかり。結局は恐れていたとおり、大した謎でもなんでもなかったのだが、面白い作品であるには違いはない。恐るべきユーモアとも言える本格。


「柘榴病」/瀬下耽/11ページ(2001/5/11読了)
怪奇探偵小説の秀作だ。柘榴病という世にも恐ろしい死の病を治す術を得た医師の懴悔話。人はここまで狂気的な貪欲者になれるというのか!?


「瓶詰奇談」/稲垣足穂/8ページ(2001/5/11読了)
P兄弟の幻想話。妖異を思う存分吸い込むが良い。


「舞馬」/牧逸馬/10ページ(2001/5/18読了)
江戸犯罪小説。大して面白くない。


「流れ三つ星」(「楠田匡介の惡黨振り」第四話)/角田喜久雄/15ページ(2001/5/18読了)
花火の流れ三つ星の恐怖・猟奇。楠田匡介と怪人C・Cとの悲しき勝負の行方は如何に!?


「追ひかけられた男の話」/水谷準/9ページ(2001/5/18読了)
大したものではない。人殺しをしたという恐怖観念に取り憑かれた男の果ては?


「菰田村事件」/甲賀三郎/34ページ(2001/5/18読了)
美事な秀作中篇ではないか!菰田村という舞台で、村人から信頼されている大地主を中心に事件は展開していき、村人の証言や遺留品と言った本格物の常道を上手く、そして効果的に利用するという手腕はさすがである。更に恋愛や感銘などなどのような追加要素を付加することで最終的な読後感も大幅に増進していると言って良い。メモ程度の蛇足だが、あまり意味なく珍田徳清という私立探偵が登場している。


新青年 昭和二年第十一號(九月號)=一册六十錢

劇と映畫號

「収穫」/小舟勝二/8ページ(2001/4/20読了)
面白味がよくわからない作品だった。


「人肉の腸詰(ソ−セイジ)」(「楠田匡介の惡黨振り」第三話)/妹尾アキ夫/15ページ(2001/4/20読了)
危うし悪党になり切れぬ楠田匡介。人肉ソーセージにされてしまうというのか・・・、という相変わらずのユーモア探偵小説。


「どぶ鼠」/渡邊温/3ページ(2001/4/20読了)
短篇シナリオコーナーの掌編


※この号には、「疑問の黒枠」の映画撮影の様子を書いた文章(渡邊温の取材)があった。なお、監督は一寸法師の志波監督(五月号の引用参照)ではなく、直木監督とのことである。


その小酒井不木の「疑問の黒枠」だが、早くも単行本の宣伝が載っていた。大阪の波屋書房という出版社の「世界探偵文藝叢書」の第七巻である。その宣伝ページに江戸川乱歩執筆の紹介文が載っているので、引用させて頂こう。
 小酒井氏の「疑問の黒枠」これは未曾有の大作である。探偵的な魅力は實に廣い分野を持つてゐるのだが、この作はそのどちらかの端に位するものだ。つまり極端に推理的な興味を追ひ、しかもそこに些の誤謬をも齎らさない。實際このくらゐ緻密で、論理的で科學的な探偵小説は、外國にもその例を求める事が出來ないだろう。其處にこの作の、拔くべからざる、がつしりとした魅力があり、讀者をして最大の賛辭を呈せしむるだらう。(江戸川亂歩)
ちなみに、この「世界探偵文藝叢書」シリーズ第六巻は乱歩の「闇に蠢く」である。その本の紹介文も引用させて頂くとしよう。ちなみに署名はないので、編集部の筆だと思う。
 本書は江戸川亂歩氏が畢生の努力を傾注した氏の最大長篇にして、本邦探偵小説界を一躍世界の最高水準にまで高めた日本の歴史的収穫物である。構想素より雄大、食人種の深刻なる運命を描いて一讀肌膚に新しき戦慄を生ぜしめ、奇怪なる事件は紛糾に紛糾を重ねて、遂に其の趨く處を知らず。外に「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」「心理試験」の傑作三篇を集む


新青年 昭和二年第九號(八月號)=一册六十錢

「疑問の黒枠(解決編)」/小酒井不木/21ページ(2001/4/3読了)
既に述べたとおり、単行本で読んだので挿し絵だけで楽しんだ。
ちなみに次号で発表されたのだが、懸賞の正解者は厳密にはゼロで、犯人名だけでもたった三名だったとのこと。この難解なパズルはやはりアンフェアだったのだろう。確かに回ごとの連関性の断ち切りには首を傾げてしまう点もある。それでももちろん名作には変わりないが。


「綱(ロープ)」/瀬下耽/(2001/4/3読了)
懸賞創作探偵小説二等當選の作。ロープを切ったのは誰だ?という心理が克明に描かれており秀作。ちなみに一等は「股から覗く」の葛山二郎(十月號収録)。


「連作探偵小説 楠田匡介の惡黨振り」
「第二話 笑ふ楠田匡介」/水谷準/14ページ(2001/4/3読了)
上京後の楠田匡介の初めての哄笑いまでの話。ご都合主義的なユーモアはあるのかもしれないが、弱小で面白味も少ない。


「恐ろしき馬券 S・Yの出鱈目話一」/山名耕作/3ページ(2001/4/3読了)
創作欄にはなかったが、ナンセンスなユーモア掌編だ。事実かは知らないが、このS・Yが横溝正史であるのは言うまでもない。(山名耕作の友人がS・Yらしい)


新青年 昭和二年第八號(七月號)=一册六十錢

涙香短篇集號

「連作探偵小説 楠田匡介の悪黨ぶり」
その編集部の前書き的文章を引用してみると、下記のようになる。
本號より又左記の六作家によりて連作小説を企ててみる事にした。但し此の度の連作は今迄のものと大分趣きを異にしてみる心算である。即ち連作とはいへ、從來の如き一貫したプロツトを持つてゐるのではなく、六人の作家たちは定まつた數名の主人公を、思ひ思ひ獨立した事件の中に踊らせるのである。作家の素質の相違により、主人公がある時は道徳家になり、ある時は反逆者になり、ある時はなんせんすになるであらうところに此の企ての面白味がある。
「第一話 火傷をした楠田匡介」/大下宇陀兒/16ページ(2001/4/3読了)
哀れ!楠田匡介。状況による機転と打算による入れ替わりトリックだったが、最後の結末はやはり小悪党に相応しいものだった。そう小悪党に。


「ロージカ」/山口海旋風/7ページ(2001/4/3読了)
ロシアでの話は、隠し場所のトリックの点でユーモアたっぷりだ。


「疑問の黒枠(第七回)」/小酒井不木/26ページ
とりあえず挿し絵だけ楽しむ。


新青年 昭和二年第七號(六月號)=一册六十錢

世界見世物號

「スィ−トピー」/妹尾アキ夫/13ページ(2001/3/6読了)
まずタイトルの「ィ」は本当は「ヰ」の小字版である。
途中までは単なる最低男の話かと思っていたが、意外や意外、アッと驚く結末であったことよ。


「夢」/田中早苗/4ページ(2001/3/6読了)
チョットした掌編である、ノスタルジー・・・・・・。


「疑問の黒枠(第六回)」/小酒井不木/26ページ
もう既に単行本で読了してしまったのだが、一応それ以外で注目すべき点。それは一ページ目全てが原稿用紙で占められていたことだ。つまり不木の直筆原稿の書式が見れた。あとは挿絵だろう。


新青年 昭和二年第六號(五月號)=一册六十錢

なんせんす號

「疑問の黒枠(第五回)」/小酒井不木/27ページ(2001/3/6読了)
実に久しぶりに続きを読んだ。とは言え、リアルタイムでも月一である、ゆえにでもないが、私も前の話を完全に近いほど覚えていたので大した問題はない。
で、本題の感想に入るが、謎はますます謎を生んでいる状況だ。毎回の終わりがこれが又面白いのだ。ちなみにこの回の題名は単純な印刷文字でなく、小酒井不木の直筆によるものであった。


「荒野」/甲賀三郎/13ページ(2001/1/24読了)
全二回だったので、一気に読むことにした。明日以降はまた新青年前号の主要創作に戻ることにする。
下篇である。謎は大したものではなかったので、些か物足りなかったものの、それなりに痛快味も感じた。


「斷食の幻想」/小酒井不木/3ページ(2001/2/9読了)
この号の目玉?「なんせんすの頁」に収録。性欲のハムレットが変じて、食欲の・・・にというユーモアコント。


久山秀子の探偵小説「隼の勝利」のラストページの大部分に乱歩に関わる宣伝文が挿入されていたので、以下に全文そのまま引用しておく、とする。なお、署名の類がないので執筆者は判断できないが、横溝正史か渡邊温かいずれにせよ編集同人の誰かであろう。
創作探偵小説選集と一寸法師
 宣傳二つ。
 左に一寸御紹介申上げる。
 一は春陽堂發行の「創作探偵小説選集」第二卷。
 一は映畫になつた江戸川亂歩氏作「一寸法師」
 共に本誌上に宣傳の價値あるものと信ずるから、一寸一言。
 春陽堂發行の「創作探偵小説選集」は昨年度に於いて、探偵小説がどの方向に向かつて進轉して行つたか、それをみるに最も適當なものであらう。小酒井不木、甲賀三郎、江戸川亂歩氏の三統領を始め、探偵文壇の中堅、新進作家等二十餘氏が、各々己が最も傑作と信ずる所のものを提供し、しかも一方には、佐々木茂索、水守龜之助、片岡鐵兵、石濱金作氏等の文壇作家にも、その最も探偵趣味の濃厚なる傑作を勸誘、共載してある。
 從つて數多ある選集の中にも、これ程種んな色彩を一册の中に盛つたものは、先づこれを措いて他にあるまいと思はれる。
 例へば。江戸川亂歩氏の「鏡地獄」と佐々木茂索氏の「讀唇難」それに地味井平造氏の「煙突奇譚」などをみると、まるで違つた方向から、しかも歸する處は唯一つの探偵趣味に於て、我々に深い滿足を與えて呉れる。
 他に甲賀三郎氏の「惡戯」小酒井不木氏の「印象」等、共に新青年讀者にはお馴染みのあるものだが、かうして再讀してみると、今更のやうに深い興味のあるのを感ずるだらう。
    ◇
 東西朝日新聞に掲載されて、一般家庭に、探偵小説といふものが如何に面白いものであるかといふ事も、徹底させた江戸川亂歩氏の「一寸法師」が、最近志波西果氏の監督によつて映畫化された。
 俳優は石井漠を初め殆んど映畫に對しては素人ともいふべき人々のみであるが、それだけに眞劔で、素直で面白い物が出來上るだらうと思はれる。
 私はスナツプ・ショツトを取らせて貰ふと思つて二三度訪問したが、その度に都合が惡くて、到頭本號には間に合はなかつた。聞く所によると、名古屋へ、ロケーションに出かけたり、横濱で徹夜したり、撮影も又並々ならず苦勞なものである。
 この撮影に關係してゐる人達に、私達はほんの二三度會つたきりだが、先づ第一に感じた事は、志波西果氏を初め、キヤメラの酒井健三氏及び俳優諸君にしても、皆が皆まるでいゝ意味の文學青年みたいに眞劔で 、普通の活動屋と言はれてゐる人たちとまるで違つた感じを持つてゐる事だ。
 問題の「一寸法師」に扮するのは、新聞で度々紹介されたやうに、九州にゐた説明者ださうだが、とても愛嬌者で、しかも中々熱心なものである。これはたしかに石井漠氏の明智小五郎と共に、この映畫の意外な拾物であると思ふ。
 因に志波西果氏は、この次には本誌連載中の小酒井不木氏の「疑問の黒枠」を撮るのだと言つて力んでゐた。

と、これで全文である。「疑問の黒枠」がこの通り志波西果監督のもとで映画化したかは、私は知らず調査したいところだ。上の方にある「左に一寸紹介〜」の左は本文のままである。本文が縦書きであるのは言うまでもないだろう。なお、改行は本文の通りに依った。あと、記すべき事としては、前半話題の春陽堂刊の「探偵小説創作選集」、これは2001年2月10日現在、春陽堂書店から復刻版が発売されているはずである。


新青年 昭和二年第五號(四月増大號)=一册八十錢

創作飜譯傑作撰集

江戸川亂歩の「パノラマ島奇譚」はとうとう(終篇)をむかえ、14ページ。二十一のつづき〜二十四までである。


「荒野」/甲賀三郎/20ページ(2001/1/24読了)
上篇である。新婚の二人は早速旅行に出掛けるも新妻がなぜかある田舎に行きたがった。そこに関わる謎とは?名探偵木村清シリーズ


「誰が何故彼を殺したか」/平林初之輔/13ページ(2001/1/27読了)
周囲の誰からもその素行から最低人間としか認識されないある男への殺人。その事件に対して、犯罪心理を駆使する。


「なば山荒らし」/大下宇陀兒/16ページ(2001/1/27読了)
なば、というのは福岡弁で松茸のことらしい。福岡人の私すらも初めて知った事実であった。それにしても香椎という地名は小説で頻繁に出てくる。昔椎茸で有名だったとは他の小説で聞いたことがあったが、松茸も生えていたとは、現在の福岡市の東の中心からは想像もできないほどである。で、余談はともかくとして、この話自体は探偵小説と言うよりも、ちょっとした計略を用いた子供の悪戯話。実際探偵趣味は稀薄である。


「滑川春麻呂の死」/土師清二/(2001/1/27読了)
人間画家の滑川春麻呂は変わり者であったが、その滑川の哀れすぎる死を描いた話。


「閉鎖を命ぜられた妖怪館」/山本禾太郎/16ページ(2001/1/30読了)
全然面白くなかった。どうも背景が強引すぎるのである。


「死なない蛸」/萩原朔太郎/2ページ(2001/1/30読了)
ゾッとするような飢えたるタコの詩。凄い。


「疑問の黒枠(第四回)」/小酒井不木/24ページ(2001/1/30読了)
犯罪方程式の突然の暗示に、チェスタートンの小説「孔雀の樹」(不木訳)などまで持ち出され、事件はますます奇々怪々、興味は尽きない。なお、今号から懸賞付き犯人当て小説になった。


「死屍を食ふ男」/葉山嘉樹/13ページ(2001/2/9読了)
恐るべき怪奇小説である。異性でも変態的であるのに、それがまさか・・・とは、これを恐怖と言わずして如何なるものゾ。 


「+・−」/城昌幸/7ページ(2001/2/9読了)
人の総和はプラスマイナス、最後のセリフに意味悟るショートショート。


シナリオ「氷れる花嫁」/渡邊温/6ページ(2001/2/9読了)
小説ではないが、「進軍」「老いたる父と母」「子供と淫賣婦」の三篇。いずれも残酷ユーモア小品である。


「ネクタイ綺譚」/横溝正史/12ページ(2001/2/9読了)
ユーモア探偵小説で、題材も面白く、痛快味十分の短篇。、


(横溝生)署名の「編輯局から」の一部引用。
◆「パノラマ島奇譚」はかなり長い間、多大な好評で迎へられてゐたが、本號で目出度く解決を告げた。亂歩氏の血の吐くやうな辛苦を思ふと一寸涙ぐましくさへなる。殊に本月の分なんか脈搏百といふ體を押して執筆して戴いたものである。何とも感謝の言葉がない。
あと、他に情報としては、前号(昭和二年第四号)から森下雨村が同じ博文館の「文藝倶楽部」の編輯の方へ移動したので、横溝正史が「新青年」の編輯を一任されたという記事が注目される。
他、小酒井不木の連載長篇探偵小説「疑問の黒枠」を《驚くべきほどの好評》といい、《本当の意味で言えば、日本で最初の長篇探偵小説であるから当然のことである》としている。また小酒井氏に頼んで懸賞をつけることにしたとのこと。


新青年 昭和二年第四號(三月號)=一册六十錢

「疑問の黒枠」(第三回)/小酒井不木/25ページ(2001/1/23読了)
遺言状に及んで事件はいよいよ奇々怪々。


「嘘」/渡邊温/(2001/1/23読了)
まず渡邊温の「温」という字、本当は右上部が「日」ではなく、「恩」の上部である。
空想的な嘘のローマンスが空想的で・・・・・・、なかなか面白いユーモア探偵小説である。


「パノラマ島奇譚」休載についての編輯だよりの引用。署名はなかった。
「パノラマ島奇譚」は作者病氣に附き休載のやむなきに至りました。
ちなみにこの号から渡邊温が編集部に加わっている。


新青年 昭和二年第三號(二月號)=一册六十錢

カミ短篇集

乱歩の「パノラマ島奇譚(四)」で十四ページ、章は十九〜二十一である。


「疑問の黒枠」(第二回)/小酒井不木/27ページ(2001/1/22読了)
連載長篇で感想を書くのはなかなか難しいのだが、とりあえず書いておくと、混迷を極める謎の事件、殺人方程式の出番登場か!? とかいう不可解な感想になってしまうのである。。


「お手本」/城昌幸/2ページ(2001/1/22読了)
ホンの短すぎる小品、感傷的な恋の跡である。


「亡命客事件」/大下宇陀兒/20ページ(2001/1/23読了)
首のない死体など謎のある本格探偵物である。最初から最後まで興味を尽かせない面白さ、秀作である。


些か乱歩に触れていたので、横溝正史の編輯後記の記事も一部引用させていただく。
◆「疑問の黒枠」、「パノラマ島奇譚」、「二枚の肖像畫」共に多大の反響を頂戴してゐる。「疑問の黒枠」 の、あのガツシリと四つに組んだ堂々たる書き振りには何人も敬服せずには居られぬだらう。「パノラマ島奇譚」は本號に於てつひに「殺し場」までやつて來 た。この「殺し場」を書くのに作者がどんなに苦心をしたか、それは何人も企及し得ぬ所だらう。
なお、他に重要記事としては、この号で神部正次が編輯同人を事情により辞めることになった旨の文章などがあった。横溝正史も言及していたが、もちろん本人の最後の文章が主体であるのは言うまでもないだろう。


新青年 昭和二年第一號・新春増大號=一册八十錢

乱歩の「パノラマ島奇譚(三)」で二十ページ、章は十四〜十八である。なぜか前号まで一四という表記だったのが、十四表記に変わっている。


「疑問の黒枠」(第一回)/小酒井不木/26ページ(2001/1/19読了)
何という発端であろうか。予想は出来た!? しかしそれでも効果抜群なのである。恐るべし死亡広告と疑似葬式、そして・・・、小酒井不木の長篇探偵小説はどこへ進むのだろうか。


「發見」/佐藤春夫/5ページ(2001/1/19読了)
何か恐ろしく中途半端な小篇。いわゆる浮気証拠の髪の毛の話なのだが


「魔の池事件」/甲賀三郎/28ページ(2001/1/19読了)
S町のD坂を舞台にしたという「琥珀のパイプ」の主人公の春日良三が巻き込まれた事件。本格ミステリでお馴染みのあるトリックを効果的に使った完全犯罪。紙数の都合とやらで魔の池事件の一部しか収録できなかったとのことで、中途半端な感じもしないでもないが、トリックといい、妖しい感じといい、秀作であるのは間違いないところであろう。


「童話の天文學者」/稻垣足穂/8ページ(2001/1/19読了)
小説らしからぬもので、幻惑的な天文である。