復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和十二年〕

新青年 十二月増大號

「白痴美」/木々高太郎/27ページ(2002/2/15読了)
誰も入れないはずのアトリエ、持ち主が去ったアトリエ、そこに両腕が切断された女の死体が見つかった。それが実は究極の芸術・・・・・・、毛もない死体、それはミロのヴィーナスの如く。ミロのヴィーナスの秘密に迫り、それは¥が犯人動機にも繋がる恐るべき作品。実験の結果の白痴美の概念こそ、ギリシャのミロアフロディテの秘密を探ることだったのだ。


「時間器械」/丘丘十郎/10ページ(2002/2/15読了)
楊博士シリーズ。時間器械は不老不死の道具、それを発明したものだから大騒ぎなのだ。


「黄昏の花嫁」/妹尾アキ夫/16ページ(2002/2/15読了)
場末の古道具屋にあった若い女の半身像の名画。その中に恐るべき告白書が隠されていようとは。黄昏の花嫁、それはある画家が描いた至高の幻想。至上の花嫁。それが悲劇を呼んでしまったのだ。なかなかの佳作幻想小説と云う事が出来るだろう。狂的恋愛ながら純粋という儚さ。


「隼銃後の卷」/久山秀子/11ページ(2002/2/15読了)
隼お秀の昔の仲間たる由公が招集される話で、隼の腕も苦戦しつつも活躍、警部を痛快に手に取るのである。


新青年 十一月特別増大號

「聖コルソ島復讎奇譚」/橘外男/44ページ(2002/1/31読了)
ヴェネズエラを舞台にしたもの。聖コルソ島は恐るべき隔離的島で海賊の子孫の悪漢の血が連綿と受け継がれているという奇怪な島。そして島民だ。しかしそれと恋をしてしまった名門家の男が出たから命を狙われ、父からも突き放されてしまう悲劇。一人行方不明になってしまった男に、その妹とその恋人で男の友人たる主人公は心配するが・・・。悪夢のような墓場の楽園はコルソの復讐心を沸き立たせたのである。祭りで行われた地獄のプレゼント。悪魔のコルソに相応しい復讐・・・・・・。


「軍用鮫」/丘丘十郎/10ページ(2002/1/31読了)
科學小説。楊博士シリーズで、相変わらずユーモア科学だ。「新青年」の「軍用鼠」からヒントを得て、軍用鮫を考案。軍艦を沈める計画を中国政府から依頼されていただけにその軍用鮫の訓練に励み実戦でも大活躍だったが・・・、中国政府にとって楊博士が科学馬鹿であったことが悲劇だったのだ。


新青年 十月特別特大號

「見えざる敵」/丘丘十郎/11ページ(2002/1/28読了)
科学小説。新聞社社長のウルランド氏は楊博士を敵に回してしまったがためにとんでもない復讐にあってしまう。消身法の機械、この偉力は今から見れば何でもないからくりなのだが、ウルランド氏は恥を一身に背負うことになってしまったのだ。あまりに気の毒すぎる悪漢。


「亡霊の情熱」/渡邊啓助/16ページ(2002/1/28読了)
女学校にやって来た教師の主人公。そこで起きたのは一人の女生徒に意識を集中してしまう自身の姿。教師は気にすまいと思うが上手く行かず。しかし日記の恋文は女生徒に迫る中学生いる事を示し、轢死の亡霊は情熱を持って、魂に衝撃を与えたのである。少し怪奇じみた現実的恋愛小説と言っていいだろう。


「生不動」/橘外男/11ページ(2002/1/28読了)
北海道・留萌港に逃避行に来た主人公はそこで大火に遭い、余所の一家の燃えていくのを目の当たりにしてしまう。助かって欲しいとは願ったが・・・・・・。その時の気分は感傷となったのである。


「ある戰死」/横溝正史/16ページ(2002/1/28読了)
支那事変の戰死記事で知人の名前を見付けた。それがまた主人公の友恩人にとって因縁の人物なのだった指環から真相が判明し、殺人者の現状も明らかになるも、最後に恐ろしいどんでん返しな真相が待っていたのである。戦死人の語った内容の矛盾の秘密とは!?。


新青年 九月特大號

「密室殺人」/妹尾アキ夫/19ページ(2002/1/17読了)
本格物だが、どうも美事なまでに大々的に創意のない物に過ぎない。やはり妹尾アキ夫の物は怪奇幻想系に尽きるようである。同じ一組の部屋で妻が殺害された。密室だという事などから同じ密室内で眠っていた事になる夫に嫌疑が掛かるが・・・、そこには恐るべき殺人トリックが介在していたのである。作者も示唆するとおり創意が感じられない翻訳家らしい作品である。


「鐵の舌」/大下宇陀兒/25ページ(2002/1/17読了)
とりあえず解決。しかし読後感にしても決して良くなく、何だろう、この長篇は、と首を傾げてしまう種類なのである。


新青年 八月特大號

「鐵の舌」/大下宇陀兒/26ページ(2002/1/17読了)
どうも・・・・・・。とりあえずクライマックス近しだが・・・。


新青年 七月號

「鐵の舌」/大下宇陀兒/22ページ(2002/1/8読了)
主人公の鉄の舌は相変わらず、しかし過去の話に絡んできて、どこにもいるのが悪党なのだ。


新青年 六月特大號

「封建制」/木々高太郎/23ページ(2001/12/17読了)
幕末探偵小説。稲垣家の嫡流に伝わり続けるという口伝史。しかしこの小説自体が何が面白いのか皆目見当がつかない。そもそもどこが探偵小説なのかも分からない上に、幕末でもなさそうで、文学力も駄目。口伝史も正々堂々な仇討ちなどが美談とする武士道、忠義の話が変に展開し稲垣家の当時の主が発狂してしまうと言う話で、面白く無さ過ぎである。本当にこれは頂けない。


「鐵の舌」/大下宇陀兒/27ページ(2001/12/17読了)
連続探偵小説第4回。いよいよというよりようやく探偵小説らしさが出てきた。もっとも主人公は窮地に陥ってしまうのだが。しかし一方で大きく魂は救済されたのである。


「殺人液の話」/渡辺啓助/20ページ(2001/12/17読了)
満州に行っている息子の知人というのが、殺人液なるものを息子が発明し、更にその資金が要ると言ってきたというのだ。その真偽はかなり疑わしいものだが、とりあえず小金で追い返すも、残ったるは殺人液の瓶。それを中心に下宿のおかみである主人公の心理が微妙に変化していくのである。まぁまぁの作品だが、啓助らしい感じはあまりしない作品だと言えるだろう。さて、殺人液と三十円札の秘密はいかなるものだったか!?


新青年 五月特大號

「三十の顔を持った男」/横溝正史/28ページ(2001/12/11読了)
帝都二大新聞は相競い争っていた。そんな中、一方の新聞社が考案したのが、人間カメレオン鮫島勘太による懸賞企画。その三十の顔を持った男を見つけだすという企画を立てたのだ。しかしその勘太が殺されるに及んで事件はややこしくなってくるのだ。更には誘拐事件の発生。思いっきり通俗的な筋であるし、話も大したものではない。


「鐵の舌」/大下宇陀兒/25ページ(2001/12/11読了)
連続短篇探偵小説第三回。父のせいで苦しみ、更に最悪の事態に遭遇してしまう。、


新青年 四月號

「鐵の舌」/大下宇陀兒/26ページ(2001/12/4読了)
アドバルーンでの活躍などをみせ、旧誤解も解消。しかし父よあなたは最低という言葉を知っているのか!


「恋慕時計」/大阪圭吉/10ページ(2001/12/4読了)
何か乱歩の「算盤」にも似た面白い味がある探偵小説だ。ここで言う恋慕時計とはエレベータの針の事。その103番エレベータの変調に5階売り場の店員の主人公が気が付き、遂にはその恋慕時計のトリックにも気が付いたのである。暗号解読家はその時点では勝者だった。しかしユーモア物の悲しさか!? 明白な錯誤に包まれていたのだ。ここが「算盤」と違う所。でも面白い一篇である。


「軍用鼠」/海野十三/24ページ(2001/12/5読了)
探偵小説家の梅野十伍は朝までに一つ書き上げなければならなかった。しかしネタはなく、しかも批評を恐怖していた。だが、ふと鼠の顔や天井という暗示を得、鼠に関するものを書きだすことに成功するも、しかし上手く探偵小説にならない。本質にならない。だが、最終的に書き上げた「軍用鼠」、これは二十匹まで無関税だが、二十一匹目からは一ルーブルというもの。その密輸入を企てた。税関との面白い対決である。一時は二十一匹や二十八匹のトリック、しかしそれもばれての八ルーブリ。払ったが、さて、この対決の行方は。そして軍用鼠の恐るべき計画とは!? そして梅野十伍の運命は!? 蛇足までにミッキーマウスまでもユーモア的筋に出て来る。


「タンタラスの呪い皿」/渡辺啓助/22ページ(2001/12/5読了)
連続短篇第四話。主人公は上野公園近くのある遺作展覧会でタンタラスの呪い皿という作品。しかも買約済となっているものに直面する。タンタラスの永劫の渇き地獄。そして肖像画の不思議。現れたるヴェールの女の悪夢のような暗示的言葉。主人公は戦慄しつつも、タンタラスの呪い皿に纏わる事を調査してみるが・・・。恐るべきはタンタラスの呪い皿に込められた悪魔的呪詛の念であったのだ。


新青年 三月號

「鐵の舌 第一回」/大下宇陀兒/24ページ(2001/12/4読了)
新連載長篇探偵小説。高等学校試験に三年連続で落ちた兄(主人公)は弟も受ける年になり少し憂鬱。そんな時に旧友の中学同級生で集まり同じ同級生の自殺と連絡受け、遺書らしき物を見る事になる。その遺書には旧友との関係妖婦ミラディ(三銃士)のために死すしかなくなった旨。偶像は崩れ、旧友は自己の世間体だけを気にする、結局誰も死ねなかったが、弟も同じような状況を起こし、兄は救出。そして合格。しかし犠牲! 何という残酷な父だったか・・・。今のところ探偵小説実はゼロである。


「屍くづれ」/渡辺啓助/20ページ(2001/12/4読了)
連続短篇第三。なぜか「幽霊屋敷」という表札がかかっている家。見た目に陰気はないはずだが、何かその表札につられて妖異も感じるのだ。そしてそれに伴う噂。その夫婦は炭坑爆発事故で包帯男となり直ってもなぜか取らない夫とその夫になぜか恐怖の念を感じる妻。そして女中と男。確かに幽霊いてもおかしくなかっtなおだ。この奸計。しかし新味も全くないし、全然大したことないのが実情で、駄目作の典型。


新青年 二月號

「地蟲」/小栗虫太郎/30ページ(2001/12/4読了)
海に流れる死体が一つ。それが更に船の推進機にかかってしまったのだ。これがこの事件を混乱させた元になったのかも知れない。この本格は意外な香りの魔術や過去の三、四、五、六というものも絡み合い構成されているのだ。その巧妙さ。さて、この秘密渦巻く連続殺人事件の真相とは如何に驚くべき物だったか。


「血蝙蝠」/渡辺啓助/20ページ(2001/12/4読了)
連続短篇第二。十五歳の少年はハッキリこの種の不思議な物音を楽しんだに違いない、深夜の小学校校舎。遊びで忍び込むがそこには悲しくも縁がなかったという憧れがあった。不断から暗闇を好み夜は明らかに元気になる不可思議な匂いだった。三日連続の小学校の闇蝙蝠遊には、しかし恐るべき罠が待っていたのだ。ああっ、血の悪霊よ。それに悪意が有るから邪なのだ。決して蝙蝠でない。


新青年 一月特大號

「聖悪魔」/渡辺啓助/20ページ(2001/11/29読了)
連続短篇第一話。牧師になった男は内なる狂的な悪質を主張しだしていた。しかも癲癇発作も起こりだし、その結果の朦朧状態になったら、それを抑制しきれないのではないかと危惧していた。だからこその「悪魔日記」。これに空想の悪魔思念を書き綴る事で表向きの牧師の善を維持出来たのである。しかしある時純な弟子に読まれてしまう事で悪魔日記は空想を越えてしまう状況を作り出してしまったのだ。この奇妙な暗示。空想の産物はあくまでそこに留まってくれていたというのだろうか。


「夜の翼」/木々高太郎/14ページ(2001/11/29読了)
フランスを舞台に大心地先生の精神分析が炸裂! 銃で撃たれたフランス女、それは可哀想な境遇だったが、主人公の日本人とは良い友達だった。それが腕の中で死してしまうのだ。犯人は逃亡中だというので、国中マルセイユまで追跡するも・・・・・・。夜の翼への逃亡の意味には意外な理由の奸計が隠されていたのである。強迫観念恐るべしである。