復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和十一年〕

新青年 十二月號

「音波の殺人」/野村胡堂/26ページ(2001/11/26読了)
本格科学探偵小説。人気歌手の女が銃殺された。その女は科学者の夫と別居中。で、その夫が殺人音波で殺害したと訳の分からないことを言い出したのである。夫にはアリバイがあるし、他にも多く有力な嫌疑者がいるのでそれは狂人の戯言とされたのだが・・・・・・、果たして音波の殺人のその真意はいったい何だったか!?


新青年 十月特大號

「文学少女」/木々高太郎/22ページ(2001/11/26読了)
なるほど広義ですら探偵小説味はあまりにも稀薄である。それらしいのがプロットに僅かに組み込まれているに過ぎぬ。まぁ、そういう普通小説として読めば面白くはあるのだが。文学少女は文学に恋愛していたのだろう。しかし無理解な周辺の中で、それは悲しみでしかなかった。文学少女は一児の母となり、ひょんなことからその娘を大心地先生に分析しらうことで、晴れた道を歩もうとしていたのだが、それも悲しい錯誤と運命によってしまった。しかしそれは幸せだったのやもしれぬ。生涯の感謝を捧げることが出来たほどの事が出来たのだから。


新青年 八月號

「凧」/大下宇陀兒/32ページ(2001/11/22読了)
それは親子愛の物語だった。あまりに哀しすぎる誤解に満ちでた親子愛。二つの凧は手段であり、インスピレーションだったのである。主人公の幼年時から青年と言える時期までに至る展開。父に無理難題を押しつけられ苛められる神童の主人公。というのも不義の子と疑われてしまったからで、しかしそれにはある意味疑も当然であったのだが。そしてその父の死が全てを変えた・・・。この親子にあった真実とは!?


新青年 七月號

「上海の掏摸」/森下雨村/13ページ(2001/11/22読了)
連載短篇その七。相変わらず面白くも何ともないこの連続短篇。延原謙以上の失敗ではなかったか。運命判断は上海の掏摸によって正しい道に導かれたのである。


「深夜の音楽葬」/妹尾アキ夫/14ページ(2001/11/22読了)
妹尾アキ夫の作品には面白い物が多いが、この作品も又秀作といってもいいと思う。深夜の音楽葬とはそれほど絶大なる効果を上げているのである。しかもゾッとするような読後感を残す陰謀を。忘れ去られた盲目のヴァイオリン弾きの主人公は上海にやってきていた。それが魔都と呼ばれる街に踏み込んだ者の運命だったのかも知れない。そこにどこからか届けられるヘリオトロープの花束。それは愛を求める女からのものだったのだが・・・・・・、それが盲目ゆえに悲しき葬式を迎える事になってしまおうとは。しかしある意味では幸福。何という悲劇か。しかしその悪意の奸計には許せまじの苛立ちすらも感じさせる。


新青年 六月號

「冥土行進曲」/夢野久作/34ページ(2001/11/21読了)
読切中篇遺稿である。このタイトルが遺稿としては皮肉的に重なり合っている。しかし主人公と夢野には決定的すぎる差があったのだ。残りの二週間の命と宣告され、主人公は復讐にその時間を充てることにしたが・・・、何だか変な調子に終わってしまったのであった。


「救はれた男」/森下雨村/10ページ(2001/11/21読了)
連続短篇その六。いよいよ面白からぬ話。


「深夜の市長 終回」/海野十三/28ページ(2001/11/21読了)
何かヘンテコな事件の結末だ。深夜の市長の秘密は少し意外だったが。


新青年 五月號

「深夜の市長 第四回」/海野十三/24ページ(2001/11/21読了)
いよいよ大展開。


「噛みつくペット」/森下雨村/14ページ(2001/11/21読了)
連載短篇その五。船長とペットの幸福話である。果たしてユーモアだったのか? よくわからないが、普通小説だろうか? ペットとは二等機関士が購入した猿公であり、社長令嬢が欲っしていたというのである。ただその猿公が乱暴者で・・・・・、と言う展開。海に落ちた猿公、猿公と二等機関士の仲の良さの不思議? もある。


新青年 四月特大號

「老院長の幸福」/大下宇陀兒/8ページ(2001/11/16読了)
大したものではない。やはりカタストロフィーは必要だ。この手の話で幸福なんて許されぬはずなのに、と言うかつまらない要因を更に作っているだけでないか。主人公の老院長は近ごろやってきた別の医院のために退屈になっていった。その際の温泉街行きだったが、恐ろしい罠を仕掛けたのである。でも幸い孫が四十度でも老院長はニコニコでいられたのである。


「深夜の市長 第三回」/海野十三/24ページ(2001/11/16読了)
いよいよ展開と言いたい所だが、妙な感じになってきている。照子の怪児・絹坊は太陽を嫌うし、深夜の市長は悪魔と呼ばれるし。


「海蛇」/西尾正/14ページ(2001/11/21読了)
海蛇の鬼気に魅入られてしまったとでもいうのだろうか。岬で消える女の正体は狂念の源泉であったのである。悪魔の妄想病の夫から手紙を受け取った妻は現地へ向かうが・・・・・・・。


「想像」/城昌幸/8ページ(2001/11/21読了)
社長は自分の美しきタイピストに誘惑を感じ口説く所から、愛も何も感じなくなる所までを数段階に分けて想像した。何という虚しい作業、なれの果てだったことか。野地にそのタイピストはフィアンセとの結婚生活の虚しさを想像して語るも・・・・・・・。


「隼太の花瓶」/森下雨村/14ページ(2001/11/21読了)
ペテン小説と思いきや、魂の小説だったという代物。隼太とは有名な窒技の巨匠であったが、その命より大事な花瓶をめぐるドイツ人と日本人の話。その例えXXでも魂そのものであるかも知れないと言う教訓も含んでいるのだろうか? 売らねばならぬ。しかし妻の次ぎには大事だったのだ。


新青年 三月號

「深夜の市長」/海野十三/24ページ(2001/11/16読了)
第二回も紛糾だ。またも出て来る隣家の謎の女。深夜の市長の奇妙な地位。そしてその深夜の市長の失踪と来ては。


「四つの眼」/森下雨村/14ページ(2001/11/16読了)
連続短篇その三。タイトルから怪奇を期待したが、これも探偵小説とも云えない下らない作品で、ある意味読むのも疲れるのである。四つの眼とは四つの義眼であったが、船の商品見本に入っていた四つの眼を巡る話。そのカラクリとは!?


新青年 二月號

「深夜の市長」/海野十三/42ページ(2001/11/16読了)
長篇連載第一回。ある殺人事件に巻き込まれたのは、深夜の散歩楽しむ余技の探偵小説家。しかし追われて逃げて「深夜の市長」なる老人にかくまって貰ったのが一つの機点になったのかも知れない。磁力持つニッケル貨幣、時の狂った時計などの証拠品は何を意味するというのか。そして怪科学者と謎の女、なにより「深夜の市長」とは何者だというのだろうか? 興味尽きぬ第一回の100枚である。


「父よ・憂ふる勿れ」/森下雨村/15ページ(2001/11/16読了)
連続短篇その二。相変わらず大したものではないし、面白くもない。効果も薄い。父は息子に世間の厳しさを知らしめるために五千円を与え、それをイカサマ師に奪うよう頼んだ。しかし息子は父より遙かに優れていたのだ。ペテンに掛かった父をその金で救出したのである。イカサマ師も父も、その息子を侮りすぎていたのである。


新青年 新年號

「襟卷騒動」/森下雨村/18ページ(2001/11/15読了)
連続短篇その一。注文からしてなのだが、単なる軽いユーモア物に過ぎず、全く大した物ではない。ロシア産の黒狐の襟巻きというものが廻り廻って元の黒猫に戻るというもの。田代が子どもを海から救出したことでループに繋がったのである。しかし最問題は最初のケチ親爺だが。


「偽悪病患者」/大下宇陀児/28ページ(2001/11/15読了)
偽悪病患者、それはバレンチノ(イタリアの俳優・ルドルフ・ヴァレンチノのことだろうか?)のような美青年。机上の悪巧みを企むもあくまで机上のものであった。つまり悪人願望者だが、あくまで見かけの願望に見えた。そしてそれが偽悪病なのだ。この小説は病気療養中の兄とその妹による手紙形式で展開される。新婚家庭に現れた美青年の偽悪病患者に兄は近づかないように妹へ注意するが、いよいよカタストロフィーがやって来てしまうのだ。妹の夫が殺害さる。そしてアリバイもハッキリせぬ偽悪病患者。ああっ、彼が殺害者なのか。兄は重すぎる意外な結末を用意している本格探偵小説。面白い。


「空飛ぶ悪魔 ―機上から投下された手記―」/酒井嘉七/8ページ(2001/11/15読了)
A種短篇当選。全然大したことはないが、飛行機を直接使った殺害計画というのが少し面白いかも知れない。二人は恋のライヴァルだった。その勝敗に飛行競技を選んだのである。それは暗闇の着陸に失敗すれば敗北という恐るべきものだった。最大の敗因は心を読み間違えていたことも当然としてあるが、三人で空を飛んだことなのだろう。敗者の彼は湖でなく一人海で散ったのである。