赤い館の秘密

作者:A・A・ミルン

集英社文庫版赤い館の秘密


梗概

 物語は赤い館の主人マーク・アブレットの元に歓迎し難い客がやって来るというところから始まる。
数十年ぶりにオーストラリアから帰国してきた兄のロバートは荒くれ者であり、マークはいとこの片腕とも言える執事のマシュー・ケイリーや雇い人達や客人らとともに戦々恐々とするしかなかった。
 ところでこの物語の主人公アントニー・ギリンガムは赤い館の客人ビル・ビヴァリーを旧交をあたためるつもりだったが、なんの因果か殺人事件の第一発見者に名を連ねることになった。というのも銃声を聞き館内に立ち入るとケイリーが扉を叩いているところに出くわしたからだ。事件の被害者はロバートであり一緒にいたはずのマークの姿が見当たらないため開いていた窓から逃げたものと思われたが…
 早くからケイリーの不可思議な行動を見出すなど、ホームズ役を買って出たアントニー・ギリンガムとワトスン役になったビル・ビヴァリーはいかにこの殺人事件を解き明かすだろうか。




感想

 1921年、日本で言えば大正デモクラシー真っ只中に発表されのが本作品「The Red House Mystery」。くまのプーさんで有名なA・A・ミルンだが、長篇探偵小説は本作一本しか残していない。しかしそれでも探偵小説界の古典に燦然と輝く存在となっていることを考えればいかに本作の「赤い館の秘密」が偉大かわかるというものだろう。

 物語の序盤から秘密の抜け穴と言う魅惑的な仕掛けの存在が明らかになり、その抜け穴はかつて客人の女優がマークに対して幽霊騒動を巻き起こしマークが大激怒したといういわく付きのものだったが、その抜け穴が明らかになる下りにおいて、抜け穴からこっそり覗き見をしているつもりが、実は逆に観察されているという展開や、そこかしこで出て来るホームズとワトスンになりきるアントニー・ギリンガムとビル・ビヴァリーのコンビのやり取りも非常にユーモラスで楽しい。

 探偵小説としては当時としては斬新な展開と思われるが、現在の観点で言えば、ミステリーとしては古典的手法を使ったものでありわかりやすい展開となっている。警察官があまりにも目立たないのはリアリティが乏しいという大きな欠点にもなっているが、逆にテンポよく感じることが出来る分には長所でもあるだろう。ただ赤い館の秘密といっても抜け穴くらいしか特筆したものは見当たらないのは物足りなさもある。

 しかし特筆すべきはそれを補うにあまりある作品に流れる興趣だろう。最たるものがホームズとワトスンのやり取りで。絶対彼らは名優に違いない。さもなくばあれほどのコントを演じきれるものではない。さすが「クマーのプーさん」の生みの親の軽妙なセンスと言うべきなのか。

 と、それはともかく古典的名作で一読する価値は十二分にある。オススメしたい。


読む方法

 現在手に入る容易な翻訳本としては、創元推理文庫版と集英社文庫版がある。


2008/07/06最終更新

乱歩の世界トップへ戻る