作者:A・A・ミルン
物語の序盤から秘密の抜け穴と言う魅惑的な仕掛けの存在が明らかになり、その抜け穴はかつて客人の女優がマークに対して幽霊騒動を巻き起こしマークが大激怒したといういわく付きのものだったが、その抜け穴が明らかになる下りにおいて、抜け穴からこっそり覗き見をしているつもりが、実は逆に観察されているという展開や、そこかしこで出て来るホームズとワトスンになりきるアントニー・ギリンガムとビル・ビヴァリーのコンビのやり取りも非常にユーモラスで楽しい。
探偵小説としては当時としては斬新な展開と思われるが、現在の観点で言えば、ミステリーとしては古典的手法を使ったものでありわかりやすい展開となっている。警察官があまりにも目立たないのはリアリティが乏しいという大きな欠点にもなっているが、逆にテンポよく感じることが出来る分には長所でもあるだろう。ただ赤い館の秘密といっても抜け穴くらいしか特筆したものは見当たらないのは物足りなさもある。
しかし特筆すべきはそれを補うにあまりある作品に流れる興趣だろう。最たるものがホームズとワトスンのやり取りで。絶対彼らは名優に違いない。さもなくばあれほどのコントを演じきれるものではない。さすが「クマーのプーさん」の生みの親の軽妙なセンスと言うべきなのか。
と、それはともかく古典的名作で一読する価値は十二分にある。オススメしたい。
現在手に入る容易な翻訳本としては、創元推理文庫版と集英社文庫版がある。
2008/07/06最終更新