黄色い部屋の謎

作者:ガストン・ルルー


梗概

 原子物理学者の父の助手を務める三十過ぎの娘が完全な密室の黄色い部屋で殴打され血まみれの重傷となった。しかもポーやドイルの過去の探偵小説の密室類例でいうような小さな抜け穴や秘密の抜け穴の類がまったく見あたらないのである。パリ警視庁の名探偵フレデリック・ラルサンが事件を解決を試みると同時に、我らが十八歳の主人公ルールタビーユ記者も事件解決に乗り出した。メインの密室に加え、廊下を四方から追跡中の消失の謎など不可能犯罪を相手取り、どのような解決が見られるだろうか?


感想

 もはや絶賛という言葉以外何も思い浮かぶまい。1907年発表の本作は散々言い尽くされていることを繰り返すことになるが、世界最初の心理的な完全密室事件を取り扱った作品となっている。更にはそれだけではなく、意外な犯人と言う点も加えると、現在まで続く手法の原型こそが本作と言える。

 乱歩も本作は黄金時代の前奏曲的作品として捉えており、黄金時代ベスト10の中で、この「黄色い部屋」のみ、発表年代が古典ベスト10側と同時期の作品となっているが、本作の出来映えを鑑みると、その選択を疑うことは出来ないだろう。

 ラルサンとルールタビーユの一致する意見と何よりも決定的に相違する見解から来る推理対決。まさに劇的な法廷における探偵による真相の公開。密室と裏に隠された愛憎劇。どれを取ってもサスペンス満載の展開で本格探偵小説の要素に満ちている。

 以上簡単に述べた点だけでも、今現在、本格ミステリを楽しむ者としては、必読の一書だということはおわかりいただけるだろう。未読ならばぜひ読んでいただきたい古典的名作かつ本格の源流だ。


読む方法

 現在手に入る容易な翻訳本としては、創元推理文庫版がある。


2009/06/04 最終更新

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