投稿時間:02/10/27(Sun) 13:29 投稿者名:小笠原功雄
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タイトル:創元推理文庫版「人間豹」を読む
最初に人間豹の批評に出合ったのは冨田均「乱歩『東京地図』」(作 品社刊)だっただろうか。東京市内で追跡を延々と繰り返す人間豹親 子と明智夫妻という奇妙な展開だとか。しかし直ぐに私は読まずに創 元推理文庫が同作を刊行するのを待ち続けた。遂にその時がきた。 作品に加えて、やはり連載当時の挿絵が雰囲気があって凄く良い。 さらに浜口雄介氏の解説が微細に渡り人間豹の世界を分析してみせる 。この解説から先ずはホームページ上の人間豹の感想へ招かれ、ミニ コミ誌「新青年趣味」の評論へと私を誘う。これを読んでみると、石 森章太郎と東映スタッフの「仮面ライダー」に人間豹のモチーフが影 響を与えたというのだ。そう言われて改めて岩田専太郎氏の挿絵を見 ると、連載第一回のインバネスコートを翻し地団太を踏む恩田の図は 、私達が子供の頃観た「仮面ライダー」で、正体を隠していた怪人が 変身する瞬間そのものという気がしてくる。 そして読んでしまった?「乱歩を読みすぎた男」!(ちくま文庫「 乱歩の幻影」) 全編、原作を引用しながらの陵辱小説。しかしこの小説と読み比べ るとあらためて原作の特徴がなるほどと思えてきた。蘭氏の小説は完 全に大人のエンターティンメントだ。しかし乱歩の世界は多くの人が 指摘しているように子供っぽい世界なのだ。人間豹のエロチシズムも 暴力も、恩田も明智夫妻も、文体そのものも大人になってから読み直 せばまるで、大人の知らない所で子供が暴れまわっている描写のよう に思えてくる。小説「人間豹」に影響を受けたという人々も子供の頃 の体験だし、「仮面ライダー」も元々子供番組だ。人間豹は大人の小 説かもしれないが、そこにあるのは大人のエロスでも暴力でもない、 大人になっても忘れられない子供の世界のエロスと暴力だ。そう考え ると恩田の飛び立った先が、いまや大人から子供まで巻き込む、永遠 の子供番組「仮面ライダー」の世界だったとして納得がいく。
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