投稿時間:02/12/23(Mon) 02:19 投稿者名:アイナット
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タイトル:まとめてお返事です
ご意見ありがとうございます。 誰に何を返信するのが、まとまらずにゴッチャ煮状態の返信で申し訳ないのですが、とりあえず書いていきます。
>ななこさん そうですね。屋根裏から人の生活を覗いたら、どのように見えるのだろうと想像して楽しんだ事はありましたね。屋根裏のある家を訪れた時は、まず屋根裏の散歩を想像している自分を発見します。親戚の旧家、更には顔見知りの京都のお寺などもそうでしたし。乱歩ファンなら一度は体験してみたいのが屋根裏の散歩ですよね。 犯罪心理の刺激というのもわかりますね。屋根裏から毒殺という点が、幻想怪奇の陰に隠れて意外にも殺害の簡単さを植え込むメリットもありそうです。私の言う直接的撲殺では、ノーマルな犯罪そのものに堕ちてしまい、確かに犯罪心理は刺激されませんし、それこそ屋根裏の散歩の犯罪幻想すらも低減させてしまうような気もしてきました。
>黄光明さん なるほど黄さんの言われるところはもっともですね。 そして「屋根裏」も「陰獣」同様、謎解きが主である変格的本格探偵小説と言う事ですね。 最終段、まとめについても納得行くところです。乱歩という人は本格も変格も超一流の才能を有し、更に胎内願望、変身願望、レンズ、パノラマ、人形・・・等などがその世界には必要不可欠でありますよね。それにそもそも乱歩の書く小説は、一応探偵小説や怪奇幻想小説に分類されていますが、誰にもマネする事は不可能ですから、厳密には、本格、変格の別はもちろん、探偵小説、幻想小説などのジャンルも越えて、乱歩小説という1ジャンルを新たに創世しなくては、一つに括る事は不可能でしょう。 ただ一応盛り返しておくと、甲賀のいわんとするリアルというのは、あくまでも少なくとも万に一回は可能かも知れないという0.01%以上の最低限のリアルという意味(例えれば見間違うほど似ている人はいるかも知れない、など)で、社会派で言うリアルは当然の事、クロフツのリアリズムの探偵小説とも全くもって異なるものです。「屋根裏」はこの状態では万に一回すらも絶対不可能・実行成功率0.00%であるから(極端に絶対不可能を例えれば、論理的なSF説明もないままに普通の現代人が時間移動を使って歴史上の偉人を殺害する完全犯罪とかのまさに幻想殺人そのもの)、本格失格云々と述べているんですね。いわば「屋根裏の散歩者」はあくまで本格的味も含む変格探偵小説であると。そして本格味を除いた方が傑作になったのではないか、と言う事です。
>小笠原功雄さん 甲賀の言うリアルのついては、黄さんへのレスの下段の通りです。犯罪に手間掛ける云々ではなくて、実現可能性が0か、非0かの問題です。もっともこんな事を考えるのも私の脳味噌がハッキリした答えを求める理系サイドに偏ってきているからかも知れませんが・・・。 それと乱歩の構成破綻は連載長篇でよく見られた例であり、それはいちいち気にするような性質のものではないのですが、構想を最初から組み立てていたに違いない代表短篇「屋根裏の散歩者」はその例とは異なるような気もします。 殺人が本格だけのテーマでは無い旨は全くその通りで、生きとし生けるものにとっての最大のテーマの一つでしょう。究極の誘惑もその通りですね。屋根裏散歩願望は、ななこさんのレスで書いたように乱歩ファンならきっと一度は辿り着いたと思いますし、被害者側になりますが、高校生時分だったか私などもたまたま他家に行った時などで、屋根裏のある部屋で寝るとなった場合には、意識して口を閉じて寝ようと思った事が思い出されました。戦前の読者なども間違いなく何とも嫌ァな感じを持ったと思いますが、これは屋根裏に人間に覗かれているかも知れないと思うだけでも怖いのに、その猟奇者に殺されるかも知れないという恐怖が一層その嫌ァな感じを助長したに違いないですね。そう考えると、「変格探偵小説」上のこの殺人行為は、怪奇恐怖味を深めるのに必要不可欠だったというのも全く肯ける限りです。もっとも明智の本格的(あくまで「的」です)推理が必要だったかは別問題になりますが。
あと最後に戦前(二十面相も含む)の変装術について、否定するつもりは毛頭ございませんので誤解ないように。むしろ変装が必然の世界ならばの戦前探偵小説にしかない古き良きロマンスの一つであり、胸躍る長所でもあります。怪人と探偵が闊歩し、巧みな変装術を使って争闘する世界は憧れの的以外のなにものではありませんので。
ついでにもう一つ、私は「屋根裏の散歩者」、勝手に付けた数年前の乱歩変格ベスト5には入りませんでしたが、ベスト10には必ず入ると思います。つまり好きな作品です。読み返した数も乱歩小説の中でもトップクラスですね。この辺りも誤解無きようにつけ加えておきます。
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