出版芸術社

*** 書籍表題 出版社 筆者 訳者など 一言感想or備考 お勧め度
051 深夜の魔術師 出版芸術社 横溝正史 戦前戦時中のレア作品を軸にした作品集の第二巻。本巻では戦中のレアな作品が大半を占める。由利三津木シリーズだが、散々な目に遭ったりする所が逆に笑える、ある種術に長けあまりにも恐るべき賊・金色蝙蝠との闘い「深夜の魔術師」、大陸の鸚鵡が日本語を喋ったことから発覚する軍事悲話「広東の鸚鵡」、裕福な保育園の園長にどういうわけか非常に可愛がられる某若い母親の園児息子の不思議は戦時中だからこその感動家族悲話「三代の桜」、不倶戴天の家同士の真なる秘密は南方昔話「御朱印地図」、恨み節に堪えた蒙古での真実「砂漠の呼声」、南方の漂流船から日本人の遺体。この日本人の意志「焔の漂流船」、兵隊への慰問文が生んだ内気の少女の起こした一つの大きな奇跡とも言える戦闘力「慰問文」、明治の昔に起こした神兵の伝説「神兵東より来たる」、舞台こそ戦中のただ中だが2人の夜泣きの不思議などをメインに据えるなどしっかり探偵小説を見せてくれた「玄米食夫人」、消息の消えた大鵬丸が行ったプレ活動の偉大さを喧伝しつつその実は当時の切実な恋愛物ぽくなっているのが興味深い「大鵬丸消息なし」、親を知らぬが、何かしら宿命づけられているという主人公、その親と宿命の謎とは?の「亜細亜の日月」を収録。いずれも戦中の生きた情勢を反映しているという意味では非常に興味深い。 ☆☆☆☆
040 赤い水泳着 出版芸術社 横溝正史 戦前戦時中のレア作品を軸にした作品集の第一巻。なぜか一部有名作品が混じっているのが不思議といえば不思議だが、その収録作品は以下の通り。「一個のナイフより」「悲しき郵便屋」「紫の道化師」「乗合自動車の客」「赤い水泳着」「死屍を喰う虫」「髑髏鬼」「迷路の三人」「ある戦死」「盲人の手」「薔薇王」「木馬に乗る令嬢」「八百八十番目の護謨の木」「二千六百万年」。どれもA級には遠く及ばないもの(「悲しき郵便屋は除く」)の横溝らしさのにじみ出る作品ばかりで、戦中のものですらそれぞれ味があって興味深い。「二千六百万年」のシニカルさは特によいし、「木馬に乗る令嬢」は敵性小説だがその情景にはコミカルさを感じてしまうではないか。横溝ファンや戦前戦中探偵小説の世界に触れたいならばお奨めできるだろう。 ☆☆☆☆
02a 悪霊の群 出版芸術社 山田風太郎
高木彬光
このご両人による合作という珍しい探偵小説。スリラー風で、中盤飽きてもくるが、所がどっこい、最終版の荊木歓喜の推理、そして颯爽と意外過ぎるところから登場した神津恭介の推理の前に平伏するしかないのである。意外な解決と気に入らない点、いわば★3−にしようかと考えていた点を快刀乱麻に片づけてしまったのだ。眼球刳り抜き事件から始まった本復讐劇の見せる意外な展開は驚くしかないと同時に読む者を喜ばせざるを得ないのである。 ☆☆☆☆+
044 夜の訪問者 出版芸術社 鮎川哲也 鬼貫警部全事件3。収録作品は「金貨の首飾りをした女」。
「夜の訪問者」「いたい風」「殺意の餌」「MF計画」「まだらの犬」「首」「城と塔」。
まず、「金貨の首飾りをした女」。殺人者は“いとこ”という捨てセリフを聞かれていたゆえ、容疑者として宇部三郎は警察に任意同行させられそうになったが、どうにかこうにか逃れ、本妻の宅へ。宇部は本妻に頼り真犯人を追及するが・・・。というのが序盤から中盤で、終盤では真犯人の姫路のバスに乗っていたというアリバイ崩しに鬼貫丹那が迫っていく名中篇。乱歩の「ぺてん師と空気男」を彷彿させるシーンも非常に面白いと言えるだろう。
「夜の訪問者」は、ホステスの女が殺害された。それで不倫をしていた男が目撃者がいたこともあり、犯人と目された。しかも死人に口なし。その不倫男は既にこの世にはいないのである。不倫男の妻だった女が探偵局に依頼し、事件はどう転んだだろうか? 事件現場の矛盾点を衝き、トリックを見破る作品。出前トリックが登場する点では、「5つの時計」も思い出させる。
「いたい風」は、ロシアの美人妻を持つ男が、肥えた女の同僚にロシア語を教師を頼まれる所から始まる。教えて欲しいのはその同僚の従兄弟の評論家だと言う。家庭教師を受けたしばらくあと、評論家が痛風にかかったため、学習先を評論家宅に切り替えた。痛風患者だから安全なはずだった。が、これが悲劇の始まりなのは推理小説の常であった。例によって、完全と思われた犯罪は、些細なミスによって崩れてしまうのである。被害者が痛風だっただからこそ起こってしまった失敗とは?
「殺意の餌」は、出世を目指す男が、その出世欲ゆえに秘密を共有している元ホステスの婚約者を殺してしまう話で、倒叙もの。
「MF計画」は漫才コンビの解消を願うが、結成時の成り行きと弱味ゆえに解消できない男が相方を殺害する倒叙物。見事な時間差アリバイトリックは、本当の基本中の基本のミスで破綻してしまうと言うお話。
「まだらの犬」は毒入りウイスキーボンボン殺人事件という発端。その後、別の殺人死体も見つかると言う展開。前半と後半がちぐはぐな点が気になる所だろう。アリバイトリックは見事な物である。
「首」は商店街に次々と掛ける電話攻勢。しかも大量発注の悪戯構成なのだ。その最中、庭から見つかりしは首無し死体という発端。それにつけてもあのトリックは美事である。言葉というのは不思議なものだ。
「城と塔」は長篇「風の証言」のオリジナルになった中篇。二つのアリバイトリックが中心に添えられていて、それらが前半のスケッチのトリックの象徴が城、そして後半の写真のトリックが塔を象徴しているというわけだ。どちらも美事だが、後半のトリックは秀逸さはさすがとしか言えないだろう。そして長篇で「風の証言」と付けたセンスも美事。
03b 不完全犯罪 出版芸術社 鮎川哲也 鬼貫警部全事件2。時間差のマジック「五つの時計」、意思無きアリバイ「早春に死す」、黒いトランクを思い出す展開「愛に朽ちなん」、心中の中の錯覚「見えない機関車」、倒叙鉄道アリバイもの「不完全犯罪」、固定観念と言う常識の錯覚「急行出雲」、単純なだけに完全に近いトリックの極致「下りはつかり=v、「古銭」、「わるい風」、「暗い穽」及び、中篇版「死のある風景」「偽りの墳墓」を収録。原型中篇版二篇はいずれも興味深い読み物であり、長篇版の後に読んで味わうべきだろう。 ☆☆☆☆☆
036 碑文谷事件 出版芸術社 鮎川哲也 鬼貫警部全事件1。全てを読み返したわけではないが、と前置きをしつつ。
まず「楡の木荘の殺人」「悪魔が笑う」と満州ハルビン時代における鬼貫警部シリーズが二本。「楡の木荘」では鬼貫は顔見知りの貴族娘から電話で呼ばれる。しかも楡の木荘で異常事態が起こったらしいのだ。人が倒れ白いペンキをあびているという不思議。そしてメッセージを残しての自殺事件があるもそこに矛盾が・・・。「悪魔が笑う」の方は悪魔の笑い声と共に銃殺事件が発生! しかも最期の言葉より犯人も明か。しかし不可思議な事にその名指しの犯人には絶対的なアリバイがあったのである、と言う展開。いずれも論理色豊かで佳作であろう。「碑文谷事件」は鉄道アリバイで絶妙な錯覚が秀逸。「一時一〇分」は正当な面白みに欠けるトリックで明らかなる凡作。「白昼の悪魔」時間トリックが面白いアリバイ物。「青いエチュード」は乱歩の十字路(映画「死の十字路」)に関わらせた完全犯罪倒叙物。「誰の屍体か」は発射直後の拳銃、紐、硫酸の瓶の三種が別の三人へ送られ、その後、それを使ったと思われる惨死体が発見されるが、誰の屍体かで紛糾する作品で、犯罪の隠し方が圧巻の佳作。中篇版「人それを情死と呼ぶ」は当然長篇と同じプロットではあるが、犯人を知っていても、楽しめるという証明をしてくれた作品。腐乱した情死体から導かれる推理と、意外な真相。
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007 青い密室 出版芸術社 鮎川哲也 星影龍三全集−II。「白い密室」「薔薇荘殺人事件」「悪魔はここに」「青い密室」「砂とくらげと」「茜荘事件」「悪魔の灰」と短篇版「朱の絶筆」を収録。「白い密室」「悪魔はここに」「薔薇荘殺人事件」あたりが特に良かった。「朱の絶筆」は長篇と比べると興味深い。 ☆☆☆☆☆−
005 赤い密室 出版芸術社 鮎川哲也 『呪縛再現』『赤い密室』『黄色い悪魔』『消えた奇術師』『妖塔記』『道化師の檻』の6つの星影龍三登場の短中篇を収録。特に『呪縛再現』は初登場の星影龍三と鬼貫警部の競演している唯一の作品となっている。もっともこの星影氏は『赤い密室』以降の氏とは別者だという話なのだが。ともかくも『呪縛再現』はなるほど後の長篇、基本『りら荘事件』+アリバイトリック『憎悪の化石』という作品であり、両者を読了済みでも、全然より楽しく読めた作品だった。あとは『赤い密室』『道化師の檻』『妖塔記』が特に面白かった。 ☆☆☆☆☆