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昭和14年〜昭和15年の感想(蘭郁二郎・小説)


「地図にない島」
昭和14年の「ユーモアクラブ」に掲載された短篇。夏の終わりの淋しくなった海岸で望遠鏡覗き趣味を満喫していたら、突如飛び込んできたるは震災の時に死んだはずの科学者の伯父の姿、そして美女。と言う所からはじまり、主人公は地図にない人口蜃気楼で隠された島へ案内される。果たして超科学研究所だったが、恐るべきは同じ顔が揃っている事であり、主人公も美男として男代表にされてしまうのだ。この悪夢はしかも覚める事がないのである。地図のない島を再度訪れない限り…。


「白金神経の少女」
昭和14年の「奇譚」に掲載された短篇。銀座のバーに入った主人公は、恋愛電気学に取り憑かれたような老人と話し込み、遂にはその娘の美しさにも惹かれて地下の研究所たる所に入り込むが、更には白金神経で娘の神経を代用しているとまで言い出したのである。まさに超絶だ。しかしミケランジェロの絵を巡って老人頭脳はショート。馬脚を現してしまったのであるが、それによって幸福なのであった。


「黒い東京地図」
「オール・トピック」昭和14年から15年にかけて5ヶ月連載中篇。犯人当て本格探偵小説と言えるだろう。主人公の探偵助手は探偵所長を待ってる間に見付けた美少女とその奇妙な尾行者。しかも美少女が封筒を主人公のポケットに突っ込んできたのだ。その後、主人公も尾行に参加するも、射殺殺死体を目撃してしまうことになるのだ。外国の名画盗難事件に絡んだこの事件の犯人とは!? そして黒い東京地図の秘密は!?


「厳秘作戦」
昭和14年の「科学知識」に載った軍事小説。というかコーナー的には評論であろう。英国参謀長の立場から、国防を考えた作品で、三つの作戦がブラックユーモアを交えて書かれているのだ。


「ホロンバイルの邂逅」
昭和14年の「婦女界」掲載のニュース問題小説。戦記物である。内蒙古でのソ連との空中戦。そう言う戦場で、主人公は妹のように可愛がっていた幼なじみと邂逅したのだったが。


「設計室の殺人」
昭和14年の「工業青年」掲載の探偵小説。設計室で中毒死体が発見されるという事件であったが、そこには意思を越えた意外な結末が腹蔵していた。しかし犯人の名前の決めつけ的役割には笑ってしまう。


「温室の怪事件」
昭和14年「小学六年生」掲載の少年物。温室の植物が枯れていくという怪事件。そしてそれに一見関係なさそうな、温室の持ち主のサファイア窃盗事件が絡んでくるのである。寡黙の少年探偵はこれを如何に解くというのか!?


「海水着 」
昭和14年の「新青年」に載ったもの。ほんの短い短篇だ。しかも時代を超越させる、まさに題名通りの……なものだから、ある意味面白い。自慢の海水着を突如として着られなくなった女の子、その原因とは!? まさにそのままだったのだ。


「魚釣二人三脚」
昭和14年の「奇譚」に載ったコント風のもの。何やらよく分からないが愉快ではある、明かな三枚目の活躍。釣り勝負に憂鬱を感じていた。それもそのはず、三年連続で二位なのである。しかも一位は高利貸し。しかししかし、そこで活躍するは、素人のミミズ釣り、でなくて、何と言う事だ、そんなのアリなのか、だったのである。結果は見えていても、意外な過程が面白いと云えるかも知れない。


「銀座綺譚」
昭和14年の「新青年」に載った短篇。写真に凝っている男、その友人は今日も銀座で写真を撮るのだが、美少女が被写体だ。その美少女と友人の写っている写真が出てきて、更に更に、といううまい展開。うまいうますぎる(笑)


「寝言レコード」
昭和14年の「オール読物」に載った短篇。これは傑作と言っても差し支えない面白さだ。赤い鴉マークの付いた二枚のレコードが海外からの荷物に紛れ込んでいた。主人公と友人の新聞記者はそのレコードを聴いてみるも、両者とも寝言とも付かぬ意味不明な日本語が吹き込んであるばかり。しかも寝言前の音までも似たような感じなのだ。この寝言レコードの謎とは!? トリック的着想も面白いし、更にこの時代を利用した意表と付く展開だと言えるだろう。


「大宮博士の事件」
昭和14年「小学六年生」に載った少年物短篇。シャーロック・ホームズばりの照夫少年探偵活躍譚である。大雨の日にやって来た刑事は少年探偵に用件を言い当てられてしまう所から始まり、ダイイングメッセージだという眼鏡から犯人像までも言い当ててしまうのだ。ハッキリ言っておかしい所だらけだが、その辺りは少年物のご愛敬だろう。


「匂ひの事件」
昭和14年の「オール読物」に載った短篇。広告作りに卓越している主人公は、元の同僚の女に誘われて、匂いの研究している博士に出会う。その研究というのが種種の香りによって病気を治すという面白い着想。そして色に名前があるのに匂いに名前がないのはおかしい等とも言い出すのである。広告も作り、香りの薬は世界的にヒットしたかのように見えた。が、そこにやってきた私立探偵、恐るべき秘密を暴露するのでる。その秘密とは!?


「不思議な電話の事件」
昭和14年「小学六年生」に載った少年物短篇。鎌倉の友人宅で少年探偵・照夫君が活躍する。金庫に納めた遺産相続の証拠を巡る事件で、アリバイに使った不思議な電話とは現代人の我々が頻繁に使うツールであるという驚きを含んでいる面白さだ。 スパイ工場 昭和14年「小学生の科学」に載った絵話。博士が襲われて気がおかしくなり重要な設計図が盗まれてしまうと言う事件だったが、そのむらさき団によって、少年探偵と刑事など大人二人を誘拐して地下に押し込められてしまった。そこでは「地底大陸」でお馴染みの人造人間達の世界だったが、その野望を食い止める事は出来ただろうか!? なお、挿絵と連動させて漫画の原型みたいな形を取っている。


「ガラスの島」
昭和15年の「小学四年生」から昭和16年の「国民五年生」に連載された長篇少年冒険科学小説。ガラス人間という透明人間が登場、東京は不思議な事件で持ちきりだった。そのガラス人間が優しさを発揮した時に、主人公少年と中尉とが接触。ガラス文明に溢れるガラスの島に案内されるのである。そこでスパイ事件が起こるという展開。さて、博士の為していたこととその功績とは!?


「もぐら男」
昭和15年「第一読物」掲載の短篇コント。このもぐら男、夜でないとパフォーマンスが発揮出来ない男。しかしその体調に、都合良く勤めていた会社がいきなり潰れてしまうと言う悲劇。その後、上手く会社を紹介してしまったが、悲劇が起きてしまうのである。文明社会に作られてしまった悲劇の人こそがもぐら男なのだ。


「闇に溶ける男」
昭和15年「富士」掲載の短篇探偵小説。月澤俊平初登場作品であり、清々しいまでの美事な手際を発揮している。謎の徽章を不相応な、しかも全財産で老人から買い取った月澤だったが、美少女はそれを見ていて、月澤以上の金で買い戻そうとする不思議。それを固辞した月澤は、しかし悪漢共の巣窟に入り込んでしまう事になるのだが、そこで発揮されたこととは!? まさに闇に溶ける男の演出だったのである。


「勘定」
昭和15年「若草」に掲載されたほんの短い短篇コント。子供時分から物を数えるのが好きな男は優秀な人間であったが、こと恋愛事に関してはその勘定癖が裏目に出てしまったという話。