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昭和11年〜昭和13年の感想(蘭郁二郎・小説)


「夢鬼」
昭和11年完成の結構長い作品。筆舌を越えた恐るべき恋愛小説である。空中ブランコとパラシュートと死と隣り合わせの空飛ぶ夢、白日の瞬間的夢のみを生き代にした男の悲劇、いや喜劇であろうか。狂人の恋の成就は空の夢に結実したのである。


「クローバー」
昭和11年の『探偵文学』発表短篇。コントであるようだが、悲哀感ある恋物語のコントである。でもやはり滑稽だ。


「虻の囁き」
昭和11年『探偵文学』発表短篇。なかなかの名品である。その犯罪幻想には心も打つ。サナトリウムを舞台にした心理の悲劇である。


「花形作家」
林田葩子名義の短篇。『探偵文学』昭和11年発表作。夫婦で一体の人気作家だったが・・・・・・、という滑稽と言えばユーモアな話。


「掌編一品料理」
昭和11年『探偵文学』のコント集。「舌打ちする」「古傷」「孤独」の「自由律」に載った三篇の改稿版。「孤独」は「都会の恐怖」である。


「第百一回目」
『探偵文学』昭和11年発表作で、林田葩子名義のショートショート。科学と言うより幻想である。


「魔像」
『探偵文学』昭和11年発表短篇。何度読んでもその戦慄は止む事はない。感想は原型の「恐ろしき写真師」に書いているので繰り返さないが、圧倒的な狂気だ。


「霖雨の汚點」
『月刊探偵』昭和11年発表。大したものにも思われないが、無気味な所はさすがであろう。


「大理石の座環」
『シュピオ』で昭和12年発表短篇。大雷雨の下に謎の感電死事件が発生する。それほど大した作品でもないが、殺人トリックは少し面白い。


「地底の鬼」
昭和12年に「小学六年生」に連載された少年もの。怪盗、暗号、スパイなど出てくるが、当たり前ながらどれももろに少年レベルで矛盾も多い。


「腐った蜉蝣」
昭和12年『探偵春秋』発表短篇。失恋小説で、失恋者の恐るべき復讐が常軌を逸している方法。しかも同時にその心意をも読む事が出来るのである。


「鱗粉」
昭和12年『探偵春秋』発表短篇。再読であったが、それなりに楽しめた。サナトリウムの病人が主人公で、人多き海岸で美少女が突然匕首で刺されて死ぬところからはじまる。トリックそのものは大したこともないが、この小説の興味はやはり異常犯罪部分とユートピア部分にあると言えるだろう。なお、鱗粉とは蝶や蛾のもので、まさに破滅の鱗粉。


「壺と女」
昭和12年『探偵春秋』発表短篇。僻村の窯で働く純な男を主人公にした哀しきストーリー。壺と窯が絡むその犯罪への意外さには驚くばかりである。ああ悲哀。


「エメラルドの女主人」
昭和13年『新青年』発表短篇。銀座の酒場のマダム、これがエメラルドの女主人。肺病にかかり、ガラスのように脆弱さを増すマダム。株を充てる特異能力を持ったマダムは最後の最後である仕掛けを用意していた、それが少し明るい感じを与えてくれる。主人公とマダムとの恋愛は幻想的でもあるが、恋のライバルと結託されて、株で騙されているのではないか、という嫉妬。そこまでの作品とは思えないが、とりあえず読む価値は認められるだろう。


「ニュース劇場の女」
昭和13年『モダン日本』に載った。ニュース映画館、主人公は美少女を発見した。その美少女がこの事件で思わぬ関連性を持っていたのだ。不良風の男につけねらわれていた。それは疑獄事件にリンクする。そして巧妙なガス中毒による殺人。タンクは空にはなりはしないが、気が付かないと死すしかないのだ。そもそも美少女ふが手袋と共に残した紙片、これに主人公の名前があることから注目されるが……。まぁ、取るに足りない程度のものだろう。


「脳波操縦士」
原題「人造恋愛」というのだが、それは昭和13年「科学ペン」に載った。タイトルに似合わぬ切実すぎる恋愛小説。しかしこの脳波操縦では、まさに異形の愛の究極形態とも言える。それは絶対愛のはずだった。所が突然の科学を超えたかのように見えたその敗北。その三角関係が崩れた時、自己崩壊と嫉妬が合い混じり脳波操縦士と美少女は心中を遂げるしかなかったのである。その男は変人と言われ交際嫌い、だが科学の力を駆使して磁石肥料法、電気屋敷など圧巻科学者。主人公は紛れ込んではならないその男と知り合ったばかりに、切ない恋愛のカタストロフィー、つまり自己の崩壊を招かせしめたのである。円周率の暗なる遺書は語っていたのだ。驚くべき傑作恋愛科学小説。


「黄色いスヰトピー」
「新青年」昭和13年に掲載された。3年ぶりに再会した二人、主人公は農園をしていて、現状有り得ない黄色いスイトピーを開発したから、と誘われたので、行ってみると熱帯庭園は素晴らしい物だった。しかし・・・思わずも、その盗難事件に遭遇してしまう。大金等をかけた大事業だけにショックを受ける農園主の友人、容疑者も次から次へと挙がっていくが、実に、その裏には切実なる反対の動機を隠されていたのである。


「軽い一銭銅貨」
昭和13年「小学六年生」掲載の捷雄と迪子シリーズの少年物。「地底の鬼」に続くシリーズである。煙草屋でお釣りに貰ったという一銭銅貨が妙に軽い事に気が付いた迪子は捷雄に相談しに行った。そもそも一銭銅貨の偽造などと言う意味不明な事は考えにくかった上に、昭和五十年の刻印である。二人は警視庁の叔父さんの所に持っていくが・・・・・・、さて、果たしてこの謎々のような秘密は?


「穴」
昭和13年「新青年」に掲載。鉄道の轢殺を描いた作品で、呪いの青大将が穴から這い出ていたのである。怪奇小説味は十分あると言えよう。


「地底大陸」
昭和13年から昭和14年にかけて、「小学六年生」で連載された長篇。空想科学少年物である。蒙古で掘削作業していた主人公達は磁場の異様な反応に驚いてしまったが、フトしたから地底大陸へ入り込んでしまったのだ。その地底大陸が圧倒的な超科学文明であるという空想科学長篇はSF的アイデア満載で楽しませてくれる。現れたる転覆者との争闘が始まるのだが、少年物らしく状況等に矛盾や違和、そして疑問も含むながらも、一篇の物語としては充分に面白いと言えよう。


「隣室の女」
昭和13年の「シュピオ」に載った短篇小説。下宿からアパートへ移った主人公は退屈さから隣室の男女の会話を何となく聞き及び、今月末までに金策が出来なければ女が破滅だと知ってしまうが、頼られた情人はちゃんと約束通りやって来た。しかし待っていたのは、勘違いの哀しさだったのである。


「名犬ロローの手柄」
昭和13年〜14年にかけて「少年少女書道」に連載された年少もの。先祖代々金色の筆を盗まれた学校の先生は落胆していた。そこにもう一方の墨の持ち主少年少女が出てきて、盗んだ悪漢とそこに書かれた二重の鍵、軍用金を巡って争うのだ。名犬ロローは再三に渡って大活躍、主人公達を助ける役割を果たすのである。その手柄の大きさ。


「蝶と処方箋」
昭和13年の「新青年」に掲載。恋愛探偵小説と言えるだろうか。謎の色眼鏡をかけて町中を徘徊する少女。しかも目には支障はないというのだ。そして落とした処方箋の書かれた紙切れ。しかも有り得ない処方箋なのだ。そしてそこに書かれたるは防諜小説よろしくの暗号文のように見えた・・・。蝶の模様がそれを符合しているようだったが、果たしてその真相とは!?