扶桑社

*** 書籍表題 出版社 筆者 訳者など 一言感想or備考 お勧め度
032 初稿・刺青殺人事件 扶桑社文庫 高木彬光 収録作品は「白雪姫」「影なき女」「鼠の贄」「原子病患者」「妖婦の宿」「初稿・刺青殺人事件」。私が今回読んだのは再読で「鼠の贄」、初読で「原子病患者」、そして「初稿・刺青殺人事件」。「鼠の贄」は再読に堪えうる面白さで分かっていても効果は生きる迫力ある怪奇性を生かしている。「原子病患者」は滑稽な感じも受けるが、これこそ原子力の恐怖をマザマザと見せつけられると言ったものか。恐るべき殺人の謎も興味深いが、根本的を為す最後のセリフこそ探偵小説に相応しい。「初稿・刺青殺人事件」は以前から興味を持っていたが、読んでみると、なるほどである。確かに弱い部分は目立ちに目立つ。全体的に決定版より劣るのは間違いない。しかし熱情と勢いはよく言われるように溢れぬばかりで、この絶大な密室のオーバーロードには改めて感激するばかりであろう。 ☆☆☆☆☆−
032 古墳殺人事件 扶桑社文庫 島田一男 ヴァン・ダインや小栗虫太郎ばりの衒学趣味を纏った処女長篇と第二長篇「古墳殺人事件」「錦絵殺人事件」ヲ収録し、更にルパンパスティーシュ短篇「ルパン就縛」を単行本初収録。
「古墳」は以前読んだので今回は残り二作を初読。で「錦絵」であるが、さすがにうっとおしくなるくらいの衒学ぶり、そして脳味噌が疲れた所を純本格の謎が迫るというのだから恐るべきだ。錦絵と義経が語るものとは!? これも一種の義経小説だろう。もう一つ「ルパン就縛」は微笑ましくも楽しい話。
☆☆☆☆+
032 三色の家 扶桑社文庫 陳舜臣 長篇「三色の家」「弓の部屋」、ジュブナイル短篇「心で見た」を収録。「三色の家」は陶展文シリーズで、若き日の戦前神戸を舞台にしている。哀愁を感じる作品であり、トリックも少し面白い。「弓の部屋」はトリックは危険極まるもので今一つだが、意外な犯人に加え、話自体はほのぼのとしていて楽しめる。「心で見た」はジュブナイルとは思えぬ位本格論理を見せつけて面白い。 ☆☆☆☆+
021 薫大将と匂の宮 扶桑社文庫 岡田鯱彦 長篇の表題作は紫式部が源氏物語・宇治の帖に出て来る登場人物達のモデルの間で起こった殺人事件を解決するという物で、源氏物語の続編という興味に加えて、清少納言との推理合戦やその特異なトリックからして傑作であると言える。他「妖異の鯉魚」、「菊花の約」「吉備津の釜」「浅芽が宿」「青頭巾」「竹取物語」「変身術」「異説浅草寺縁起」「艶説清少納言」「コイの味」「「六条の御息所」誕生」とエッセイを収録。どれも時代ミステリで興味深いが、特に「妖異の鯉魚」「竹取物語」「コイの味」辺りがそれぞれの理由で面白かった。 ☆☆☆☆☆−
019 失楽園殺人事件 扶桑社文庫 小栗虫太郎 法水麟太郎全短篇の第一冊目。「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「夢殿殺人事件」「失楽園殺人事件」「オフェリヤ殺し」「潜航艇「鷹の城」」「人魚謎お岩殺し」及びエッセイを収録。今回読んだ創作では、「失楽園殺人事件」が最も良い。悪魔のような真相である。どれも小栗の妖異に充ち満ちており、小栗虫太郎最骨頂はやはり初期法水ものにあるといっていいと思う。 ☆☆☆☆☆
01a 二十世紀鉄仮面 扶桑社文庫 小栗虫太郎 法水麟太郎全短篇の第二冊目。伝奇冒険長篇「二十世紀鉄仮面」と本格短篇「国なき人々」を収録。他遺作の「悪霊」と笹沢佐保版の解決編、小栗エッセイ、各人の小栗論・小栗関連エッセイなど収録。創作も面白い事は勿論だが、各人の小栗論・エッセイも興味深いと云える。 ☆☆☆☆☆−
01b 妖異金瓶梅 扶桑社文庫 山田風太郎 角川文庫版に加えて、未収録だった「銭鬼」と、「邪淫の烙印」の原型である「人魚燈籠」を収録。どちらも他の収録作に負けずとも劣らぬ出来である。 ☆☆☆☆☆+
020 翳ある墓標 扶桑社文庫 鮎川哲也 表題作と長篇と翻訳、SF系エッセイを収録。翻訳はハッキリ言って読むのが苦痛なほどの原作ぶりだったが、表題作は哀しみを背負いながらの作品で、暗号の必要性こそは謎であったが、概ね楽しむ事が出来た。ノンシリーズ、アリバイ崩しもの。 ☆☆☆☆