竹村猛児[たけむら・たけじ]

【三人の日記】(2002/9/13)
竹村猛児、「新青年」昭和15年5月号発表の短篇。薬剤師、医者、患者の三人日記。連想ゲームチックにそれぞれに大きな誤解があったり、人の評価が大きくズレるなどユーモラスである。まさか事実がこのような動機で構成されていようとは。薬剤師は特に怒ってしまうことだろう。肺病患者らしき処方箋が突如として簡易な物に変じ心配する薬剤師、病気治療に悪戦苦闘する医者。そして患者の痛々しいまでの苦労が面白いのである。なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。


橘外男[たちばな・そとお]

【逗子物語】(2002/1/25)
橘外男が「新青年」昭和12年8月号に発表した怪談小説。妻を病でなくした主人公は逗子の田舎の宿に籠もっていたが、ある時更に場末の墓場で三人組を見かけた事から妙な感覚に囚われてしまう。その三人組は美少年、女中、爺であるが、墓の主で亡くなったという天才ピアニストの息子等である事が判明するも、痕跡の無さ等から恐怖に駆られてしまうのだ。そしてトドメのように襲いかかる現実…。まさに怪談に相応しく背筋に伝わる水ごとし。なお現在、角川文庫「爬虫館事件(新青年傑作選)」等で読む事が可能だ。

【マトモッソ渓谷】(2003/9/25)
橘外男、「新青年」昭和14年3月号掲載の短篇。南米の秘境に半獣半人の怪物が発見されたという話を元に展開する目撃談。アルゼンチン鉱山技師達三人は灼熱地獄の中どうにかこうにか辿り着いたのが、人が住んでいると思われた洞窟であった。所がそこで見かけた物は驚きを通り越していた上に、何という悪夢であったことか!? その誕生の秘密など正体を推測するなどの興味も付け加わる本作は、現在、角川ホラー文庫の新青年傑作選「ひとりで夜読むな」で読む事が可能である。


角田喜久雄[つのだ・きくお]

【狼罠】(2002/5/9)
角田喜久雄、「文学時代」昭和6年2月号に掲載された短篇。これは理不尽な資本主義社会への痛烈な批判も内包されてるではないかと思われる程の傑作である。猛吹雪の中、息子が怪我をしたと聞いて大地主の資本家の男は案内役に請うていた。その中途で話題になるその男の工場での労働争議の話。しかも労働者を馬鹿にしきったその言動、そしてあろう事か…だ。しかし、しかし、それが確認作業であろうとは恐るべきではないか。狼罠とは如何なる物か!? なお現在、春陽文庫「下水道」等で読む事が可能である。

【恐水病患者】(2001/11/14)
角田喜久雄、「新青年」昭和3年3月号発表短篇。鬼気迫る男が突如登場し気狂の如く退場したが、その残した二通の手紙。何と世にも奇怪な志願者だったことか。狂犬に噛まれての魔の恐水病。この悪魔死への狂怖は、男にある決断をせしめたのだ。それは法的処罰手段だっだが、捻りすぎた不完全犯罪は、偶然のお節介もあり、皮肉なる結果を得たのである。しかしそれも皮肉で、いや根本的に皮肉な計画だったのだ。それは恐水病の呪いであったのだろうか。なお現在、角川ホラー文庫「爬虫館事件(新青年傑作選)」等で読める。

【毛皮の外套を着た男】(2002/2/20)
角田喜久雄の処女作で、「新趣味」大正12年11月号発表。当時、まだ旧制中学在学中だというから驚きである。宝石を銀行に預けに来た男は、その宝石が狙われているというので、高い管理費を支払うまでしたのだが、その後、毛皮の外套を着つつ、受領証を持って取りに来た。にもかかわらず、更にもう一度受け取りに来たことから事件は紛糾してしまうのだ。さて、事件の裏にあったものとは!? 指紋と虫眼鏡、これこそ気の毒な者の破滅を救うものだったのである。なお現在光文社文庫「『新趣味』傑作選」等で読むことが可能だ。

【死体昇天】(2002/9/3)
角田喜久雄、「新青年」昭和4年8月号掲載の短篇。親友と言えども、同じ女を恋してはならぬ。そこに待ち受けるは悲劇のみ、そして死体昇天なのだ。友人の男は吹雪に迷い、一緒に行った女は戻ってきた。主人公は友人を心配していたはずだったのだ。そこへ来ての、恐るべき悪意の復活。思わぬ土産、残してきた水筒は、死体とともに昇天してしまったというのだろうか!? なお現在、角川文庫の新青年傑作選「君らの狂気で死を孕ませよ」等で読む事が可能である。

【蛇男】(2002/12/23)
角田喜久雄、「ぷろふいる」昭和10年12月号に掲載された短篇。恋人が主張したのは隣室に誰かが引っ越してきたと言うこと。主人公は経験上否定するが、その後感じ始める隣室の奇怪な感覚、隣室からの異臭、確認しようにも確認出来ない不気味な感覚。それは奇怪な蛇男の住居だというのだろうか。驚くべき魔のトリックを背負いながらも主人公は安堵感に充たされたのである。ああ、復讐の悲劇。なお現在、春陽文庫「下水道」等で読む事が可能である。

【浅草の犬】(2003/9/25)
角田喜久雄、「探偵」昭和6年6月号発表短篇。浅草、と言うよりも本当は上野の西郷像の前で拾われた犬はびっこを跛をひいていた。その犬を女の子が拾いチンピラ風味と知りあったことから、チンピラながらの美徳を堅守するために、許し難い行為をしつつ、浅草の犬を利用した悪漢に勝負を挑んだのだ。単なるそれだけのもので、全然取るにも足らない物だが、現在、春陽文庫「下水道」等で読む事が出来る。


戸田巽[とだ・たつみ]

【第三の証拠】(2002/6/28)
戸田巽、「新青年」昭和6年5月号発表の短篇。意外な展開が心憎いまでの鉄道物探偵小説で面白い。殺人を犯した男は鉄道に乗り逃避行を企てるが、やはり心理的に窮迫していて気が気でない。殺人者の警官の手を恐れる心理状況。更には隣に座った男が異様なまで親切心を発揮してくるのだ。不信感覚に陥っている主人公はますます窮迫。さて、この主人公を待ち受けていた奇妙な運命とはいかなるものか!? なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。