橋本五郎[はしもと・ごろう]

【疑問の叫び】(2002/6/3)
橋本五郎の短篇で、「文芸倶楽部」昭和6年4月増刊号に掲載されたもの。青年はフトした思いつきで有名探偵事務所へ行き、弟子入りを、探偵志願を申し入れた。面会法が少し巧妙だったこともあり試験を受けることに! それが奇怪な密室殺人事件だったのである。兇器の指紋が第三者のもので窓から出入りは出来なかったというのだ。その謎とは…?人の運命は分からぬものということでユーモラス。しかし橋本五郎は解決が軽すぎる感じがするが、この作品もその例にもれない。なお現在読める本は存在しない。仕方ない事だ。

【鮫人の掟】(2002/1/30)
橋本五郎、「新青年」昭和7年6月号発表短篇。これは怪奇物と本格物の美事なる融合と言えるだろう。潜水夫が海深く潜水中に殺されるという怪事件だ。しかもその容疑者が目撃によると、幽霊だというのであるから奇々怪々というしかない。それとも魚類だというのだろうか。とにかく潜水中の殺人事件という面白い題材を、強力無比な動機と恐るべき幽霊の怪奇で構成させた面白さ。さて、幽霊の正体やらその恐るべき真相とは如何なるものだったか!? なお、現在気軽に読める本は無いと思われるのが些か残念だ。

【自殺を買う話】(2002/4/6)
橋本五郎が「探偵趣味」昭和2年5月号に発表した短篇。広告欄の、自殺買う云々記事、それが何と知人発信。そしてその話の如何に物悲しい物だった事か。空腹な青年と何か疲れ切った感のある富裕な青年、別個な理由と言え彼等は同様の目的でその場所に来、出会ったのだろう。結果的に救われる側の空腹な青年は、食事、宿の厄介になれたが、その代わりに頼まれた物、それが自殺を買う動機だったのだ。何という絶望の淵だったことか! 決して繰り返させてはならぬ! なお現在、光文社文庫「『探偵趣味』傑作選」で読める。

【地図にない街】(2001/11/12)
橋本五郎が「新青年」昭和5年4月号に発表した短篇。地図にない街、それは大都会の抜け道である。罪のない罪である。そして男の精神に植え付けられた幻街であったのだ。男は謎のような老人に出会ったが、その老人は乞食のようであり大都会の完全なる生活術を知る不思議な、まるで魔術師のような感じもする老人だった…。しかし何という常軌を逸した計画だったろう。幻想のような生活の裏に隠されたそれは階級人からの魔の贈り物の如くなのだ。なお、現在、ハルキ文庫の「怪奇探偵小説集1」等で読める。

【ペリカン後日譚】(2002/11/24)
橋本五郎、「新青年」4月増大号発表の短篇。ユーモアあるアンチ本格もの。名探偵…の伏線には、驚くばかり。まさに真のユーモア探偵譚である。さて、その名探偵、犬の元の飼い主を言い当てたり、区にとって大事な龍眼を瞬く間に探し出したりし大活躍! 名探偵の名を欲しいままにするに至ったのであるが、誘拐事件を依頼されるに及んで、ほとほと困り果ててしまったのである。しかし名探偵の眼力は伊達ではなかったのだ。ユーモア爆発の作品。なお現在、気軽に読める本はない。

【眼】(2002/10/20)
橋本五郎、「新青年」昭和6年4月増大号掲載の短篇。これはまぁまぁ面白く読める作品だ。ゾッとする恐怖が意外な所からヌッと現れるのは凄い。眼科病棟での悲劇であり、錯誤の悲劇であった。この疑心のベクトルが悲劇の元になるとは意外性の怪奇探偵小説だ。眼科病棟の眼患者達は目がよく見えないばかりに恐るべき陥穽に落ち込まされるのである。動機は、動機は、人間らしいものであったが、やはり利用の恐ろしさと誤解の悲劇が生んだ悪夢であった。なお、現在気楽に読めないのは遺憾である。

【小曲】(2003/9/25)
橋本五郎の掌編コントで、「探偵クラブ」昭和7年12月号掲載された。暴風の夜というのは一人でいると誰でも不安なものであり、主人公も悪漢でもやって来やしないかと恐れ震えていたのだが、そんな時に耳に飛び込んできたのが、強盗殺人の場面のような物音に悲鳴。恐怖の主人公は次の日の朝に外に見に行ってみるが………。さて、その実際の恐怖の対象とは如何なるものだったか!? まぁ、まるで取るに足らぬ一篇に過ぎないだろう。なお、現在光文社文庫「『探偵クラブ』傑作選」で読む事が出来る。

【撞球室の七人】(2003/9/25)
橋本五郎、「探偵」昭和6年6月号発表短篇。撞球室で起こった謎の殺人事件。その場にいた七人が容疑者とされ、遂には有力な嫌疑者を警察はしょっ引いていったが、如何せん兇器が見つからぬ。世論新聞は冤罪ではないのか、と騒ぎ立てたが、その真相とは如何なるものだったか。兇器消失の秘密とは。全然大した物でもないが、現在光文社文庫「『探偵』傑作選」で読む事が出来るので、ついでに読むのも悪くはないだろう。


羽志主水[はし・もんど]

【越後獅子】(2003/9/25)
羽志主水、「新青年」大正15年12月号発表の短篇。時計が不正確という今では信じられない日本の現状だったがラジオの越後獅子が決定項になったのである。火事が発生し、焼け跡から、手拭いで首が絞められた女の死体が出るという事件。しかも夫たる男とも頻繁に口喧嘩しており、加えて保険金までかけていたというのだ。こうまで揃って、疑われてしまうのだが、事件の真相とは如何なる物だったか。なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。


浜尾四郎[はまお・しろう]

【彼が殺したか】(2001/12/17)
浜尾四郎、「新青年」昭和4年1月号発表中篇。ああ、法律よりも至高な動機、その前には法律も力を失ってしまう。夫婦の最期の言葉と兇器を持った男、そしてあからさまな呪いの自白。確かに死刑になるのも当然である。しかし法律は認めても本当に彼が殺したのか? 復讐鬼の心の悪魔は囁いていた。それは二重の復讐。法律を呪い、信じていた女への呪い。まさに命かける動機だ。悪魔の前には法律も踏み台に過ぎぬ。変態性欲が絡んだこの事件の真相は人には裁けぬ…。なお現在、創元推理文庫「浜尾四郎集」等で読める。

【救助の権利 】(2002/5/16)
浜尾四郎、「文芸倶楽部」昭和6年4月増刊号に発表短篇。これも考えさせる法律小説である。今でも十二分に通じる論理。人は赤の他人を救助する義務がないどころか、権利も無いというのだろうか。干渉が悲劇を呼んだケース。確かに自分勝手な自己満足を得るためだけの安易すぎる援助はより以上の不幸を招きかねないのだ。まず救助の資格を得なければ……。小説家が考えた理解出来る自殺幇助者を起訴!? の筋から展開するのである。なお現在読める本はないようだ。少し残念な所である。

【殺人鬼】(2001/10/30)
浜尾四郎による金字塔立つ偉業の本格長編が本篇である。昭和6年「名古屋新聞」連載の本篇は藤枝真太郎・名探偵物。屡々ヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」の焼直しに過ぎないとか一言批判をされるが、それは大間違も甚だしい。確かにその影響は濃厚である。しかしそれはいわばこの「殺人鬼」の粉飾に過ぎず、見せかけだけの物だ。その実体は「グリーン家」も仰天の創意溢る大本格なのである。現在、創元推理文庫「浜尾四郎集」で読めるので、お奨めだ。但し「グリーン家」ネタバレがあるので、先にこちらの名品から。

【正義】(2002/10/14)
浜尾四郎、「新青年」昭和5年4月号発表の法律的探偵小説。正義がどこにあるというのか、法の正義の為に犠牲になる必要はあるのか!? ある銃殺事件、無罪主張している男が栽培に付せられる。と言うのもちょっとした誤魔化から検事等に自白をさせられてしまったからだ。しかし法廷では無罪を主張。主人公弁護士もそれを信じ、証拠不十分で無罪を訴える。これぞ法の正義。しかし友人の持ち出した目撃証言はその正義を考えさせる悲劇を含んでいたのである。なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読める。

【博士邸の怪事件】(2002/1/28)
浜尾四郎の第一長篇で元は昭和6年にラジオドラマとして書かれた。それだけにセリフばかりで、会話だけで構成されてるに等しい。藤枝真太郎初登場長篇でもある本篇、死亡推定時刻と実際証言が余りにも食い違うという奇々怪々な展開で、しかも容疑者達の証言は妙な所で一致しているのだ。まさに当局は惑乱するばかり。と、中途までは論理もそれなりに面白く、どういう解決をしてくれるものか、期待させるが、結末のヘンテコさにはガッカリしてしまうこの反動だ。なお、現在春陽文庫「博士邸の怪事件」で読める。

【不幸な人達】(2003/9/25)
浜尾四郎の本格味もある怪奇短篇。ある分量以上飲むと致死量に達するという薬。しかしこれは分量さえ守れば睡眠薬になる。この睡眠薬を巡って、人は単なる思いこみで利いてしまうのか、ということになってしまい・・・・・・・、恐ろしい終末を迎えてしまうのである。錯誤が錯誤を生んでいた。不安材料的にも勢揃いだったのが精神を圧迫したのだろう。そして現実への反射。確かにこれは早まりすぎた悲劇も仕方がないのかも知れない。そして生きる者にも悲劇は波及するというのだから悲惨すぎである。悪戯と実践が生んだ悲劇だと言っておこう。なお、現在春陽文庫「博士邸の怪事件」で読める。


葉山嘉樹[はやま・よしき]

【屍を食う男】(2002/7/8)
葉山嘉樹、「新青年」昭和2年4月号掲載の短篇。何という凄惨さ、異常さ。屍を喰らうのである。その中学の寮、二人っきりの同部屋。主人公のパートナーは臆病そうな人間嫌い臭い男。しかしその男が深夜、主人公の寝息を窺って度々どこかへ姿を消すのだ。それに神経を減らされ、遂に尾行しようと思い立ったのが、悪夢の始まりであったのかも知れない。それは何という目撃だったか。しかもそれこそトラップ、餌に飛びついたのである。なお現在、角川ホラー文庫の新青年傑作選「ひとりで夜読むな」で読む事が可能だ。


久生十蘭[ひさお・じゅうらん]

【海豹島】(2001/11/21)
久生十蘭が「大陸」昭和14年2月号発表の短篇。そこは絶海の孤島だ。海豹達の戦場だ。地獄の静寂と極寒だ。主人公が小屋に訪れてしまった事が、そして大自然の気紛れが予定の破綻を意味し、浄化の結果を招いてしまう。そこに住む男は悪夢のような爆発事故の生き残り。そして膃肭獣の雌をまさに狂気錯乱なまでにこよなく愛しているのである。呪詛渦巻く海豹島での何という犯罪だったことか、そして何という危険回避の奇怪なトリックだったか。畏怖すべきまでの真相だ。なお現在、ちくま文庫「久生十蘭集」等で読める。

【黒い手帳】(2002/4/21)
久生十蘭、「新青年」昭和12年1月号掲載の短篇。机の上の黒い手帳、それにはある男の不適な研究成果が綴られている。それにまつわる話なのだ。四階の夫婦、五階の主人公、六階の手帳の男、手帳の男は余りにも暴れていたのだ。10年間の大成、恐るべき公式、それこそルーレットシステムだ。そして不幸な事に困窮した夫婦もそのシステムを研究していたが万策尽きていた中に手帳の男の実践。狂気に充ちた不幸が不幸をを呼ぶ本作、その結末とは如何なる物だったか!? なお現在、ちくま文庫「久生十蘭集」等で読める。


久山秀子[ひさやま・ひでこ]

【代表作家選集?】(2001/11/18)
久山秀子が「新青年」大正15年7月号に発表したもの。いや、はしがきによると、筆者ことスリの「隼お秀」が原稿を手に入れたことから始まるのだ。詳しくは分からぬが、まさに日本最初の探偵小説パスティーシュではなかろうか!? 隅田川散歩「闇に迷く」、鎗先潤一郎「桜湯の事件」、興が侍ふ「画伯のポンプ」、お先へ捕縛「人工幽霊」と四連発なのである。ネタ元は説明の要もあるまい。ちなみに乱歩のは内容「人間椅子」のパロディである。これほどの大爆笑ユーモアはそうはない。どうにか覆刻して頂きたいものである。


平林初之輔[ひらばやし・はつのすけ]

【秘密】(2002/12/17)
平林初之輔、「新青年」大正15年10月号掲載の短篇。嘗ての恋人とは誓いあったような仲だった。にもかかわらず、彼女の突如の失踪、その空白は長すぎたのだ。じきに男は新しい恋を得、結婚に至った。しかしその後である。元の彼女が戻ってきたのだ。これをめぐって、よもや恐るべき秘密にまで到達してしまおうとは。しかも知らなかったとは言え、目の前での、暴露。秘密に敗れた末はもはや・・・。なお現在、角川文庫の新青年傑作選「君らの狂気で死を孕ませよ」等で読む事が可能である。

【山吹町の殺人】(2001/11/16)
平林初之輔、昭和2年1月号の「新青年」に発表短篇。主人公と死体の直面から始まる。その失策としては懐中の手紙や紛失した靴、更には血の付いたズボンと意外に多かった。しかしこれでも心中的に主人公は疑われた方が幸せだったのだ。殺された女との誤解を招くが、あくまで健全な関係。しかしそれは許嫁には通用するはずもなく、嫉妬の対象だった。そこへ来ての死体。さて、健全派に違いないが本格と言うには最後が大急ぎ過ぎるのが悔やまれるこの事件の真相は!? なお現在、光文社文庫「殺意を運ぶ列車」で読める。

【人造人間】(2001/11/16)
平林初之輔、「新青年」昭和3年4月号に発表のSF短篇。人造人間それは、試験管ベイビーだというのだが、それはまさに現代を予感しているかの技術。母子ある博士と、婚約者のいる女助手は、世間に隠れて六ヶ月の研究に従事する。壇上での発表から六ヶ月後に実物を以て公表するというのだ。まさに世界観や法律をひっくり返す一大発明。さて、人造人間の実験の果ては如何なる物だったか。そして世間学会を驚かした理由とは!? なお現在、青空文庫で読む事が可能だ。

【犠牲者】(2003/9/25)
平林初之輔、「新青年」大正15年5月号発表の法律的探偵小説。歯車として大満足し、それ以上何も望まぬ男の夢は崩れ去るのは砂上の楼閣よりも一瞬の出来事だった。法律が解決しえない事件に巻き込まれてしまった男の悲惨。解決のない事件も有り得るかもしれないのだが、状況は男を包囲する。雪道での脳天への打撃、そして気絶が、馬鹿のように善良な男に降りかかった時、そしてその嫌疑者としての警官への対応が犠牲を作り出したのだ。ああっ、愚人。なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読める。


星田三平[ほしだ・さんぺい]

【エル・ベチョオ】(2002/11/18)
星田三平、「新青年」昭和7年9月号掲載の短篇。ユニークなタッチで描かれた作品が本篇だ。主人公の龍さんは偶然の散歩コースから、突然人違いをされ、事件の渦中に巻き込まれていくのである。少女の父親は拳銃をぶっ放し、エル・ベチョオの陰に怯えるばかり。そして遂には死と相成ったのだ。この秘密は、エル・ベチョオに繋がるというのだろうか? それともこれも単なる偶然だったというのだろうか!? さて。なお現在、角川ホラー文庫の新青年傑作選「ひとりで夜読むな」で読む事が可能だ。

【せんとらる地球市建設記録】(2002/4/10)
星田三平の処女作で、「新青年」昭和5年夏季増刊に掲載の中篇で、怪奇SFテーマで面白さを勝ち取っていると云える佳作だ。漂流者達は、どうにかこうにか再上陸を果たす事が出来た。しかしその眼に飛び込んできたのは異様な町並み、死体ばかりの死の街なのだ。高まる不安を背負いつつも、帝都に向かうが、魔の犬が徘徊するだけの死体の山という絶望という二文字が相応しい展開だったのだ。さて如何にこの情況を脱却しただろうか!? なお現在、読める本がないというのが残念な所である。

【落下傘嬢殺害事件】(2001/12/01)
星田三平の本格短篇で「新青年」昭和6年12月号発表。恋愛心理が複雑に絡み合って起きた落下傘嬢の悲劇。因みにパラシュートガールと読む。墜落死への作為の香り、それは自殺か他殺か。ナイフに残されたイニシャルNの秘密。そのイニシャルの裏に隠された意思。間違えた落下傘。全ての秘密は映画が語っていると思われたが……。単なる本格物で終われば内容からしてもそれ程ではなかったが、警部補の推理を超越する意外な心理がグンと引き立っているのが本篇なのだ。なお現在、手軽に読める本がないのが惜しまれる所だ。


保篠龍緒[ほしの・たつお]

【深夜の客】(2002/1/19)
保篠龍緒の短篇で、「文芸倶楽部」昭和6年4月増刊号に掲載されたもの。紅色ダイヤを巡る攻防戦。ルパンの翻訳家の大家・保篠龍緒らしい展開だが、どうもやはり面白味は薄いとしか言いようがない。侠盗対怪盗、かなり即判読には無理のある電話による暗号とエッセンスは一応揃ってはいるのだろうが。事件は名探偵の元に依頼に来た夫人から始まり、それが二年前にペテンにあったというのである。なお、現在、読める本は存在しない。しかしそれも仕方ないだろう。これについては所詮はその程度の凡作なのである。


本田緒生[ほんだ・おせい]

【呪われた真珠】(2002/3/28)
「新趣味」大正11年11月号発表の本田緒生処女作。呪われた真珠はどこまでも呪われており、悲劇の最大演出を成し遂げたのである。事件は女中が、令嬢の姉が惨殺されているのを発見した所から始まる。容疑者が恋人であるという記事を見て、妹は犯人を推定しまい、しかも姉の挿していた真珠を売った人間も同一名だと知ることになる。その指摘された秋月圭吉だが、その誤解を如何に解くことが出来ただろうか!? まぁ、処女作としては興味深い一篇。なお現在光文社文庫「『新趣味』傑作選」等で読む事が出来る。

【美の誘惑】(2002/6/13)
本田緒生があわぢ生名義で書いたもので「新趣味」大正11年12月号発表。「呪われた真珠」にも繋がる秋月シリーズである。処女作に比べると、趣向的に少し面白いかも知れない。一方からの手紙公開形式で、呪われた真珠を得たという相思相愛夫婦に起こった悲劇事件。その妻が牛乳を飲んで、死亡してしまったのである。果たしてこれは借金に苦しむ夫の仕業なのか。つまり保険金目的だったのか! ある矛盾から犯人が出てきたが、隠れ蓑としては悪くない所だ。なお現在光文社文庫「『新趣味』傑作選」等で読む事が出来る。

【蒔かれし種】(2001/11/13)
あわぢ生こと本田緒生が「新青年」大正14年4月号に発表の中篇。「新趣味」の二篇に継での秋月シリーズで日記形式だ。電柱の四つ葉のクローバーに突き立ち矢マーク、この不吉が当たるかの如く寝台列車で件の女が殺された。素人探偵宣言の秋月は容疑者の無罪を直感し調査するも第二の殺人に加え、容疑者に友人。ネクタイの秘密や圧巻の復讐、アンフェアながらも筋や意外な真相が面白い本格物である。さて、いかに極的葛藤の中、蒔れた種は刈り取られたのか。なお、現在残念ながら気軽に読める本がないのが、遺憾である。
附記:過去には鮎川哲也編のトラベルミステリーアンソロジー「シグナルは消えた」(徳間文庫)で読めたので、古本屋などで探してみるのが良いかも知れない。

【危機】(2003/9/25)
本田緒生、「探偵・映画」昭和2年11月号発表短篇。ちょっとした悪戯心が危機を招いてしまった言う話。ハッキリ言って同時期に余りにも偶発性が働き過ぎという面等でも大した物ではない。ユーモアな山本君シリーズであるが、山本君、結婚生活に刺激を求めたいと思ったからか、偽のラブレターをタイプ係に打って貰い、妻をヤキモキさせるという遊戯を思いついた。しかしそれが危機への引き金であったのだ。ああっ、人の心を利用した悪戯は危険千万だ…。なお現在、光文社文庫「『探偵』傑作選」で読む事が出来る。