幽鬼の塔


登場人物(ダブり含む)
河津三郎,河津三郎書生の島木少年,自称亀井正信の労働者風の男,鞄屋の主人とおかみさん,吉野館の番頭及び小女たち,浅草公園巡回中の警官,進藤礼子,進藤健三,進藤家の使用人〔女中ら、運転手など〕,進藤礼子の黒猫,河津邸に忍び込んだマントの怪物,黒目がねに頬ひげの紳士,M銀行係り員,鶴田正雄,近藤八重子,河津三郎の名古屋の友人の三島,三田村,三田村邸に忍び込んだ黒い影のような人物,青木昌作,大田黒大造,S中学校長,老小使い,南志津枝,杉村,岩崎,その他警察関係者など

主な舞台
世田谷区の淋しい区域にある河津邸),本所区?(吉野館,鞄屋),吾妻橋,浅草公園〈五重塔〉,上野公園の旧寛永寺?五重塔,渋谷区の渋谷駅西側に位置する淋しい屋敷町〈進藤邸〉,日本橋のM銀行本店,名古屋市(名古屋駅,古渡町一丁目二十五番地,古渡町からほど遠からぬ料理屋の三笑,時計工場,市立図書館),安倍川[静岡市西側を流れる川],安倍川下流の村落,用宗駅[静岡駅の二つ西より],青山手前のとある裏通りの淋しい町角にある住宅街〈三田村邸〉,静岡県S市(S中学校,郊外の土蔵)など

※(ちょっとした“うんちく”)
私の調査によると、日本橋のM銀行本店とは、おそらく日本橋区室町二丁目(現.中央区日本橋室町2丁目)にある三井銀行本店のことであると思われる。理由としては、調べた限り、Mの銀行は三菱と三井だけであり、三菱銀行は支店あれども、この界隈に本店はなかったからである。

名古屋市古渡町・・・とは、現在も存在するが、名古屋市中区にある地名。

静岡県S市の候補は静岡市(明治二十二年四月市政)と清水市(大正十二年七月市政)の二つだけである。

作品一言紹介
河津三郎はお金があり、親戚もないという身軽で高等遊民的生活の出来る身分にあったのだが、素人探偵を自認するほどの猟奇好きな奇人であった。その素人探偵河津三郎が、いつものように彼の本能の示すままに、異常に謎のモノを大事そうに抱えた謎の怪人物を尾行し、さらにスキを見て怪人物の大事にしていたその荷物を拝借するや、滑車、麻縄、汚れたブラウスと大した荷物であるとも思えないにもかかわらず、その後に起こった出来事はまさに常軌を逸するものだった。なんとその謎の人物こと自称亀井正信は五重塔で人間風鈴と化してしまったのである。この奥が深いまさにタイトル通り「幽鬼の塔」であるこの怪事件の真相とは一体いかなるものであったか・・・・・・。

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【奇妙な素人探偵】【黒い鞄】【異様の品々】【悪魔の火】【風鈴男】【意外の発見】【赤い部屋】【黒猫の眼】【窓の顔】【怪紳士】【尾行者】【首吊り男の妻】【夜行列車】【濁流】【幽霊探偵】【顔と顔】【怪自動車】【恐ろしきアトリエ】【ゴムの指】【呪いの塔】【闇の声】【文豪と政治家】【幽鬼】【邪悪の古里】【あかずの蔵】【蔵の中の美少女】【秘密クラブ】【七つの突き傷】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
奇妙な素人探偵→【奇妙なしろうと探偵】,黒い鞄→【黒いカバン】,赤い部屋→【赤いへや】,黒猫の眼→【黒ネコの目】,首吊り男の妻→【首つり男の妻奇妙な素人探偵→【奇妙なしろうと探偵】,呪いの塔→【のろいの塔】,闇の声→【やみの声】,邪悪の古里→【邪悪のふるさと

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
新潮社の大衆雑誌「日の出」昭和十四年四月号から十五年三月号まで連載したもの。この作はシムノンの「聖フォリアン寺院の首吊人」のセントラル・アイディヤを借りているが、翻案というほど原作に近い筋ではないので、シムノンに断ることはしなかった。このころはもう太平洋戦争が近づいていて、探偵小説の禁圧がひどくなり、これが私の最後の連載ものであった。したがって、執筆に熱もなく私の持ち味というようなものが、この作にはほとんど出ていないのである。

比較的最近の収録文庫本
角川文庫・江戸川乱歩作品集『暗黒星』
講談社文庫・江戸川乱歩推理文庫『幽鬼の塔』
春陽文庫・江戸川乱歩文庫『幽鬼の塔』

(注意)残念なことに角川文庫と講談社文庫は品切・絶版中・・・


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