孤島の鬼

登場人物(ダブり含む)
私(=蓑浦),木崎初代,深山木幸吉,諸戸道雄,場末のホテルのボーイ,初代の母親,八十以上の腰の曲がったお爺さん,S・K商会・人事担当庶務主任のK氏,初代の母親の亡き夫の弟,初代の家の隣の古道具屋の老主人とその細君など近隣の人々,蓑浦の母親と兄夫婦,深山木家に来ていた子どもたち,諸戸家書生と飯炊き婆さん,鎌倉海岸の群衆,友之助,助八,おとし,おくみ,お父つぁん,秀ちゃん,吉ちゃん,およね,池袋署の北川刑事,一寸法師など尾崎曲馬団の座員たち,その親方,松山,諸戸の両親,K港の宿屋の女房,老漁夫,徳さん,諸戸丈五郎,諸戸お高,諸戸屋敷の下男など雇人達,徳さんの息子,シゲ,他片輪者たち,その他警察関係者と検事などなど

主な舞台
丸の内のあるビルディングにオフィスを持つS・K商会,日比谷公園,小川町の乗換場,神田の初音館,丸の内の大通り,銀座,新橋のある鳥料理屋,巣鴨宮仲の初代の家とその周辺,鎌倉の深山木邸,巣鴨の駅,池袋の諸戸木造洋館,鎌倉の海岸,鶯谷に近い町の尾崎曲馬団,神田神保町近くの「探偵本部」,静岡県の或る町,和歌山県南端のK港,そのK港から五里西にある岩屋島(諸戸屋敷など)など

作品一言紹介
主人公、蓑浦の白髪化に纏わる恐るべき物語。恋愛、密室系などの不可能犯罪と四重殺人事件、それに関わる素人探偵の死;、血の因縁、同性愛物語、異形の群れ、暗号に関する宝探し、八幡の藪知らずのラビリンス、そして白髪への変異・・・・・・。このように驚異的とも言えるエッセンスの圧倒的豊富さ。この「孤島の鬼」こそ乱歩長篇の最大傑作だと頻繁に言われる所以である。何よりも一般的な探偵小説的解決に済まず、それすらも踏み台にして物語は進行していく。さて、その行き着く果ては?白髪化の恐るべき理由とは如何なるものだったか。これは世界広しといえど、乱歩しか書き得ない超越「怪奇探偵」物語である。

ネタばれ感想
ネタばれ感想コーナーの『「孤島の鬼」梗概と感想』へのリンク。未読の方は読まぬように。

章の名乱舞(参照は旧角川文庫)
【はしがき】【思い出の一夜】【異様なる恋】【怪老人】【入口のない部屋】【恋人の灰】【奇妙な友人】【七宝の花瓶】【古道具屋の客】【明正午限り】【理外の理】【鼻欠けの乃木大将】【再び怪老人】【意外な素人探偵】【盲点の作用】【魔法の壺】【少年軽業師】【乃木将軍の秘密】【弥陀の利益】【人外境便り】【鋸と鏡】【恐ろしき恋】【奇妙な通信】【北川刑事と一寸法師】【諸戸道雄の告白】【悪魔の正体】【岩屋島】【諸戸屋敷】【三日間】【影武者】【殺人遠景】【屋上の怪老人】【神と仏】【かたわ者の群】【三角形の頂点】【古井戸の底】【八幡の藪知らず】【麻縄の切り口】【魔の淵の主】【暗中の水泳】【絶望】【復讐鬼】【生地獄】【意外の人物】【霊の導き】【狂える悪魔】【刑事来る】【大団円】

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
入り口のない部屋→【入り口のないへや】,再び怪老人→【ふたたび怪老人】,意外な素人探偵→【意外なしろうと探偵】,少年軽業師→【少年軽わざ師】,人外境便り→【人外境だより】,鋸と鏡→【ノコギリと鏡】,かたわ者の群→【かたわ者の群れ】,八幡の藪知らず→【八幡のやぶ知らず】,麻縄の切り口→【麻なわの切れ口】,復讐鬼→【ふくしゅう鬼】,生地獄→【生き地獄】,刑事来る→【刑事きたる

著者(乱歩)による作品解説(河出文庫引用)
 昭和四年、森下雨村さんが博文館の総編集長となり、講談社の「キング」に対抗して出した大部数の大衆雑誌「朝日」の同年一月創刊号から一年余り連載したもの。この小説は鴎外全集の随筆の中に、シナで見世物用に不具者を製造する話が書いてあったのにヒントを得て、筋を立てた。その後、私は通俗娯楽雑誌に多くの連載小説を書いたが、「孤島の鬼」はそういう種類の第一作といってもよいものであった。或る人は、私の長篇のうちでは、これが一番まとまっていると言った。この小説に同性愛が取り入れてあるのは、そのころ、岩田準一君という友人と、熱心に同性愛の文献あさりをやっていたので、ついそれが小説に投影したのであろう。この作は昭和十三,四年に出した新潮社の「江戸川乱歩選集」にも入れたのだが、そのころはもうシナ事変にはいっていて、小説の検閲もきびしく、何カ所も削除を命ぜられ、それが戦後の版にもまぎれこんで、削除のままになっている部分があったので、大正六,七年の平凡社の私の全集と照らし合わせて、すべて元の姿に直した。また、終わりの方の樋口家の年表に間違いがあることを気づいたので、それも訂正しておいた。


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