月と手袋


登場人物
北野克彦,股野重郎,股野あけみ,見回りに来た警官,花田警部,きよ(女中),明智小五郎

作品一言紹介
倒叙型の探偵小説。北野克彦が股野重郎を殺害してしまったところから物語が動き始める。そこで彼はその危機を脱するために愛人たる股野あけみとアリバイ工作を試みるも・・・・・・。最強完全なアリバイで物理的完全犯罪を作り上げた作品。

章の名乱舞(参照はちくま文庫)
一から五まで

※(異本たる春陽堂バージョンに於ける異章題)
1から5まで

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「オール読物」昭和三十年四月号に発表。私は戦後、西洋の作品の紹介や批判ばかり書いていて、小説というものは昭和二十五年に短篇「断崖」を書いたばかりであった。別に小説を断念したわけではなく、何か従来とちがったものを掴もうとして悩んでいたのであるが、「宝石」昭和二十八年十月号に書いた連作「畸形の天女」の私の受けもちの第一回五十枚は、何かしら従来の私とちがったものが出ていたので、ひょっとしたらこの方向へ発展できるのかなと感じ、この「月と手袋」や書き下し長篇「十字路」などはそういう心構えで執筆したのだが、しかし、この方向模索は結局長続きしなかった。この作のトリックは戦争中に「日の出」に連載した「偉大なる夢」(アメリカを侮辱するような戦争小説なので、本にすることをさしひかえている)に使った「犯人自身が自分の犯行を遠くから眺める」という極端な不可能興味、最強のアリバイ作りの手法を、倒叙的に再使用したものであった。このトリックは外国ではカーの「皇帝の嗅ぎ煙草入れ」に使われているが、私はこのカーの作を読む以前に「偉大なる夢」でこれを発案していた。


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