火星の運河


登場人物
私,彼女

主な舞台
特に記載無し

作品一言紹介
怪奇幻想、まさに夢を越えた散文詩。火星の運河は待望の効果だ、究極の夢の実現には不可欠必須のエッセンスなのだ、私はお化けのように生気のない暗闇の森中を歩いていた。恐怖の暗い闇に包まれた森、脱出すれどもそこは森。謎のようなこの展開に待ち受けている物は、まさに夢。しかしその森の中央に現れたるは沼であり、その沼の写したる世界を見たのである。乱歩の頭の中を文章化したような本作は怪奇幻想の傑品と言う事が出来るだろう。乱歩作品で最も純に幻想のみに満ちていると思われる作品だ。

著者(乱歩)による作品解説(ちくま文庫引用)
「新青年」大正十五年四月号に執筆。私の夢を散文詩みたいに書いたもの。そのころの私は、こういう風景を最も美しく感じていたのである。「パノラマ島奇談」の一風景とも相通ずるものがある。これは短さからいえばショート・ショートだが、私はこういうごく短い作を、ほかにも幾つか書いている。「白昼夢」「指」「毒草」「指環」などである。

新青年の記事について
「火星の運河」関連部として興味深い記事のため、「新青年」大正15年4月号より巻末の「編集後記」の一部記事を引用(※新字体の新仮名遣いに調整)する。
◆本号は予告のとおり、本誌と縁故の深い五氏の創作と翻訳を中心として編集した。諸氏が多忙の中を割いて力作名訳を寄せられたことを感謝する。特に江戸川氏は東京へ引越し早々感冒のため病臥中を推して、他雑誌を謝絶してまで執筆された。他ならぬ本誌との深い関係を思えばこそであろうと、原稿を持参された時には嬉し涙さえこぼれた。

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