復刻版「新青年」を読んでの感想〔昭和十年〕

新青年 十二月號

「悪魔の指」/渡辺啓助/18ページ(2001/11/13読了)
亡き父の思い出の中でも謎だったフランクフルト。そこには父が中指を一本無くした場所でもあった。その指こそ悪魔の指であったのだ。ハッキリ言ってヘンテコで苦しい展開ではあるが、その指の真実は恐ろしいまでのもので更には復讐鬼の復讐は罪的にも達せられたのである。さて、主人公がフランクフルトで体験した悪夢とは!?


新青年 十一月號

「幽靈水兵 後篇」/木々高太郎/24ページ(2001/11/9読了)
意外な幽霊の正体と信号の謎。その信号の謎には哀愁が漂っていたのだ。


「情熱の殺人」/葛山二郎/18ページ(2001/11/13読了)
電車の中に現れた三人組は雨の雫に気が付かぬほど悲しげだった。その理由というのは恐いかなる情熱の仕業だったか。恋愛の情熱、その障害は金であり、人であったのだ。まぁ、大したこともない短篇に過ぎないが。


「寳物」/城昌幸/10ページ(2001/11/13読了)
人口的な岩に気付いた信西はそこに唐櫃を発見し、後に訪れることにし、弁護士に所有権について等を相談した。しかし弁護士言うには、信西はそれ以降現れないと言う。そして弁護士は単独でいってみて・・・・・・・、その唐櫃の宝物の滑稽さもさながら、状況の滑稽さも悲惨であり意外である。まぁ、それほどでもないが、それなりには楽しめるだろう。


新青年 十月増大號

「幽靈水兵 前篇」/木々高太郎/22ページ(2001/11/9読了)
日露戦争時のある戦艦で起こった戦争神経症にまつわる話。そして誤解も含みつつも二人の兄弟をある意味悲劇が訪れた。幽霊水兵となり、笠原医師を殺害せしめたというのだろうか? 三人の息子にもアリバイはなく、兇器はナイフ、さて・・・。


「青い鴉」/西尾正/18ページ(2001/11/9読了)
どうも面白くないなぁ、幽霊写真などを巡る。


新青年 七月號

「烙印 後篇」/大下宇陀兒/25ページ(2001/11/9読了)
あの犯罪の烙印から主人公はマ−クされることになっていたとは! 図書館の謎の第三者の仕組んだ会見。ゴルフ会員徽章からの悲劇・・・・・・。更には意表を衝くような探偵を捜せ、という地獄探偵の興味も加わるのだ。好中篇だったと言えよう。


新青年 六月號

「烙印 前篇」/大下宇陀兒/26ページ(2001/11/9読了)
背任などの大きすぎる失敗を演じた主人公はその主でもある子爵がしばらく胸の内に仕舞ってやるからと言う優しい心使いを逆手に取り、恐るべき計画を立て始めたように見えた。そこで起こったのが女の仕掛けた陥穽で、子爵は抜き差しならぬ状況に陥り、遂には悲劇を招いてしまうが・・・・・・。


「模型」/城昌幸/6ページ(2001/11/9読了)
雀の涙生活者は暇だったからこそ、妄想の家を模型で表し幸福に浸ることが出来たのかも知れない。しかし現実に模型を実体化させて理想生活をすると、そこには失望しかなかった。やはり彼は空想の住人だったのだ。


「暗室」/渡辺啓助/7ペ−ジ(2001/11/9読了)
女子寮の暗室で発生したダイヤモンド盗難事件。この結末はあまりにも哀しい動機と心理に埋まっていたのだ。恋愛の儚さと嫉妬・・・、陰気ながらも悲しい事件だった。このストーリーで憎むべきは教育者だろうか。


「炎」/橋本五郎/6ペ−ジ(2001/11/9読了)
何と言うことだ。復讐に火をつけたというのに、その逆を越える奸智だったとでも言うのか。計画の逆手ではないのか。正義を擬して行った炎の制裁は悪魔の前には快哉と変化せしめるような福音でしかありえなかったのだ。ああ、どこまでも地獄へ堕ちる主人公・・・・・・・。


「慈善家名簿」/葛山二郎/7ページ(2001/11/9読了)
ユーモア探偵小説。花堂弁護士はフトしたことから旧知の男に出会うが、彼は何と乞食になっていた。しかもそれなのに成功者だというのだ。さて、乞食組合を作らしめたその慈善家名簿とは!?


新青年 五月號

「獏鸚[ばくおう]」/海野十三/22ページ(2001/11/7読了)
帆村荘六の手元には謎の紙片がある。そこには獏鸚なる不可解な文字が! 果たして漠と鸚鵡の結合的生物を指すというのだろうか。そこに繋がる映画館で得た暗号・・・? さて、祕密結社同士の争闘に関わるこの事件の意外な暗号とは!?


「恋慕」/木々高太郎/19ページ(2001/11/7読了)
連続短篇第5話。文学味をつけようとしているのだろうが、結局この作品では探偵味を安くしただけで失敗している。この程度では作中人ですら誰でも推理出来そうなもので、ますます変になっただけだ。秘密の不倫関係の二人だったが、7年目には悲事が起きてしまう。子どもを侮るなかれというのが犯罪者への教訓となるのかも知れない。


新青年 四月増大號

「情鬼」/大下宇陀兒/28ページ(2001/11/7読了)
全く大したことない。赤色恐怖症の主人公だが、その効果も全然表れているとは思えぬ。女に裏切られその精神病のせいで、世間にも見捨てられた男は怪盗に成り下がりつつも表の顔も得ていたのだが・・・・・・、そんなとき自殺志願の女を救って運命は転がるかと思われたが、それも結局、この男にとってのみは悲劇への道しるべにしかならなかったのだ。


「青色鞏膜」/木々高太郎/27ページ(2001/11/7読了)
なるほど、木々の作品で文学味のあるものはこれが最初であるかも知れぬ。そして意外性の連続でなかなか面白い展開。しかし最後に待ち受けていたのは運命の残酷だった。設定的に恐るべき謎は解けてくるが、その決定的なのは青色鞏膜の遺伝からだった。それは意外なことまでも知らしめてしまうのだ。なお、癩病というキーワードもこのストーリーでは重要事であり、あまりにも悲しみなのである。


「司馬家崩壊」/水谷準/24ページ(2001/11/7読了)
少しユーモア風味もある本格探偵小説の佳作。司馬家とは「しまけ」と読む。その司馬家当主の道平は六十回目の誕生日を迎えたその日に不思議な死を遂げた。至上の幸福を迎えつつ死んだのだ。そこには陥穽が隠されていた死の謎。容疑者は甥二人から、三人、四人へまでなったのだが・・・、全ての答えは道平の胃から見つかった黄金の玉に示されていたのである。これが大自然の帰化しむるような意思の力だったのだ。


新青年 三月號

「妄想の原理」/木々高太郎/20ページ(2001/11/7読了)
連続短篇その三。癲癇発作中の男が殺人を犯して、重要物を盗み出した。大心地先生は小発作の朦朧状態という責任能力がなくなる状況に詐病が出やすい認識していたが、今回もその詐病なのだろうか・・・? さて、その男は実に精神病者になってしまったが、大心地先生いかに精神病者の妄想原理という数学式が表す一種の暗号から、重大な秘密を守ることが出来ただろうか!?


新青年 二月號

「睡り人形」/木々高太郎/23ページ(2001/11/7読了)
連続短篇その二。睡り人形、それは恐るべき人工睡眠の悪夢である。ある医学者の妻は嗜眠性脳炎と診断されたのだが、そこには恐るべき意思が働いていたのだ。その妻はやがて死んだのだが、その医学者はすぐに再婚し、仕事も引退してしまった。その果てにあったのは、いかなる奇怪な睡り人形との生活だったことか。徐々に睡り人形は完成へ近づいていった。しかし反射もあるし人間そのもので、ある結実もある。独占、この異常な行為、この異常犯罪小説には恐怖すらも感ずる。なお、この号、突如検閲が入り、削除が多かったことをつけ加えておく。最大の被害者は横溝正史「鬼火」前篇だ。


Sinseinen 1935 January

「死固」/木々高太郎/23ページ(2001/11/7読了)
連続短篇第一回目だが、それほどのものではない。というより、浜尾四郎の長篇「博士邸の怪事件」と全く同じようなトリックであり、どうもいただけないのだ。死固、それは死後硬直に関する用語である。筋はある銃殺事件が発生し、動機ある容疑者が複数! そこで死亡推定時刻から犯人を割り出しにかかるが・・・、という本格もの。


「龍源居の殺人」/崎村雅/16ページ(2001/11/7読了)
A懸賞入選だったので読んでみたが、つまらん、の一言である。新京で起こった事件で主人公は目覚めるとナイフを手に、下に支那夫人の死体があったのだ。しかもその間の記憶がないのだから手に負えない。更に真犯人を捜すべく活動中に殺人犯人に偽計されもはや追いつめられる一方だ・・・・・・、というもの。幻想怪奇もないし、本格もない、何が面白いのか理解不能すぎるのである。


「心臓を売る男」/械世街/14ページ(2001/11/7読了)
B懸賞入選もの(もう一つ光石介太郎)「霧の夜」もB入選)。これも期待外れだ。痛みを感じない男はボクサーであったが、極端に心臓が弱い男でもあった。というのも、元の強い心臓を売ってしまったからだというのだが・・・。