「新青年」復刻版の創作への感想

このコーナーには、その名の通り「新青年」復刻版の日本人による創作への私の読書記録を余暇もないのに読むため遅々としたペースで書いていきます。しかし公開しているとは言え、加筆更新しても「乱歩の世界」のトップの更新記録には載せません。所詮はこの程度ではおまけコーナー扱いが関の山でしょうから(汗)あと、ちなみに新青年は総ルビ体制の模様です。また広告を見ると、英語の学習関連のものが驚くほど多く、この大正時代ですら広告で世界語という英語に対する認識もどうも現在並ですね。広告によると、学校で習う中で一番難しいものだったらしい、当時も今もまったく変わらない日本人の姿に(汗)

※JISコード(第1水準、第2水準)に入ってるものは出来うる限り旧字体でタイトルなど表します。ユニコードにしかない場合とかは新字体or代換え文字で。あと、乱歩関連の記事ばかりになるが、引用転載は黄色の文字で表すことにする。

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新青年 大正十五年第六號(五月號)=一册六十錢

新進作家集

「娘を守る八人の婿」/久山秀子/9ページ(2000/12/18読了)

隼お秀(本名:久山秀子)の若かりし大学時代の話。勿論内容はスリであるのはいうまでもない。


「月光の部屋」/水谷準/13ページ(2000/12/18読了)

怪奇か!? 現実か!? という興味深い事件が月光の部屋で起こり、二重構造がそれなりに楽しめる話。


「レテーロ・エン・ラ・カーヴオ」/橋本五郎/8ページ(2000/12/18読了)

恋の秘密通信の話だったが、事実は・・・・・・とういう話。


「祕密結社」/大下宇陀兒/12ページ(2000/12/18読了)

能率、省エネを好む主人公が似たような仲間と結社を作り、馬鹿なことにも一人一科目のカンニング結社を作った。それは幸いバレることもなく順調だったのだが・・・・・最後に主人公に襲いかかる錯誤とは?ハッキリ言って笑える話である。


「赤えひのはらわた」/荒木十三郎/13ページ(2000/12/18読了)
※題名の「えひ」は魚編+譚の右側の機種依存漢字である。

悪い息子のぺてん話。大した話ではない。なお作者は=橋本五郎。


「都會の神秘」/城昌幸/(2000/12/18読了)

演説調の都会の神秘による殺人・・・・・・しかし私的には面白いと思えなかった。。


「犠牲者」/平林初之輔/20ページ/(2001/1/9読了)

ささやかな幸福を待つばかりの今村が偶発的事件の渦中に巻き込まれ、人生をグチャグチャにされる。ちょっと現実として虚しさを感じさせる話


「桐の花」(小篇)/小酒井不木/6ページ(2001/1/9読了)

不木も編集部に謝罪の手紙を書いてるように、探偵趣味はほとんど見られないが、普通に恋の悪戯の話としてだけ見れば悪くはないだろう。


新青年 大正十五年第五號(四月號)=一册六十錢

飜譯創作選集

乱歩の「火星の運河」六ページも収録。なお話末に乱歩の文章が載っていたので、引用させていただくと、
(お詫び)讀者が失望された如く、これは無論探偵小説ではない。一月ばかり私は健康を害してゐて、筆を執る氣力もないのです。併しこの號には、編輯方針から云つても、どうあつても何か書かねばならず、止むなく拵へものゝ難をさけて流れ出すまゝの易(い)についた。片々たる拙文、何とも申譯ありません。一言讀者の寛怒を乞ふ次第です。

あと巻末の「編輯後記」の一部記事も引用する。
◆本號は豫告のとほり、本誌と縁故の深い五氏の創作と飜譯を中心として編輯した。諸氏が多忙の中を割いて力作名譯を寄せられたことを感謝する。特に江戸川氏は東京へ引越し早々感冒の爲病臥中を推して、他雑誌を謝絶してまで執筆された。他ならぬ本誌との深い關係を思へばこそであろうと、原稿を持参された時には嬉し涙さへこぼれた。


「安死術」/小酒井不木/7ページ(2000/12/8読了)

安楽死を扱ったものだが今一つ足りない。ラストでほんの少々恐怖性が垣間見えた程度である。


「祕密の相似」/小酒井不木/7ページ(2000/12/8読了)

意外な展開ではあったが、大したこともない詐欺の話である。


「家常茶飯」/佐藤春夫/10ページ(2000/12/13読了)

知恵者の茶本の話。この男にかかると日常のちょっとした謎がたちどころなのだ。


「縣立病院の幽靈」/正木不如丘/18ページ(2000/12/13読了)

いわゆる怪談的な話の類なのだが、ただ長いばかりで面白みはない。


「銀三十枚」(中篇)/國枝史郎/22ページ(2000/12/13読了)

前篇の内容から大きく飛躍し銀貨三十枚を中心に物語を展開する。ユダの心に陥ってしまった主人公の運命や如何に?


新青年 大正十五年第四號(三月號)=一册六十錢

「銀三十枚(前編)」/國枝史郎/13ページ(2000/12/7読了)

イエス、ユダらを題材にした凄い話からスタート!次号でどうなるのかが楽しみである。


「チンピラ探偵」/久山秀子/14ページ(2000/12/7読了)

「隼お秀」もの。ややもすると悲しみも漂いそうな中にも痛快さがあって相変わらず快い。


「肉腫」/小酒井不木/5ページ(2000/12/7読了)

例のように医学ものだが、この作は凡作。面白み感じられず。


新青年 大正十五年第三號(新春増刊號)=一册一圓

探偵小説傑作集

例によって、巻末の「編輯局から」に森下雨村氏らしき記者の些か乱歩に関する記事が出ていたので一部引用する。
◆近頃「探偵小説時代」といふ言葉を聞く。江戸川亂歩兄が讀賣新聞の文藝欄でさういふ題下で探偵小説の流行を説けば、それと前後して春日野緑君が大阪社交クラブでやはり「探偵小説時代」といふ講演をせられたさうである


新青年 大正十五年第二號(二月號)=一册六十錢

「短篇集」/牧逸馬/4ページ(2000/12/7読了)

「深夜」「悲しき別離」「死を賭して」「赤い刄」「あひゞき」「愛すればこそ」「白日」「狹い道」を四ページに収録。つまり二行から半ページ程度の小話の連なりである。


「死人の欲望」/片岡鐵兵/11ページ(2000/12/7読了)

幽霊を扱った怪奇小説である。まぁ並で重みが全然足りない。


「奇蹟を望む」/水守龜之助/14ページ(2000/12/7読了)

なかなか面白い本格短篇と言える。ある心中らしき事件から複雑怪奇になっていく。


新青年 大正十五年第一號(新年増大號)=一册六十錢

探偵小説創作集

江戸川亂歩の「踊る一寸法師」も収録。10ページ。なお、タイトルの後、括弧して、探偵小品、と付けられていた。
他、日本人の創作探偵小説を十数つ収録している嘗てないほど豪華な号と言えるだろう。


「戀愛曲線」/小酒井不木/14ページ(2000/12/4読了)

もう圧巻としか言いようがない。単なる恐怖とも怪奇とだけとも言いきれない色々な感情が複雑に溶け合ったような不気味な恍惚感を与える・・・。まさに人外超越の学問、恋愛曲線!とにかく特に中盤以降の読み応えは圧倒的である。


「豫審調書」/平林初之輔/(2000/12/4読了)

なかなか良く出来た本格短篇だった。読む価値は充分あるだろう。


「あかはぎの拇指紋」/角田喜久雄/8ページ(2000/12/6読了)

錯誤も含め、話自体は大したものとは思えなかったが、文章的には必要以上に惹き寄せるものがあった。


「酩酊」/川田功/5ページ(2000/12/6読了)

ただの小篇で凡作だろう。面白みが感じられない。


「蝋燭」/水谷準/3ページ(2000/12/6読了)

ほんの掌編。蝋燭が消えたら命も云々という話が一転して・・・・・・更なる悲劇が、というもので面白くない。


「ニッケルの文鎭」/甲賀三郎/20ページ(2000/12/6読了)

傑作本格短篇であった。小間使い(女中?)による一人称形式も効果的であるし、判事?の錯誤も見物、甲賀三郎得意の専門を使った殺人事件のカラクリも面白く、そしてなによりラストのこの事件全体の真相、ここまで来ると素晴らしいとしか言えないであろう。


新青年 大正十四年第十四號(十二月號)=一册五十錢

「痴人の復讐」/小酒井不木/7ページ(2000/12/1読了)

病院の助手を務める男は愚図でのろまのため、皆から痴人というあだ名で呼ばれていたのだが、その痴人はそう呼ばれるたびに復讐心を燃やすという異常性格の持ち主だった。現実でありうる身にしみる恐怖を描いた秀作小説。


「意識せる錯覺」/城昌幸/(2000/12/1読了)

巧みに動機面から誘導して殺人をしたものと錯覚させてしまう話。どういうことか非常に中途半端な結末だったような気がする。


新青年 大正十四年第十三號(十一月號)=一册五十錢

「空き屋の怪」/甲賀三郎/9ページ(2000/12/1読了)

悪徳検事から家を取り戻すというもの。弁護士の密かな活躍が少し面白い。主人公と同じく私も少なからずドキリとしたものだ。


「太鼓鰻本店」/大下宇陀兒/9ページ(2000/12/1読了)

ある社員のボーナス袋を詐欺で奪い取られてしまった会計の主人公が犯人を捜し出すという話。


新青年 大正十四年第十二號(秋季特別増大號)=一册五十錢

「手術」/小酒井不木/6ページ(2000/11/30読了)

語り手の私の家で「探偵趣味の會」の例會が男女九名で開かれ、この日のテーマは食人についてだった。それで元看護婦の会員が語りだした、世にも恐ろしい食人話はいかなるものであったか!? ゾッとする恐怖を感じる怪奇小説、ここにあり!


新青年 大正十四年第十一號(九月號)=一册五十錢

「遺傳」/小酒井不木/4ページ(2000/11/30読了)

怪奇性なものはないが、刑法という現実はある。ある推理が導き出した遺伝的悲劇とはいかなるものだったか!?


「竹の間事件」/水谷準/18ページ(2000/11/30読了)

自殺と推断された事件だったが、ある点から他殺有力に転換され探偵役の友人が警察に連れて行かれた、それを主人公探偵が解決するというもの。次号での乱歩の評価は今一つではあったが、私的にはなかなかの本格秀作であると思う。特に動機面は面白い。


「その暴風雨(あらし)」/城昌幸/4ページ(2000/11/30読了)

暴風雨の中の船を舞台にして、何とも言えない恐怖感を残す作品である。ちなみに同じく城昌幸の「怪奇の創造」(4ページ)もこの九月号に掲載されているのだが、私的には幾分「怪奇の創造」の方が上であるような気がする、ことをつけ加えておく。


新青年 大正十四年第十號(夏期増刊)=一册五十錢

江戸川亂歩の「屋根裏の散歩者」の号。31ページ


「按摩」/小酒井不木/6ページ(2000/11/29読了)

ツボをついた面白い怪奇小説だった。モルヒネと盲目との関連の恐怖。


「虚實の證據」(きょじつのしょうこ)/小酒井不木/4ページ(2000/11/29読了)

「虚の證據」と「實の證據」の二小篇があり、どちらも会話形式、まぁ、コント程度のものだろう。


新増年 大正十四年第九號(八月號)=一册五十錢

「鮭」/本田緒生/4ページ(2000/11/29読了)

あらゆる面で取るに足らない小篇。単にごくごくつまらぬことが証拠となり、犯罪が露顕してしまうというもの。


「蠅の肢」/羽志主水/7ページ(2000/11/29読了)

タイトルの蝿の足から犯人の範囲を推理するいうものであるが、どうもやや半端な感は否めないだろう。


新青年 大正十四年第八號(七月號)=一册五十錢

この号に、初めて小酒井不木と江戸川乱歩の近影写真が掲載された。とりあえず、そういうわけだから、写真は無理にせよ、それに際した編輯部からの文章を下記に転載する。
書齋に於ける小酒井博士と江戸川亂歩氏です。讀者諸君からの熱望により、こゝに兩氏の近影を御紹介します。
ちなみに当然ながら小酒井氏の方がページ一面の長方形写真で扱いは圧倒的に良く、乱歩の方はその左上の楕円形写真であった。


「編輯だより」という巻末、今回は編輯局の森下雨村へ来た寄稿家諸氏及び誌友諸君のご忠告、通信、つまりは手紙を、いくつか紹介するというものであった。そしてわざわざこう書くからにはもちろん乱歩が新青年編集部(森下雨村)に出した手紙もあったからである。それを以下に転載する。
◆暫く三重縣の方へ旅行してゐたゝめ御無沙汰しました。それに父の病氣や何かで長いものに筆をとる閑もなく、お約束した『虎』も半分程度でそのまゝになつてゐますので、代りに『小品二篇』を差出します。『白晝夢』の方はかなり苦心をしたものです。御批評下さい。(江戸川亂歩)
もう一つ転載、これは森下雨村の文章である、位置的には上記乱歩の文章の次に続くもの。
◆江戸川君の創作集「二錢銅貨」が近く春陽堂から出版されることになりました。こゝで御紹介しておきます。(記者)
私的には『虎』を乱歩が本当に半分書いてたかは甚だ疑問(^^;。ちなみに『白晝夢』とはもちろん『白昼夢』のこと、それと『小品二篇』のもう一つは『指環』。また森下雨村氏の記事では春陽堂から創作集「二錢銅貨」が出るとあるが、七月に出た実際の本の名前は「心理試驗」であった、おそらく当時最も評判の良かった「心理試驗」の方を前面に出したのであろう、と推測される。


また乱歩の「小品二篇」が収録されている号である。8ページ。その内訳は「その一 白晝夢」が5ページ、「その二 指環」が3ページ。

もう一つの創作には、横溝正史の「畫室の犯罪」(「アトリヱの犯罪」)24ページも収録されていたが、最近に読んだことあるので時間の関係上、この日は挿し絵を見るだけに留めておいた。


新青年 大正十四年第七號(六月號)=一册五十錢

「誘惑」/甲賀三郎/24ページ(2000/11/27読了)

かなり強引な展開であるが、意外な所が中盤と終盤に二度もあり、「誘惑」という表題の付け方も絶妙であると思われた。


「ネクタイ・ピン」/牧逸馬/5ページ(2000/11/27読了)

「地下鉄サム」を題材にしているほんの小篇だが、まず言えることは面白みがわからない、ということだけ。


新青年 大正十四年第六號(五月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「幽靈」の号。連續短篇四。14ページ
次號豫告「虎」(創作)・・・・・・江戸川亂歩、「ネクタイ・ピン」・・・・・・牧逸馬と話末に付せられていた。


「大下君の推理」/甲賀三郎/12ページ/(2000/11/24読了)

探偵が大下君を向かいの家の窃盗罪の疑いで調査しに来た。それに対し大下君は容易に反証のための推理を披露していくのだが・・・・・・、ラストの錯誤も見物であろう。


新青年 大正十四年第五號(四月號)=一册五十錢

乱歩の「赤い部屋」が収録されている号。連續短篇探偵小説(三)


「金口の卷煙草」/大下宇陀兒/19ページ(2000/11/21読了)

これまた好人物の主人公の裏目を付いた話。とりたて大したこともなく予想通りの結末であった。とはいえ、当時の社会性、及び後世の高木彬光でお馴染みの一高の学生の話であったのでその辺興味深くはあった。


「盲畫家」/水谷準/13ページ(2000/11/22読了)

主人公の盲人で元画家とその友人画家の話。予想外の結末にはある意味意外性があったとも取れるが、まぁ、評価的にはせいぜい並がいいところだろう。ただ盲人の話術には圧倒されるものも感じられた。


「上海された男」/谷譲次/11ページ(2000/11/24読了)

上海された男と上海した男の話、その皮肉的結末と来たら・・・・・・。ちなみに谷譲次とはご存じ牧逸馬の別名。


「母の祕密」/甲賀三郎/33ページ(2000/11/24読了)

今までの甲賀三郎とは怪しげな雰囲気漂う作風で書かれた本格。タイトルでもある母の秘密に関することである恐ろしい悪巧みがなされ・・・・・・、というお話。


「浮れてゐる「隼」」/久山秀子/12ページ(2000/11/24読了)

見よ!この隼お秀の美事までのお手並みを!という話。突っ込むとネタばれになるので、これだけということで・・・。


新青年 大正十四年第四號(三月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「黒手組」の号。23ページ。連續短篇探偵小説(二)
次號豫告「赤い部屋」・・・・・・江戸川亂歩、と話末に付せられていた。
それとまたも巻末「編輯局より」に乱歩関連の文章が多かったので、該当部分を中心に抜粋する。
◆江戸川亂歩君の上京を機とし、一月十六日の晩に、江戸川の橋本に探偵小説同好者の集りを催した。會する者、田中早苗、延原謙、春田能爲、長谷川海太郎、松野一夫の諸君、それに編輯同人の神(※→本当は「旧」示篇)部君と自分、全部で八人の小さい集りであつた。(星野、淺野、妹尾、坂本の諸君は通知が間に合はず、或は事故のため缺席)
(中略)
◆創作と云へば、江戸川君の連續短篇は果然異常なる好評を博し、讀者諸君は素より文壇諸家の間にも非常なる興味と期待を以て、迎へられてゐる。事實江戸川君の作品は、記者も云つたとほり、外國にもその例を見出し難いもので、同君の如き豊なる天分を有つた作家が忽然としてわが文壇に現れたことは、一つの驚異と云ふべきである。
◆因に二月號掲載の「心理試驗」は英譯して、英米の探偵雑誌へ發表するつもりで、牧逸馬氏の手で目下飜譯中である。(雨村生)


新青年 大正十四年第三號(二月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「心理試驗」の号。巻頭小説で26ページ。連續短篇探偵小説(一)
この号は日本人創作は乱歩のだけであったが、巻末の「編輯局より」という森下雨村の編集後記に乱歩関連の記事があったので、その「編輯局より」の文章の一部を下記に抜粋する。
◆本邦に於ける唯一の探偵作家である江戸川亂歩氏が本號から、連續短篇を発表せられることゝなつた。「二錢銅貨」に、近くは「D坂の殺人事件」に、讀書界を驚嘆せしめたる氏が、いよいよ探偵作家として文壇に活躍すべき門出の創作である。切に諸君の愛讀を望む。


新青年 大正十四年第一號(一月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「D坂の殺人事件」の号。巻頭小説で26ページ。
この号は日本人創作は乱歩のだけであったが、その「D坂」の始めと終わりに文章があったので、それを転載しておくとする。
恐らくというか、それしかありえないのだが、まず編輯部(森下雨村)による話の始めの言葉。
 嚴密なる意味よりして、我國に於ける唯一の探偵作家たる江戸川亂歩氏の力作を紹介する。氏が探偵作家としての非凡なる手腕は、會て本誌上に發表されたる「二錢銅貨」「恐ろしき錯誤」その他の作品により疾に認めらるゝところ。本篇は特に氏の力作にかゝり、構想の妙、取材の清新、而して文章の流麗暢達なるなる、眞にこれ海外探偵小説界にも容易に求めがたき傑作。或は本號所載の作品中にあつても、最も傑出したる作品の一つに算ふべきか。
次に話の終わりの作者乱歩の言葉。
■作者附記
僅かの時間で執筆を急いだのと、一つは餘り長くなることを虞れたためとで、明智の推理の最も重要なる部分、聯想診断に關する話を詳記することが出來なかつたことが殘念に思ふ。この點はいづれ稿を改めて、他の作品に於て充分に書いてみたいと思つてゐる。


新青年 大正十三年第十四號(十二月號)=一册五十錢

「財布」/本田緒生/9ページ(2000/11/18読了)

これも完全に面白みに欠けたもの。会社を首になるなど癇癪を起こしていた主人公は思わずスリのようなことをしてしまい、罪悪感に囚われてしまったものの、最終的には何でも無いばかりか、別口で金を得る話。ただスリには変わりなく、同じような題材の山下利三郎の「頭の悪い男」にはもちろん、並レベルの「裏口から」にすらも全然劣る低レベルのものだ。(我ながらボロクソ言ってるな(汗)


新青年 大正十三年第七號(六月號)=一册五十錢

江戸川亂歩の「二癈人」のある号。13ページ


「琥珀のパイプ」/甲賀三郎/22ページ(2000/11/16読了)

二つの事件が美事に複雑怪奇に混ざり合ってるのを松本名探偵が解き明かす。この本格ミステリも甲賀三郎の化学知識を生かしつつ、全く最後の驚くべき真相、この演出は心憎いばかりではないか、あまりにネタばれになるから伏せておくが、例の探偵小説では有名な目くらましトリックに出くわすとは思いもよらなかった次第である。主人公が琥珀のパイプを見るたびに、冒頭文の通りにゾットせざるをえないのもよくわかるというものだ。


「孤兒」/水谷準/10ページ(2000/11/18読了)

まぁ、論理的にも無理があるし、せいぜいが並だろう。二人の兄弟のような仲の孤児の一人に実は父親がいて、しかもその父親が莫大な遺産を残して死んだということから皮肉な事件が勃発する・・・・・・。


「裏口から」/山下利三郎/14ページ(2000/11/18読了)

不景気のせいで定職を失ってしまった主人公は信じていた神からも見捨てられた心持ちがして、やけっぱちになっていた。とそこに裏口があいている家を見つけて思わず泥棒に墜ちるところだったが・・・・・、特に意外性もなく大したものではない。善人を悪に導かぬ神様の話というべきか・・・。


新青年 大正十二年第九號(八月號)=一册五十錢

「二人の罪人(つみびと)」/田中健三郎/6ページ(2000/11/15読了)

懸賞二等當選とのことだが、全然面白くない。二人の罪人が登場し、軽罪の方が重罪がいるにも関わらず逮捕されるのがいかにもおかしいということが表したいらしいが。


新青年 大正十二年第十三號(十一月號)〔帝都復興號〕=一册五十錢

※江戸川亂歩「恐ろしき錯誤」がある号である。ちなみに27ページ
(越野氏の事件は「赤い部屋」で云々の附記があり、東京創元社の乱歩選「算盤」を確認しても復刻されていないようなので、後日写して引用させてもらうことにする。)
それでその「恐ろしき錯誤」末尾に付せられた文がこれ。(新字体版はこちらの説明ページを参照)
(附記)初め、作者は越野氏の事件に重點を置くつもりだつた。その意圖から云ふと、こゝまでは越野氏の事件に入(い)る前提に過ぎないのだつた。併し、作者はこゝまで書いて來て、ふと氣が變つた。越野氏の事件はそれ丈けを切離して一つの小説にした方がもつと面白いものになるといふ氣がして來た。それと、一つは時間のなかつた關係もあつて、この話には兎も角これでお終ひにすることにした。さういふ譯で、この話には全體に亙つて越野氏の事件に對する伏線が敷かれてあるので、これ丈けのものとして見ると少なからず變な感じがするかも知れない。だが、確かに一段落はついてゐると思ふ。越野氏の事件は多分『赤い部屋』と題して發表することになるだろう。


「カナリヤの祕密」/甲賀三郎/28ページ(2000/11/13読了)

二人の類似した毒瓦斯中毒事件を扱ったなかなかの秀作である。カナリヤという謎の最期の言葉から名探偵の橋本が事件の謎を解明する。なお、この作品にも良く出る科学知識、前號第十二號(大震災記念號)に本名の工學士 春田能爲名義で「探偵小説と化學」という評論を書いている。これが甲賀三郎の新青年初登場であろう。


「ある哲學者の死」/山下利三郎/26ページ(2000/11/15読了)

哲学者がある人の会合上のセリフを鵜呑みにして自殺したという展開だったが、ラスト二ページの二重のどんでん返しにはまさに驚愕の一言。


新青年 大正十二年第五號(四月號)=一册五十錢

※江戸川亂歩「二錢銅貨」がある号である。ちなみに20ページ+小酒井不木の「「二錢銅貨」を讀む」2ページ+亂歩「探偵小説に就いて」2ページ


「頭の悪い男」/山下利三郎/9ページ(2000/11/11読了)

非常に面白いものであった。最後の主人公の様子を想像するとプッと吹き出しそうにもなる。つまりは表題通り、主人公は頭の悪い男であるのだが、それゆえのとんでもない邪推と悪人になる勇気がないばかりに(もっともこれは良いことだが)とんでもない間違いをしでかしてしまうというもの。


「詐僞師」(さぎし)/松本泰/6ページ(2000/11/11読了)

大した作品ではない。ただ二重の意味で詐欺が行われていた、それだけである。


「山又山/保篠龍緒/22ページ(2000/11/11読了)

新青年でも翻訳を頻繁にしていた保篠氏(00/11/13に春日野緑氏と同じ人だと気がついた〔※〕)の創作探偵小説。暗號あり、ダイイング・メッセージありと、材料的には興味深い点が多いがいかんせん小説というか事件が今一つで、しかも比較的長いものだから少々怠さを感じた。
〔※後日、再度保篠氏と春日野氏が別人だと気がついた(笑)詳しくは、とりあえず割愛。一言でだけ、本名がそっくりなのだ。


新青年 大正十二年第三號(二月號)=一册五十錢

「ブルドック」/田中健三郎/4ページ(2000/11/11読了)

=懸賞一等當選=こちらは探偵小説である。タイトルにもなってるブルドックが出てきたところでネタがバレるというものでペテン的な要素が強い。


「妹」/加藤鉦一/8ページ(2000/11/11読了)

=懸賞一等當選=とあったので読んだが、青年小説の部であった(笑)ということで普通小説。


新青年 大正十一年第十四號(十二月號)=一册五十錢

「好敵手」(かうきしゅ)/水谷準/4ページ(2000/11/11読了)

=懸賞一等當選=作品。ある意味ペテンにかけ犯行を露顕させてしまうというもの。ほんの短い掌編だが読後の痛快感は十二分である。


新青年 大正十一年第六號(五月號)=一册三十錢

「佛蘭西製の鏡」(フランス〜)/藤田操/6ページ(2000/11/11読了)

=懸賞一等當選=作品。ちなみにライヴァルには次点に「夜光珠」の角田喜久雄、他に「脅迫者は何處に」の横溝正史、「眞鍮の鋲」の安田城西、「呪はれた美男子」の山本寂夕、「絨氈(せん?)の下」の馬場多缺志が最終候補として森下雨村の机に残ったそうだ。作品については本格形式であり消えた宝石の行方を突き止めるというもの。鮮やかな解決がこころにくい。


それ以前

夢野久作「あやかしの鼓」、江戸川亂歩「二錢銅貨」を読了。感想は省略。