光文社

*** 書籍表題 出版社 筆者 訳者など 一言感想or備考 お勧め度
085 完全犯罪に猫は何匹必要か? 光文社文庫 東川篤哉 招き猫マニアで巨大回転寿司チェーンの会長に三毛猫の捜索を依頼されたと思いきや、その後、その依頼主がビニールハウス内で不可思議な死に方をした。死体の傍には巨大招き猫がおかれていたというのである。10年前にも同じ所で殺人事件があり迷宮入りしている。鮮やかなトリックと意外な盲点が面白い本格探偵小説。ただ売りというユーモアはセンスが古いと思いまする。 ☆☆☆☆+
083 4000年のアリバイ回廊 光文社文庫 柄刀一 室戸沖の深海で発見されたのは殺人死体。その死体は宮崎県で発見されたポンペイのように形跡をハッキリ残した縄文の呪術村の遺跡発掘関係者だった。殺人事件の調査とともに遺跡側の謎も交錯する。前作同様縄文側の謎ばかりに注視してしまい、現在の謎には大した興味を持てないのが欠点か。いにしえから連綿と続く遺伝子には改めて衝撃を受けるに違いない。 ☆☆☆☆+
070 3000年の密室 光文社文庫 柄刀一 個人的な趣味で言えば、これぞ理想の本格推理とも言えるような形式と謎解き。
トンデモ考古学研究者が洞窟から縄文人のミイラという考古学の画期的な発見をした。考古学界はもちろん、世界全体にセンセーショナルが当然のごとくに巻き起こる。世間はそれどころではないが、更に内部から閉ざされた行き止まり洞窟内という発見場所、ミイラの右腕が切断されている事などから密室殺人の謎まで提出されていた。いわば縄文時代の完全犯罪である。
現在の事件側は考古学的論争導入部は面白かっただけに事件そのものおよび解決に至るまでの展開には今一つの感を拭いきれなかった点は惜しいところ。
☆☆☆☆☆ー
084 アイルランドの薔薇 光文社文庫 石持浅海 日本物じゃないと読む気がしないとも思って敬遠するなかれ。アイルランドの薔薇は乱歩的な探偵VS怪人という要素も含めた意外性に富んだ本格探偵小説となっており、更にアイルランドという舞台はあの北アイルランド問題に直結している興味深くも分かりやすい内容となっているのだ。その北アイルランド問題に絡んでいるため、警察を呼ぶことが出来ず、それでも真犯人を見付けないといけないという状況下、作品ならではの特殊な動機付けなど作品としては一級品と言えるだろう。 ☆☆☆☆☆ー
060 顔のない敵 カッパ・ノベルス 石持浅海 近ごろの本格ミステリ界に疎い私でも名前だけは知っていた。なぜ読もうかと思ったかというと、なんとなく立ち読んだ本格ミステリベスト10の上位の中でノベルスだったことということと、適度なサイズの短篇集であること、なんとなく名前は知っていたという点が大きいだろう。

本書は対人地雷をテーマにした短篇集となっている。正直本格ミステリと対人地雷に何の繋がりがあるのかよくわからず、どんな作品世界に引きずりこんでくれるのか不安とランキング上位の期待が入り交じっていたが、読んでみると、見事に溶け合っているし、対人地雷についての小難しい話題もなく、すんなりと対人地雷の絡んだ本格ミステリとして作品世界を理解することが出来た。また日本社会における正義とは異なる論理で地雷除去現場の正義が語られるところにも注目したい。そしてもちろん完成度の高い本格ミステリでテーマとの協調性も高い。これを光文社の本格推理投稿時代に書き上げているのだから驚くばかりだ。収録作品は、「地雷原突破」、「利口な地雷」、「顔のない敵」、「トラバサミ」、「銃声でなく、音楽を」、「未来へ踏み出す足」、「暗い箱の中で」。

「地雷原突破」は地雷除去NGOの友人との会話形式であり、欧州の平和社会の中で、仮想地雷地帯を作って地雷の密集を再現した中の憂鬱な死の悲劇について語られる。会話形式であるからこそ真実を見抜くことができ、また本格探偵小説のトリックや動機面の種別としてもオーソドックスで実は地雷テーマがなくとも書ける話となっているのが減点だが、それでも地雷テーマとの絡みによって作品に重みが出ているのは大きいと言える。

「利口な地雷」は殺人の謎よりも利口な地雷自身の謎の方に興味が向くという地雷テーマならではの不思議でかつ残酷な面白みがある。

「顔のない敵」は本書のタイトルになっているとおり、象徴的なタイトルであり、テーマとなる地雷がまさに主役を張っている本格ミステリ。地雷を知らぬ私であっても、その犯罪動機には納得させられるという説得力を持つ。

「トラバサミ」は日本社会に地雷が設置されるならどこに設置するという話。ここでは実際の地雷の代わりに獣用罠のトラバサミを代用している。謎と解答の出し方はテーマに沿った興味を満たしている。

「銃声ではなく、音楽を」は謎小説としては読めないが、地雷除去NGOの同一登場人物を再び出して、冒頭の「地雷原突破」と対をなしている点で本書に必要な話であると言える。

「未来へ踏み出す足」は「顔のない敵」の直接の続編であり、同種の感想を抱かせる作品。地雷ものの掉尾を飾る作品としては相応しいものとなっている。

「暗い箱の中で」は地雷物とは一切関係ない作者の処女作(光文社「本格推理」投稿採用作)。この処女作と第2作「地雷原突破」の落差は著しいが、これが地雷テーマの威力というものなのだろうか?
☆☆☆☆☆
046 放送禁止歌 光文社・知恵の森文庫 森達也 民放連によって規制された放送禁止歌。その内実などに迫る。何てことはない、過剰で間違った人権思想によって思考停止に陥ったマスコミが行う、臭い物にはフタをせよ。触らぬ神に祟りなし神話についての話だ。興味深いと言えば興味深い本。 ☆☆☆
046 名探偵 木更津悠也 カッパ・ノベルス 麻耶雄嵩 名探偵・木更津を主人公にした短篇集。全作に白幽霊が登場したりするので連作短篇とも言えるだろう。麻耶雄嵩らしい奇矯な事件というでもなく、全作表向きは、まともなオーソドックスな事件である。
「白幽霊」は遺産相続を巡った毒々しい家庭内争いの最中、殺人事件が発生。証言の食い違いの中、いかに解決するか? と言う話。
「禁区」は高校の文芸部で殺人事件が発生。その前提として部員たちは白幽霊をハッキリ認識してしまうという事件があり、禁区が生じてしまうが・・・と言う内容。
「交換殺人」はその名の通り交換殺人がテーマなのだが、酔った勢いで真には望まぬ交換殺人引き受けてしまった男が、その殺す相手が自分の手以外で殺されてしまい焦ってしまうところから始まる事件。
「時間外返却」は一年前に大学生の失踪していた娘が死体となって出てきたのを契機に犯人を見付けようとした親の依頼を木更津が引き受ける。娘の陰の恋人がキーになったが、これもまた白幽霊が絡んでいるというもの。

なお、ワトスン役の香月君は崇高な理想的名探偵像を心に秘めている。「翼ある闇」の通り、推理力はズバ抜けているこの香月君。しかし彼はあくまで裏方のワトスン役に甘んじ、表舞台の名探偵役を木更津に譲っている。というのも香月君の持つ名探偵像と満たすには推理力は必要条件の一つに過ぎず、他にも何らかの風格とか資質とか強い信念のようなものも必要であり、香月君自身にはつまり名探偵たる資格がないと判断されたからだ。「翼ある闇」や「木製の王子」でお馴染みの木更津名探偵が主役のこの短篇集、影の主役の香月君がいかに努力して惚れ惚れする名探偵を構築しているかがわかるだろう。よく言えば、まるで親が小さな子を必死に導いて、少しでも理想に近づけようとしているかのように。
って、実際は凄い嫌悪感であるから注意が必要だ。「名探偵コナン」のコナン君に匹敵するぐらいタチが悪いとしか言えないのである。あの何もかも僕の手のひらの上で踊っているに過ぎないダヨと言った傲慢がそこには垣間見えなくもないだろう。まぁ、育成ゲームのプレイヤー視点だから当然と言えば当然なのだろうが。
☆☆☆☆
045 霧に溶ける 光文社文庫 笹沢左保 ミスOLコンテスト。入賞することで、人生を余りにも大きく左右するこのコンテストの受賞者が次から次へと奇妙な事件の主人公となってしまう。二つの密室や物語全体に巡らされた美事な伏線などが本格興味を満足させる。もっとも密室の一つはトリックだけなら感心できるものだったが、もう一方のトリックは伏線があからさま過ぎたという点で効果が今一つ。いずれにせよゲーム性ある本格探偵小説で本当の最後の最後まで面白かった。 ☆☆☆☆☆−
06b 江戸川乱歩全集 第2巻
パノラマ島綺譚
光文社文庫 江戸川乱歩 「闇に蠢く」「湖畔亭事件」「空気男」「パノラマ島綺譚」「一寸法師」の初期中長篇を収録。何度も何度もサッと再読するだけでも読み損なっていた部分が必ずあって楽しめる。 ☆☆☆☆☆
066 江戸川乱歩全集 第1巻
屋根裏の散歩者
光文社文庫 江戸川乱歩 初期短篇集。初期短篇はもっとも秀でた作品が揃っているために頻繁に参照再読したくもなるのである。 ☆☆☆☆☆
065 江戸川乱歩全集 第23巻
怪人と少年探偵
光文社文庫 江戸川乱歩 透明人間トリックの「おれは二十面相だ!!」、ポケット小僧と井上少年の水攻めがおもしろい「怪人と少年探偵」、飽きさせぬ発想はおもしろいが催眠術とは・・・「妖星人R」、猟奇の果のプロットで小林少年大活躍の「超人ニコラ」、そして「探偵小説の「謎」」を収録。 ☆☆☆☆☆
055 江戸川乱歩全集 第21巻
ふしぎな人
光文社文庫 江戸川乱歩 「妻に失恋した男」「秘中の秘」「魔王殺人事件」「奇面城の秘密」「夜光人間」「塔上の奇術師」「ふしぎな人」「かいじん二十めんそう」「かいじん二十めんそう」を収録。言うまでもなく少年物メインである。「奇面城の秘密」がもっとも印象に残るポケット小僧の大活躍。 ☆☆☆☆☆
053 江戸川乱歩全集 第5巻
押絵と旅する男
光文社文庫 江戸川乱歩 「押絵と旅する男」「蟲」「蜘蛛男」をサラッと再読。他に「盲獣」 ☆☆☆☆☆
040 江戸川乱歩全集 第20巻
堀越捜査一課長殿
光文社文庫 江戸川乱歩 戦後の青年物短篇「堀越捜査一課長殿」、少年物の非道い目に遭う二十面相と小林少年が印象的な「妖人ゴング」、発端の物凄さが際だつ「魔法人形」、賛否両論の実体の二十面相と嗤う骸骨が不気味な「サーカスの怪人」、「まほうやしき」「赤いカブトムシ」を所収。全部読んだ。幼年物はともかく、今回の少年物は三つとも特徴的で面白いものだったのではないかと思う。 ☆☆☆☆☆
04b 江戸川乱歩全集 第18巻
月と手袋
光文社文庫 江戸川乱歩 今回は「月と手袋」「灰色の巨人」「黄金の虎」を読んだ。(他収録は「影男」)「月と手袋」は何度読んでも気の毒になってしまう作品。「灰色の巨人」は灰色の巨人を名乗る賊との戦い。「黄金の虎」は善(?)な二十面相みたいな魔法博士が小林少年らと知恵比べゲームをする話。 ☆☆☆☆☆
04a 江戸川乱歩全集 第19巻
十字路
光文社文庫 江戸川乱歩 今回は少年物の「魔法博士」「黄金豹」「天空の魔人」のみを読んだ。少年物として読むと非常に面白い。あまりもの理不尽さもなんのそのだ。魔法博士は文字通りの小人になる魔法などを使って明智小五郎を手下にしてしまおうと考え、まず手始めに少年探偵団員を捕まえるが・・・と言う話。「黄金豹」は黄金の豹が盗みをするという意表外の話で、しかも魔法で突如消えたりする魔法豹でもある。夜行列車に出現するシーンが唐突ながら印象深い。「天空の魔人」は天空の魔人が動物などを巨大な手で掴み取っていくという奇天烈なお話。 ☆☆☆☆☆
030 江戸川乱歩全集 第26巻
幻影城
光文社文庫 江戸川乱歩 内容については書籍紹介コーナーなどを参照されたい。言うまでもなく会心の探偵小説評論であり、ある程度の読書歴を重ねるごとにより楽しめるだろう。 ☆☆☆☆☆
036 大怪盗 カッパ・ノベルス 九鬼紫郎 時は明治五年、物語中に鉄道が開通するのだから、それだけの時代設定と言う事だ。怪盗卍は世間をアッと言わせる大怪盗。圧倒的な知恵、科学知識を持って、世間も警保官も煙に巻く。最初は期待した大警部の名称、しかしそれがとんだ食わせ物で、コミカルなお人である大警部。東京と横浜を舞台に、繰り広げられる大怪盗卍の活躍ぶり。面白さは抜群である。ただ難を言えば、あまりに各事件に対する解決最後のテンポが一瞬すぎるところか。 ☆☆☆☆☆
020 乱歩邸土蔵伝奇 光文社文庫 川田武 これは快作と言って良いのではなかろうか。江戸賀乱歩、小酒井不忘、浜尾三郎、彼ら三人の現実の影響も受けた設定の、虚構の探偵作家が、登場し、意外や意外をも越える綺譚を形作る。乱歩と龍馬が出会う時、それは土蔵を介して時空を乗り越える時だ。明智と小林少年の二人が時空を越える時なのである。龍馬暗殺の真相の驚きを迎えるに、奇想天外この上なし、ゆえに中途半端ではないその幻想ゆえに、面白さが引き立っているのである。乱歩休筆中の昭和8年に起こった祕密とは!? ☆☆☆☆☆−
02a 蜃気楼・13の殺人 光文社文庫 山田正紀 数十キロメートルに及ぶ密室、マラソン大会で十三人もの参加者が消え失せてしまったこの謎。過疎の村に越してきた東京からの家族。その家族に降りかかる保守的な村人の目。それを避ける為に父親は必死に蜃気楼を漂うのであったが、村の古文書に書かれたとおりの殺人劇、先に書いた十三人の消失を含む怪事件が続けざまに起こるという展開。どうも大きな設定は良く出来ているものの、細かい設定の方が安っぽい感じが気になるが、それなりに読ませる面白い作品と言えるだろう。 ☆☆☆☆
011 少年探偵手帳 光文社文庫 串間努 これは凄い本である。もちろん小説ではないが、昭和三十年代流行ったという少年探偵手帳の復刻版なのだ。探偵たるものの心得とか豆知識が収録されている他、当然のことながら乱歩に関する記事もある。 ☆☆☆☆☆
00b 死体を買う男 光文社文庫 歌野晶午 江戸川乱歩と萩原朔太郎が名推理を展開する『白骨鬼』というタイトルの小説を中心にお話は展開していく。果たしてこの小説の正体、謎とは如何なるものなのか?最後まで謎は一転二転と展開していく。基本トリックは簡単だが、それだけに最終的結論の意外さには驚くことだろう。 ☆☆☆☆+
009 ゼロの焦点 カッパ・ノベルス 松本清張 社会派推理。読んでみて思ったことは動機の社会性がなまじメインであるだけにどうしてもその古さが目立ってしまうということだろう。更にいえば、この作品だけかもしれないが時代背景的考え方のピンとこない古さも目立ったので、この相乗効果的になったのも影響があるのかもしれない。まぁ、これは本格贔屓の一凡夫のセリフであるし、動機の古い社会性も一般に?知識として知られていることでもあるので、それを少し考慮すれば十分に推理可能なところは評価すべきか!?しかしねぇ・・・・・・その推理的内容はやっぱり稀薄(笑) ☆☆☆
068 白髪鬼 光文社文庫 岡本綺堂 怪談小説。広義であっても謎小説に読み慣れていたら、まったく不可解なまま終わってしまう話ばかりでハッキリ言って物足り無さのみがのこってしまうことが多数だった。タイトルに釣られて買ったのだが「白髪鬼」は乱歩や涙香のものでいう白髪鬼とはまったく別種であった。試験場の白髪の亡霊の話で、結局白髪鬼があらわれ試験を積極的に阻害する理由というのはよくわからなかった。永遠の現状願望だったのだろうか? ☆☆☆☆
009 半七捕物帳(一) 光文社文庫 岡本綺堂 最初の捕物帳。ホームズに似た短篇小説形式であり、今から80年もの昔に書かれたとは信じがたいほどのクオリティである。収録作品は「お文の魂」「石燈籠」「勘平の死」「湯屋の二階」「お化け師匠」「半鐘の怪」「奥女中」「帯取りの池」「春の雪解」「広重と河獺」「朝顔屋敷」「猫騒動」「弁天娘」「山祝いの夜」。 ☆☆☆☆
042 蜘蛛とかげ団 光文社文庫 辻真先 江戸川乱歩にオマージュを捧げた作品と言えよう。乱歩パロディが数々とそこかしこに登場し、飽きさせない。それだけでユーモアを勝ち取れる面白さ。ついでに迷犬ルパンシリーズスペシャルというものでもあるらしい。犬のルパンが探索役も兼ねてくれる。そもそもこのタイトルからして、まさに乱歩、全てが隠されている重要なタイトルだというから面白い。まさに黒蜥蜴のような怪物とその相棒犬、これがまた蜥蜴のような姿で恐怖を振りまくというのだから、面白い。更にその標的が美女とあの愛犬、しかもメス限定なのだ。犬好きには辛い展開もある。たとえば、発端からして、謎のような強盗に愛犬家が犬を食べさせられてしまう凄惨な事件が起こるのだ。その犬の名前がチワ夫なる笑わせる名前でも想像するだに悲惨だ。裏切りと憎悪の中も、この作品は、軽い調子のあくまで明るいユーモアドタバタミステリー、しかし笑いの中にも怖さあり、一種不可思議な作品と言えるだろう。 ☆☆☆☆+
009 江戸川乱歩の大推理 光文社文庫 辻真先 題からもわかるように乱歩小説。ただ乱歩が登場するわけではない、でも主人公ではある。乱歩がなぜ幻の作家の尾西作の「仮面の恋」という探偵小説を握り潰し、さらにその作家の筆を絶たせるに至ったのか?という謎を「仮面の恋」の原稿などから推理していく形式である。ちなみにこの「仮面の恋」も乱歩色溢れたものである。それにしても解説でも笑わされるとは・・・・・・。 ☆☆☆☆☆−
044 鳩笛草 光文社文庫 宮部みゆき 「朽ちてゆくまで」「燔祭」「鳩笛草」の各短篇を収録。いずれも超能力者を扱ったものである。
「朽ちてゆくまで」は若くして最後の家族であった祖母を亡くした大学生の娘の話であり、家の整理中に見付けた古いビデオテープの映像の謎。それは幼くして失った彼女の両親が彼女を写したものだったが、普通ではなかった。というのもそれが彼女の能力を記録した物だったのだ。そう両親と同時に失ったのは彼女の記憶だけではなく超能力もだったのである。三編中もっとも感動できたのはこの作品だった。
「燔祭」は長篇「クロスファイア」に続く作品だったようだ。本作品集の中ではもっとも狂気に満ちた作品であるが、その構成の妙は素晴らしい物がある。最愛と言っても全く言いすぎではない妹を殺され、しかも犯人は解っているのに法の裁きにすら手が出せない現実、そこに現れたのが火焔放射鬼とも言える悲しき女だったというお話。
「鳩笛草」は読心能力を持つ婦人警官を主人公とする話だが、もっとも普通の人間らしいお話になっている。能力を失う恐怖だけでなく未知の体調不良。困難は襲いかかる。謎の誘拐事件と変態男出没事件を絡めつつ展開していく。この話に限ればこのハッキリしない終わり方はベターなんだろう。
☆☆☆☆
008 蒲生邸事件 カッパ・ノベルス 宮部みゆき 昭和11年の2・26事件へ時間移動するSF歴史小説。最初の方はまるで受験生と思えぬ主人公のあまりにひどい無知加減にイライラが募るばかりであったが、読み進むうちに引き込まれていき、クライマックス以後では感動の最中に読了するような形であった。その読了後も感動の余韻がさめやらぬほどである。 ☆☆☆☆☆
037 不思議の国のアリバイ 光文社文庫 芦辺拓 森江春策もの。 初登場の新島ともかとの漫才も面白い。そしてアリバイ物と犯行及び犯人の謎を巧く組み上げているのは面白い。ただあの紙片はいけない。存在自体が不自然だし、あまりにも意図がわかりやすすぎて、しかも本当に捻り無くそうなのだから、どうも拍子抜けするのである。
展開は、映画業界のガン的な存在である男が顔を焼かれた死体として発見され、その容疑者として怪獣映画の監督が捕らえられてしまった。と言うのも監督の関わった映画もその男のために一事危機的状況になったことがあったからでもある。しかも映画撮影チームは、現在は別件で危機的状況の最中でもあったのに・・・。東は東京から、西は甘木までに広がる壮大な事件。森江春策は容疑者を救い出せるか!?
☆☆☆☆+
017 赤死病の館の殺人 カッパ・ノベルス 芦辺拓 森江春策の中短篇集。「赤死病の館の殺人」「疾駆するジョーカー」「深津警部の不吉な赴任」「密室の鬼」の四篇を収録。いずれも美事なトリックや展開で、特に「赤死病の館の殺人」の色のメイントリックには驚きしかなかった。それと「疾駆するジョーカー」は単純ながら効果的で、それだけに難点もなく最も上手く行ってる感じがする。しかし本格ミステリとは如何に錯覚の文学であることよ。
追文:ただ全体的に痛快味、ユーモア味が物足りないかな。
☆☆☆☆+
007 和時計の館の殺人 カッパ・ノベルス 芦辺拓 名探偵、森江春策シリーズ。
密度の濃い本格ミステリで、特に真相の部分のあまりの鮮やかさにはまさに脱帽しかない!所々のユーモアにも笑わせてもらえた。
☆☆☆☆☆−
024 本格推理マガジン
少年探偵王
光文社文庫 江戸川乱歩
高木彬光
鮎川哲也
河島光広
芦辺拓・編
鮎川哲也・監修
随喜の涙を流すまでの幻の少年作品集だ。乱歩「まほうやしき」「ふしぎな人/名たんていと二十めんそう」「かいじん二十めんそう」、高木彬光の長篇「吸血魔」、鮎川哲也「空気人間」「呪いの家」「時計塔」、河島光広の探偵漫画「ビリーパック 狼人間の巻」を収録。乱歩作品の痛快さは言うまでもないが、「吸血魔」は少年物王道の怪人対名探偵な面白さだ。 ☆☆☆☆☆
011 本格推理マガジン
絢爛たる殺人
光文社文庫 宮原龍雄など六名 芦辺拓・編
鮎川哲也・監修
幻の本格探偵小説シリーズ第三弾である。五篇収録で長さはどれも中篇程度だ。怪しげな超絶世界で小栗虫太郎チックに繰り広げられる岡村雄輔の『ミデアンの井戸の七人の娘』、真ん中で掻き回されるも解決編が凄すぎるむかで横町(発端篇:宮原龍雄、発展篇:須田刀太郎、解決篇:山沢晴雄)、これぞ論理と言うべきの坪田宏の本格『二つの遺書』、私的には最も面白く、知識の飾りと複数の密室殺人を見せつけた宮原龍雄の『ニッポン・海鷹(シーホーク)』、ユーモア本格、驚異的なトリックの鷲尾三郎『風魔』を収録。また山沢氏と宮原氏の特別寄稿においては、当時のことについての貴重な話も読むことが出来る。しかも乱歩の年賀状や鮎川哲也関連なのだ。まさに興味深すぎる一冊と言っても言いすぎではないだろう。 ☆☆☆☆☆
052 急行出雲 光文社文庫 鮎川哲也 鮎哲自身の「急行出雲」は再読。他は芥川龍之介「西郷隆盛」、江戸川乱歩「一枚の切符」、成田尚「夜行列車」、本田緒生「街角の文字」、覆面作家「夜行列車」、丘美丈二郎「汽車を招く少女」、渡辺敬助「悪魔の下車駅」、高城高「踏切」、小隅黎「磯浜駅にて」、河野典生「機関車、草原に」、森村誠一「剥がされた仮面」、大西赤人「ある崩壊」、黒井千次「子供のいる駅」、夏樹静子「特急夕月」、天城一「急行≪さんべ≫。特に面白かったのは幽霊の出る不可解事件の「汽車を招く少女」。
029 黒いトランク 光文社文庫 鮎川哲也 鮎哲追悼の意味を込めて再読。たった二年半前に初読したばかりであったにもかかわらず、むしろトリックを知っているだけに初読時以上に感極まってしまった。鬼貫警部自身の事件で、鬼貫の昔の同期たちが事件の渦中。それにしてもトランクの動きの美事さと盲点は、再読にしても感動しかないだろう。少なくとも本格ミステリファンを語る者なら最低限の必読の作品。 ☆☆☆☆☆+
023 死びとの座 光文社文庫 鮎川哲也 現時点で、鬼貫丹那の出て来る最終作で最終長篇。最初から中盤にかけてと真相当ての最後しか出てこず鬼貫が足の探偵的活躍を見せない所が少し残念かも知れない。死びとの座で銃殺事件の被害者は超有名芸能人のそっくりさんを芸にする三流芸能人。レコード趣味などの爆発は本作でも顕著である。鮎哲自身をモデルにした本格探偵作家たちが警察の投げた事件の隠れた真相を追う。叙述トリックはまさに鮮やかだ。 ☆☆☆☆+
01b 沈黙の函 光文社文庫 鮎川哲也 鬼貫・丹那シリーズの長篇だ。レコード趣味が爆発している所でも興味深い。更にはёも出て来るし、プロットは鮎哲の独壇場であろう。事件も出張のレコード屋が送り出したはずのレコード箱から、そのレコード屋の首が出て来るという奇々怪々な事件で、沈黙の箱の謎に挑むのだ。なおトリックも盲点衝く面白い物である。 ☆☆☆☆+
011 時間の檻 光文社文庫 鮎川哲也 初期の傑作短篇を収録し、更には宝石掲載時の乱歩よる解説も付いている。『五つの時計』『白い密室』『早春に死す』『愛に朽ちなん』『道化師の檻』『悪魔はここに』『不完全犯罪』の七篇で、私は最近読了の星影龍三もの『白い密室』『道化師の檻』『悪魔はここに』以外の鬼貫活躍の四篇を読んだ。『五つの時計』はまさに秀逸のアリバイ崩しであり、『早春に死す』も意表をつくもので、面白い。『愛に朽ちなん』も黒いトランクに似たシチュエーションが楽しく、『不完全犯罪』の不完全たるゆえんには驚いた。ちなみに収録の星影ものにしても面白い物ばかりである。 ☆☆☆☆☆+
006 クイーンの色紙 光文社文庫 鮎川哲也 三番館シリーズの短篇集。最も面白かったのは、ダイイング・メッセージの各種解釈や謎の言葉が楽しめる『X・X』だった。常識の意表を付く『秋色軽井沢』、やはり興味深さでは断然上の『クイーンの色紙』、真相が心憎い『タウン・ドレスは赤い色』、2年前に行った鎌倉・江ノ電が懐かしくミステリーガイドが面白い『鎌倉ミステリーガイド』の各短篇を収録。 ☆☆☆☆−
00a 本格推理マガジン
鯉沼家の悲劇
光文社文庫 宮野叢子
横溝正史など
鮎川哲也編 宮野叢子「鯉沼家の悲劇」、横溝正史、岡田鯱彦、岡村雄輔「病院横町の首縊りの家」、狩久「見えない足跡」「共犯者」を収録。まず長めの中篇「鯉沼家の悲劇」であるが、異常とも妖しげ言える雰囲気の旧家を舞台に連続殺人事件が起こると言うもので、本格の秀作である。ただ事件が起こるまでの間が長いため、ラストは急ピッチすぎるきらいが大きい。横溝氏+岡田・岡村両氏競作?の「病院横町」は出だしがまさに乱歩の「恐怖王」チックで笑ってしまうが、両解決編とも十分に面白く読めた。個人的にはやや単純な解決ながら横溝氏の続きものらしく書いた岡田氏の方が好みだろう。ただ岡村氏の方が話そのものは全体的によく出来ていた感じはする。狩久氏の短篇2作は共に密室物であったが明るい調と暗い調の両極端な作品だった。共に楽しめた。 ☆☆☆☆+
009 本格推理マガジン
硝子の家
光文社文庫 島久平
山沢晴雄など
鮎川哲也編 単行本未収録傑作ミステリーを集めたという本格推理マガジン。長篇では島久平氏の『硝子の家』、中篇では山沢晴雄氏『離れた家』、短篇では天城一氏の「鬼面の犯罪」を収録している。『硝子の家』は伝法義太郎探偵シリーズもので、宝石の懸賞で競ったという鮎川氏の『ペトロフ事件』と甲乙付けがたいほどの傑作でなぜ未収録なのか逆に不思議に思うほど、凄い本格であった。もちろんキーワードは硝子、そして不可能犯罪の代名詞《密室》である。『離れた家』も凄い作品である。複雑怪奇な展開からのトリックはもはやこの次元を越えてしまっている。私的にはむしろ『硝子の家』よりも評価は高い。『鬼面の犯罪』も凄い本格短篇。あと他にヴァン・ダインの「探偵小説作法二十則」、ネタバレがちとキツイでないかい、と思われたノックス「探偵小説十戒」、山前氏の今後の参考になりそうな「必読本格推理三十編」も収録している。 ☆☆☆☆☆
005 無人踏切 光文社文庫 鮎川哲也など 鮎川哲也編 鉄道ミステリ傑作選である。
西村京太郎、菊村到、藤雪夫、夢座海二、有栖川有栖、鮎川哲也、江島慎吾、秦和之、山沢晴雄、三浦大、神戸登、蟹海太郎、山村正夫、赤川次郎の作品を収録。
興味深いor面白かったのは、藤雪夫「虹の日の殺人」、有栖川有栖「やけた線路の上の死体」、鮎川哲也「無人踏切」、江島慎吾「『死体を隠すには』」、秦和之「親友 B駅から乗った男」、山沢晴雄「砧 最初の事件」、三浦大「鮎川哲也を読んだ男」、赤川次郎「幽霊列車」ってところだろう。
☆☆☆☆
043 「宝石」傑作選
光文社文庫
岩田賛など ミステリー文学資料館編 小道具が面白くシニカルでもある岩田賛「ユダの遺書」、美しすぎる論理過程とトリック+動機など本格度は高い・川島郁夫「或る自白」、底辺の悪魔か絶頂の美かの変格物・朝山蜻一「白日の夢」、変格幻想・永久美・偏執少年の夢・宮野叢子「薔薇の処女」、岡村雄輔「暗い海白い花」、飛鳥高「孤独」、大倉てる子「まつりの花束」、阿知波五郎「科学者の惰性」、山沢晴雄「神技」、認識しない錫薊二「ぬすまれたレール」、冴え渡る風呂内の機械的トリック・坪田宏「緑のペンキ罐」、明内桂子「最後の女学生」、深尾登美子「蛸つぼ」 ☆☆☆☆+
041 「別冊宝石」傑作選 光文社文庫 大坪砂男など ミステリー文学資料館編 悲劇の大坪砂男「赤痣の女」、精神分析的な本間田麻誉「罪な指」、哲学的な岡美丈二郎「翡翠荘綺談」、南達夫「背信」、軽快ながら謎解きが面白い足柄左右太「私は誰でしょう」、妖女に相応しい悲劇性の袂春信「耳」、B級のようで裏の裏を衝く意表な面白さ鳥井及策「消えた男」、明快な解答の井上銕「何故に穴は掘られるか」、悲劇性に高まる魅力の鈴木秀郎「アルルの秋」、意外な釣り鐘マントトリックによるアリバイ工作の白家太郎「みかん山」を収録。
もっとも秀逸だったのは、神秘性が強くミステリではないかも知れないが「アルルの秋」だった。
☆☆☆☆+
030 「探偵実話」傑作選 光文社文庫 鮎川哲也など ミステリー文学資料館編 主人公は悪魔だろ・狩久「山女魚」、悲しき4角関係の悲劇、村上信彦「青衣の画像」、恐るべき愛と憎悪の復讐の再読の鷲尾三郎「生きた屍」、神話ミステリでさりげない錯覚魔術が秀逸な「白い異邦人」、犯人は私らしいへの悲しい結論・土屋隆夫「推理の花道」、愛馬の復讐は愛馬で、大河内常平「ばくち狂時代」、ユニークな盲人の想像力が示した奇妙な推理・吉野賛十「鼻」、添い寝中に我が子を殺してしまった悲劇の上塗り。ただ碧い眼の効果は稀薄な・潮寒二「碧い眼」、連作で綻びだらけの展開になるも、経過を無視した最後結末だけは巧い効果。毒の酒が主要登場人物達を別個撃破していく、横溝正史、高木彬光、山村正夫「毒環」、密室推理短篇の傑作で星影物・中川透(鮎川哲也)「赤い密室」 ☆☆☆☆+
035 「密室」傑作選 光文社文庫 天城一など ミステリー文学資料館編 犯罪小説でしっくり来ない感じがする山沢晴雄「罠」、自信の処女作を利用したユニーク小説の狩久「訣別」、軍を部隊に豊田寿秋「草原の果て」、「りら荘事件」のオリジナルで今回は読み飛ばした鮎川哲也「呪縛再現」、天城一「圷家殺人事件」を収録。何と云っても長篇「圷家殺人事件」のウェイトが大きいだろう。対米戦直前に起こった圷家殺人事件。それはあまりに悲劇的であり、悪魔こそが心理を度外視して真の地獄を味わったのだ。真相究明合戦にも読み応えがあり、連続密室殺人もある。そして意外な犯人。些か物足りぬ面も否定できないがなかなか読ませる本格物と言えるだろう。 ☆☆☆☆+
032 「妖奇」傑作選 光文社文庫 尾久木弾歩など ミステリー文学資料館編 香住春作「化け猫奇談」、高木彬光「初雪」、宇桂三郎「煙突綺譚」、北林透馬「電話の声」の各短篇と、長篇「生首殺人事件」を収録。短篇勢では「化け猫奇談」が馬鹿馬鹿しいような気もするがトップだろうか。長篇「生首殺人事件」は本格探偵小説の形式を揃い踏みさせた作品である。密室殺人や生首殺人、謎の予告とエッセンスはタップリで期待はさせるが、そこは期待しちゃ駄目よ、だった。謎の解決は期待外れなのである。しかしそれでも終わりに向かう所は説明で終わらず、意外に続いて面白い所もある。まぁ、分かりやすい本格と言えるだろう。 ☆☆☆☆
031 「X」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館編 甦る推理雑誌シリーズ第三弾。収録作品は【Gメン】【X】から「湖のニンフ」渡邊啓助、「吹雪の夜の終電車」倉光俊夫、「匂う密室」双葉十三郎、「第二の失恋」大倉てる子、「悪魔の護符」高木彬光、「月光殺人事件」城昌幸、【新探偵小説】から「幽霊妻」大阪圭吉、「赤いネクタイ」杉山平一、「こがね虫の証人」、「奇蹟の犯罪」天城一、「二十の扉は何故悲しいか」香住春作、「温故録」森下雨村、「雑草花園」西田政治、井上良夫追悼として「名古屋・井上良夫・探偵小説」江戸川乱歩、「彼、今在らば―」森下雨村、「灰燼の彼方の追憶」西田政治、「井上良夫の死」服部元正、「A君への手紙(遺稿評論)」井上良夫、【真珠】から「朱楓林の没落」女銭外二、「妖虫記」香山滋、「探偵小説か? 推理小説か?」黒沼健、「ひと昔」戸田巽、「加賀美の帰国」角田喜久雄、【フーダニット】から「探偵小説」北村小松、「灯」楠田匡介、「幽霊の手紙」黒川真之助を収録。戦前探偵小説ファンとして全体として評論の方が楽しく読める物が多かったが、小説としては「二十の扉は何故悲しいか」が物哀しくも素晴らしい悲劇だった。 ☆☆☆☆+
020 「黒猫」傑作選 光文社文庫 城昌幸など ミステリー文学資料館編 甦る推理雑誌シリーズ第二弾。「黒猫」「トップ」「ぷろふいる」「探偵よみもの」から傑作を選び出したアンソロジー。
収録作品は【黒猫】から城昌幸「憂愁の人」、薄風之助「黒いカーテン」、蒼井雄「三つめの棺」、双葉十三郎「密室の魔術師」、氷川隴「白い蝶」、天城一「鬼面の犯罪」、香山滋「天牛」、坂口安吾の評論「探偵小説を截る」、【トップ】から角田喜久雄「蔦のある家」、大下宇陀児「吝嗇の心理」、【ぷろふいる】から九鬼澹「豹助、町を驚ろかす」、角田喜久雄「能面殺人事件」、海野十三「昇降機殺人事件」、山本禾太郎エッセイ「探偵小説思い出話」、九鬼澹エッセイ「甲賀先生追憶記」、城昌幸エッセイ「二年前」、海野十三エッセイ「小栗虫太郎の考えていたこと」、小熊二郎「湖畔の殺人」、【探偵よみもの】から横溝正史「詰将棋」、島田一男「芍薬の墓」、島久平「村の殺人事件」を収録。
☆☆☆☆+
02b 「ロック」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館編 甦る推理雑誌シリーズ第一弾! 戦後最初の探偵小説専門雑誌「ロック」の傑作選である。
収録作品は横溝正史「花粉」、北洋「写真解読者」、角田喜久雄「緑亭の首吊男」、大下宇陀児「不思議な母」、山田風太郎「みささぎ盗賊」、島田一男「8・1・8」、鮎川哲也「蛇と猪」、水上幻一郎「火山観測所殺人事件」、遺書「伴道平」、岡田鯱彦「噴火口上の殺人」、青池研吉「飛行する死人」。そして、評論として戦後版探偵小説芸術論争の最初となる木々高太郎と江戸川乱歩の論戦を収録。
やはり最上はトリックも人間味も生々しい面白さ岡田鯱彦「噴火口上の殺人」だろう。次点は「遺書」か!?
☆☆☆☆+
022 「新青年」傑作選 光文社文庫 浜尾四郎など ミステリー文学資料館編 幻の探偵雑誌シリーズの掉尾。収録作品は川田功「偽刑事」、持田敏「遺書」、平林初之輔「犠牲者」、小酒井不木「印象」、羽志主水「越後獅子」、瀬下耽「綱」、妹尾アキ夫「凍るアラベスク」、浜尾四郎「正義」、戸田巽「第三の銃弾」、勝伸枝「嘘」、延原謙「氷を砕く」、渡辺文子「地獄に結ぶ恋」、佐左木俊郎「三稜鏡」、乾信一郎「豚児廃業」、赤沼三郎「寝台」、竹村猛児「三人の日記」、守友恒「燻製シラノ」を収録。ベスト5を上げると、持田敏「遺書」、妹尾アキ夫「凍るアラベスク」、佐左木俊郎「三稜鏡」、乾信一郎「豚児廃業」、赤沼三郎「寝台」。特に秀逸は佐左木と赤沼だろう。 ☆☆☆☆☆
022 「探偵」傑作選 光文社文庫 甲賀三郎など ミステリー文学資料館・編 幻の探偵雑誌「探偵」「月刊探偵」「探偵・映画」から作品が選ばれたアンソロジー。
収録作品は、甲賀三郎「罠に掛った人」、横溝正史「首吊り三代記」、木蘇穀「後家殺し」、城昌幸「情熱の一夜」、橋本五郎「撞球室の七人」、角田喜久雄「浅草の犬」、海野十三「仲々死なぬ彼奴」、九鬼澹「現場不在証明」、大庭武年「旅客機事件」、城戸シュレーダー「魔石」、浜尾四郎「殺人狂の話(欧米犯罪実話)」、酒井嘉七「ながうた勧進帳」、蒼井雄「執念」、木々高太郎「探偵小説に於けるフェーアに就いて」、金来成「探偵小説の本質的要件」、井上良夫「J・D・カーの密室犯罪の研究」、森下雨村/江戸川乱歩/大下宇陀児/水谷準/青柳喜兵衛/柴村一重/石井舜耳「夢野久作氏を悼む」、一条栄子「フラー氏の昇天」、本田緒生「危機」。随筆評論系はどれも興味深かったことを述べつつ、小説に限って、傑作選に相応しいのは、「旅客機事件」「執念」「ながうた勧進帳」で、次点として、「罠に掛った人」「現場不在証明」「フラー氏の昇天」って所だろう。
☆☆☆☆+
021 「探偵クラブ」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館・編 新潮社の新作探偵小説全集・附録雑誌「探偵クラブ」と平凡社版・江戸川乱歩全集・附録雑誌の「探偵趣味」の二大幻の雑誌から作品がセレクト。「探偵クラブ」では、雨村、宇陀児、横正、水谷、乱歩、橋本五郎、夢久、浜尾、佐左木俊郎、甲賀の連作「殺人迷路」他、城昌幸、水谷準、葛山二郎、橋本五郎、横正、夢久、南澤十七らのコント、そして水谷の興味深い評論「僕の日本探偵小説史」が収録されている。加えて「探偵趣味」では乱歩の掌編評と共に蘭郁二郎や荻一之介他多数人寄稿家の掌編を収録。「殺人迷路」を読んだ事がない人とならば少し興味深さが増す一冊であろう。。 ☆☆☆☆
01b 「新趣味」傑作選 光文社文庫 甲賀三郎など ミステリー文学資料館・編 甲賀三郎「真珠塔の秘密」、葛山二郎「噂と真相」、角田喜久雄「毛皮の外套を着た男」、本田緒生「呪われた真珠」「美の誘惑」、山下利三郎「誘拐者」、呑海翁「血染のバット」、蜘蛛手緑「国貞画夫婦刷鷺娘」、石川大策「ベルの怪異」、国枝史郎「沙漠の古都」を収録。ここに探偵小説の原点を見るのである。その点で今までの物以上に非常に興味深い一冊だろう。 ☆☆☆☆+
014 「獵奇」傑作選 光文社文庫 角田喜久雄など ミステリー文学資料館・編 夢野久作「瓶詰の地獄」、本田緒生「拾った遺書」、角田喜久雄「和田ホルムス君」、平林タイ子「ビラの犯人」、小舟勝二「扉は語らず」、津志馬宗麿「黄昏冒険」、長谷川修二「きゃくちゃ」、山口海旋風「雪花殉情記」、岡戸武平「下駄」、一条栄子「ペティ・アムボス」、山下利三郎「朱色の祭壇」、城昌幸「死人に口なし」、岸虹岐「吹雪の夜半の惨劇」、西田政治「肢に殺された話」、山本禾太郎「仙人掌の花」を収録。そして秀逸すべきは辛口コラムであり、これが最大の見物だろう。ちなみに創作では、既読済だった夢久、城を除くと、「扉は語らず」がトップ。これにつづくのが、「仙人掌の花」「下駄」「和田ホルムス君」「肢に殺された話」ってところだろうか。 ☆☆☆☆+
013 「探偵文藝」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館・編 創作と随筆研究収録。創作では、松本泰「P丘の殺人事件」「日蔭の街」、林不忘「釘抜藤吉捕物覚書」、同じく牧逸馬「夜汽車」、杜伶二「葉巻煙草に救われた話」、深見ヘンリイ「ものを言う皿」、城昌幸「秘密結社脱走人に絡る話」「シャンプオオル氏事件の顛末」、中野圭介「万年筆の由来」、波野白跳「台湾パナマ」、江戸川乱歩「毒草」、本田緒生「謎」、甲賀三郎「愛の為めに」、古畑種基「指紋」、南幸夫「くらがり坂の怪」、福田辰男「偶然の功名」、米田華コウ(舟編に工)「白蝋鬼事件」収録。随筆研究には松村英一「「笑い」と掏摸」、畑耕一「探偵小説の映画化」、水島爾保一「偽雷神」、小酒井不木「錬金詐欺」、野尻抱影「馬鈴薯園」収録。既読の乱歩や城「シャンプオオル氏」を除くと、中でもダントツの秀逸は甲賀三郎の「愛の為めに」であり、微笑ましくも窮地的 に切迫した謎、読後感も何やら感動のようなもの、人間も描かれ、探偵小説が文学にある程度は近づけることを実証したような作品でしょう。後はさすが有名所で、城の「秘密結社」、泰の作品二つ、林不忘、小酒井不木が注目でしたね。 ☆☆☆☆+
012 「探偵春秋」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館・編 創作よりも評論・対談の方に興味が集まった幻の探偵小説専門誌シリーズ第4弾(下記のラスト云々は当時の錯誤だと思われます)。
創作では、さすがに面白い心理の木々高太郎の「債権」、怪奇味一番の渡辺啓助「血のロビンソン」、酒井嘉七「京鹿子娘道成寺」、西尾正「放浪作家の冒険」、光石介太郎「皿山の異人屋敷」、畔柳博士、どっかで聞いた名前だなァと思ってしまう蘭郁二郎の妖しげ推理「鱗粉」、そして蒼井雄の恐るべき怪奇の恐怖「霧しぶく山」を収録。評論では探偵小説芸術論争的三つ。木々高太郎「探偵小説芸術論」、野上徹夫「探偵小説の芸術化」、甲賀三郎「探偵小説十講」、対談は江戸川乱歩と杉山平助の「一問一答」、これも興味深い題材の連発である。
☆☆☆☆☆−
006 「シュピオ」傑作選 光文社文庫 小栗虫太郎など ミステリー文学資料館・編 幻の探偵小説専門誌シリーズのラストを飾る第三弾。
伊志田和郎の短篇「暗黒行進曲」、恐怖の味がありなかなかの出来の荻一之介の短篇「執念」、そして小栗が言わなくともはっきり凡作のリレー連作中篇『猪狩殺人事件』ちなみに作者は覆面作家、中島親、蘭郁二郎、大慈宗一郎、平塚白銀、村正朱鳥、伴白胤、伊志田和郎、荻一之介。不可能犯罪で原因も不明で前半は楽しめた蘭郁二郎の長篇『白日鬼』、これはしかし肝心の解決や謎が脆弱すぎた。どっかで似た話を聞いたことがある吉井晴一の掌編「夜と女の死」、心理描写が上手く良かった紅生姜子(宮野叢子)の『柿の木』、海野十三作の帆村荘六の登場する中途半端でごく短いSF的短篇「街の探偵」。他、小栗虫太郎、海野十三、木々高太郎、蘭郁二郎らが執筆した【宣言】や【終刊の辞】などの文章が収録されている。
☆☆☆☆+
005 「探偵趣味」傑作選 光文社文庫 江戸川乱歩など ミステリー文学資料館・編 幻の探偵小説専門誌シリーズ、第二弾。
横溝正史,角田喜久雄,大下宇陀児,城昌幸,水谷準,春日野緑,山下利三郎,橋本五郎,久山秀子,本田緒生,一条栄子,夢野久作,地味井平造,小栗虫太郎,土呂八郎,龍悠吉,渡辺温,平林初之輔,長谷川伸,牧逸馬,小酒井不木,甲賀三郎,江戸川乱歩の作品を収録している。特に興味深かったのは地味井平造の『煙突奇談』、あとは横溝正史『素敵なステッキの話』、水谷準『恋人を喰べる話』、春日野緑『浮気封じ』、橋本五郎『自殺を買う話』、甲賀三郎『嵐と砂金の因果律』と言ったところだろうか。ちなみに何度も読んだのであえて入れなかったが、乱歩のは『木馬は廻る』を収録している。
☆☆☆☆☆
005 「ぷろふいる」傑作選 光文社文庫 甲賀三郎など ミステリー文学資料館・編 戦前の探偵小説専門誌『ぷろふいる』紙に収録されていたなかから、甲賀三郎、角田喜久雄、夢野久作、海野十三、蒼井雄、西尾正、西島亮、大阪圭吉、酒井嘉七、小栗虫太郎、木々高太郎の傑作作品が収録されている。私的に特に興味深かったのが夢野「木魂」と海野「不思議なる空間断層」、木々の「就眠儀式」であった。探偵小説ファンなら間違いなくお勧めの本である。 ☆☆☆☆☆+
009 呪縛の家 光文社文庫 高木彬光 神津恭介と松下研三活躍の本格探偵小説。古風な雰囲気を含む妖しい文章で綴られていき、紅霊教という宗教をバックに凄惨で謎だらけの殺人交響楽が演じられていく。読者への挑戦も2つもあり、懸賞をかけていたくらいで、犯人当て本格としては申し分ないであろう。一応注意しておくと、ネタばれがあるので、先に「刺青殺人事件」とヴァン・ダインの「グリーン家」は読んでおいた方がいいだろう。 ☆☆☆☆☆
002 死神の座 光文社文庫 高木彬光 神津恭介完全主人公の探偵小説。松下研三も珍しく?大活躍していた。(^^)軽井沢を舞台に「占星学」というキーワードのもとで謎と殺人が渦巻いていく。
解説が占星術師の島田荘司というのも適在だ。その解説によると、清張革命とほぼ同時発表の作品のようで、「最後の探偵小説」と言われてるようだ。この面でも復興させた島田氏は解説に相応しいなと思った。
☆☆☆☆−
06a 光る鶴 光文社文庫 島田荘司 吉敷竹史シリーズの短篇集。吉敷ファンならば読んでおくべきだろう。吉敷ファンでないならばあまり意味はないかもしれないが、「十八歳の肖像」以外は普通に読めるだろう。

昭島事件という冤罪事件をモチーフにした「光る鶴」は広義の鉄道トリックという点でも面白い。昭島事件自体が飯塚の事件なので身近さも感じ、昭島事件そのものに対する興味を引かせるところも作者の面目躍如といえるのではないか。
「吉敷竹史十八歳の肖像」はまさに吉敷ファンにだけ楽しませるボーナス作品といえるもの。吉敷竹史が警察官になる決心を抱くまでのストーリー。ミステリーではない。
「電車最中」も長い吉敷ファン向けの作品。過去のシリーズで登場した脇役の現在を伝える。ミステリーとしては非常に軽く気軽に読める作品となっている。
☆☆☆☆
040 奇想の源流 光文社文庫 島田荘司 島田荘司の評論集。各種ごちゃ混ぜなので、ファン以外は今一つ取っつけないだろう。私にしても自動車論は全く辛かった。興味がない分野のマニアックな話ほど辛いものはないだろう。だが、探偵小説評論編。特に鮎川哲也との対談は今となっては珠玉の価値のある活字だ。これだけでも相当の価値があると言っても良い。乱歩の話題も面白い。他、御手洗を知っていれば、日本人論は楽しめるし、社会論も普通に教養として知っていれば有効な話だ。 ☆☆☆☆
04b 龍臥邸幻想(下) カッパノベルス 島田荘司 吉敷竹史と御手洗潔の推理がクロスするというセンセーショナルな紹介文がファンを唸らせる。龍臥邸事件の8年後に龍臥邸に集まった関係者達が偶然の天変地異の悪戯も手伝って新たな事件に巻き込まれる。土地に伝わる明治時代の伝説・森考魔王伝説。かつての土地の殿様森考さんの怨念の為す業ともいうべき、(北の夕鶴を思い出させるような)鎧武者が弱きを挫く悪代官を滅する伝説。不可能時が展開され、翻弄される石岡和己たち。それでも石岡和己が頼りになる人間に成長したなぁ、とも実感もするが、あまりの異常時の前にはやはり無力だ。本格の仕掛けと方法としては今一つのような気もするが、表現の方法は熟練したものを感じさせるし、御手洗という存在に対する吉敷のファーストコンタクトも次を期待させるだけのものはあった。とにかく旧作を把握している島田荘司ファンなら、この本は読まずにいられない仕掛けが施してあるのは間違いないだろう。逆に旧知の島田ファン以外(特に吉敷&通子シリーズ全篇と「龍臥邸事件」を知らぬ人)は読むなとしか言えない。 ☆☆☆☆+
04b 龍臥邸幻想(上) カッパノベルス 島田荘司
044 牧逸馬の世界怪奇実話 光文社文庫 牧逸馬 島田荘司編 これは読む価値がある。島田荘司が作品をピックアップし、牧逸馬作品を現在人に紹介すべく出された一書。
「切り裂きジャック――女体を料理する男」「ハノーヴァーの人肉売り事件――肉屋に化けた人鬼」「マリー・セレスト号――海妖」「タイタニック号沈没――運命のSOS」「マタ・ハリ――戦雲を駆る女怪」「テネシー州、猿裁判――白日の幽霊」「ローモン街の自殺ホテル」「双面獣」「クリッペン事件――血の三角形」「ウンベルト夫人の財産」「女王蜘蛛」「ドクター・ノースカット事件――土から手が」「ブタペストの大量女殺し――生きている戦死者」「浴槽の花嫁」
私もこの中の殆どの事件を耳にしたことがあった。まぁ、現在の観点から言えば当然だが、それらの事件にしても細かい点は無知であったし読み物としてもまったく楽しめた、またこれらを詳しく本邦初紹介したのがほとんど牧逸馬だというのは感じ入るしかあるまい。乱歩ファンとしての注目は「ローモン街の自殺ホテル」。真相は全く異なるが、「目羅博士」を全く彷彿させるシチュエーションだ。
☆☆☆☆☆
026 涙流れるままに(下) 光文社文庫 島田荘司 通子のあまりもの過去が晒される。果たして救いあるのか。読まずにいられぬ面白さだ。 ☆☆☆☆+
026 涙流れるままに(上) 光文社文庫 島田荘司 吉敷竹史+加納通子シリ−ズ。「北の夕鶴2/3の殺人」「羽衣伝説の記憶」「飛鳥のガラスの靴」「龍臥邸事件」と加納通子のストーリーのいくらかは出てきたが、ついに全貌が、ってな展開なのだ。一方の吉敷は、冤罪事件に絡んでいくが。シリーズ的興味としては果てしない物があり、上記4冊を読んでいれば、読まずには入られない作品。逆に「北の夕鶴2/3の殺人」すら読んでなければ、読んでも全く意味がない。 ☆☆☆☆+
026 Yの構図 光文社文庫 島田荘司 中学生のいじめ自殺問題を捉えた社会派ミステリ。上野駅に同時に到達したのは、東北新幹線と上越新幹線の運んだ二人の死体。これは心中というのか!? しかし色々と妙な点もあり、しかも自殺事件の関係者であったのだから、疑われるのは自殺者の両親であったが…。吉敷竹史シリーズだ。しかし謎としては余りの突飛さは、まぁ肯けない無い事はないが、その行動心理には全く肯けない。その力が発揮出来るのなら、そもそもこんな事件は起こるわけがない。と言う事で、いくらかの修正があってしかるべきではないかと思われた。わずかな修正だ。 ☆☆☆☆
010 消える上海レディ 光文社文庫 島田荘司 島田流社会派ミステリ−。主人公の女性記者・弓芙子は、自分と顔がそっくりの上海レディの記者会見を取材した事から、上海船などで、生命の危険と殺人事件の渦中に巻き込まれてしまう。夢幻想と現実の狭間で行われる悪夢。戦前社会が残した禍根。上海レディは何がしたかったというのか。そして消える上海レディの謎とは!? 解決に偶然という言葉がちょっと多すぎるのが気になるが、だからこその最悪の手前の事態を招いたプロット構成なのだからそれは仕方なかろう。 まぁ、消える謎も予想出来る範囲の物でそれほどでもないのだが。しかし社会派的重みが凄いのだ。 ☆☆☆☆+
018 確率2/2の死 光文社文庫 島田荘司 吉敷刑事もの。誘拐事件で走らされる吉敷だったが、その誘拐事件は意外な展開を見せる。その謎や幽霊自動車、これが示す事件の真相とは!? 島田流社会派ミステリーはなかなかの面白さだ。 ☆☆☆+
00b 龍臥邸事件(下) 光文社文庫 島田荘司 フィクションとノンフィクションがクロスするとき、御手洗潔シリーズと吉敷竹史シリーズがクロスするとき、かつてないほどの本格ミステリーの世界を見、主人公の石岡和己は人間として大きく覚醒を果たす。なお、一言読む前に注記しておくと、私が読んだレベルくらいの光文社刊の吉敷竹史シリーズ及びこれまでの講談社刊の御手洗潔シリーズを読んでおいた方がいいだろう。特に最低初期御手洗シリーズ『占星術殺』『異邦の騎士』、後期御手洗シリー一つ以上、そして吉敷シリーズの『北の夕鶴殺人事件』あたりは読んでおきたいところ。ともかくも前作読めば読むほど感動は深まるのは確かだ。 ☆☆☆☆☆+
00b 龍臥邸事件(上) 光文社文庫 島田荘司 御手洗潔の友でもあり、筆記者の石岡和己が主人公。恐怖怪奇幽鬼・・・不可解なるの恐るべき連続殺人事件に翻弄され、出口は見えるどころか混迷の徒を漂うばかり。例の岡山の大量殺人事件を下敷きにしている。 ☆☆☆☆☆
00b 飛鳥のガラスの靴 光文社文庫 島田荘司 冒頭少しだけだが、加納通子も登場する、吉敷竹史シリーズ。「飛鳥の硝子の靴」という本にも出てくるある伝説をバックに流しながら、吉敷が歪んだ日本社会に孤軍で闘うドラマ性溢れる名作。御手洗潔もそうだが、吉敷竹史はよりわかりやすく具体的に日本の抱える社会的弊害を揶揄してくれ、魅力的人間吉敷が表層化し、大いに共鳴出来る。 ☆☆☆☆☆−
007 展望塔の殺人 光文社文庫 島田荘司 「緑色の死」「都市の声」「発狂する重役」「展望塔の殺人」「死聴率」「D坂の密室殺人」の非御手洗ものの各短篇を収録。乱歩ファン的には現在の「目羅博士の不思議な犯罪」の「死聴率」と、同じくいかにも「D坂の殺人事件」を彷彿させるのだが、の「D坂の密室殺人」をお勧め出来るだろう。ちなみに吉敷竹史登場は真ん中の2つである。 ☆☆☆☆+
006 羽衣伝説の記憶 光文社文庫 島田荘司 吉敷竹史シリーズかつ加納通子もの第2作。
『北の夕鶴2/3の殺人』の続編であるので、これを読まないとまったく面白くないので注意が必要である。
最初から小粒な事件が起こる程度で本格ミステリではないが、加納通子関連の過去の謎などと共に感動を彩ってくれる。吉敷や通子の人間性がより良くわかり、『北の夕鶴』に感銘を受けた方には特にお勧め。
☆☆☆☆
005 奇想、天を動かす 光文社文庫 島田荘司 吉敷竹史シリーズ。社会派と本格派が美事に融合してる傑作。最初の平成の些細な事件から、昭和日本の犯罪へとテーマは拡大していく。吉敷の人間性もよりはっきり描かれており、ラストでは格好良さに惚れ惚れしてしまうくらいである。本格ミステリ的な部分も、相も変わらぬ不可解怪奇性で満ちあふれており、思わずゾクッとさせられてしまう。 ☆☆☆☆☆+
004 北の夕鶴2/3の殺人 光文社文庫 島田荘司 吉敷シリーズ第3弾。でもこれは99%トラベルミステリではなかった。猟奇的不可能犯罪を題材にしており、その部分ではゾクゾクとし、トリックは残念ながら私には不可能にしか見えなかった。そして本当の主題はなにより妻の通子が絡むことで吉敷の人間性がマザマザと赤裸々に描かれてたことだ。これにより彼を思わず応援したくなってきたものだ。 ☆☆☆☆☆+
003 出雲伝説7/8の殺人 光文社文庫 島田荘司 吉敷シリーズ第2弾。容疑者のトリック・アリバイ崩しがメイン。
半分ちょっとでトリックや謎の8割、(吉敷以上?)は解くことが出来た。残り2割は回答を見るまでわからなかった。関係ないかもしれないが、もはや登場ローカル線や列車名のほとんどが消滅しているのはちょっと残念。
☆☆☆☆
003 漱石と倫敦ミイラ殺人事件 光文社文庫 島田荘司 ホームズのパロディ作品。夏目先生とワトスン君の両者の視点で描かれている。夏目先生に後半以外でホームズがキの字扱いされてるのには参るが、ワトスンの力再認識させられるような気もする。ミステリとしても申し分はない。 ☆☆☆☆+
990 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁 光文社文庫 島田荘司 吉敷竹史初登場作品。
まさに島田版「幻の女」であった。ラストでの結末の二転三転には唸らずにはいられない。トラベルミステリでありながら、猟奇的で大トリック使い、続編も早く読みたくなってくる。
☆☆☆☆+