《第9話 「窮地」》のネタバレ感想


出典:(コミックバンチ2004年34号(8月6号(実際は7月23日発売日)))


今回は、前回で人間椅子が露見してしまったことを受けて、野上がその目的を推理し、桐畑に詰問する話だ。野上の頭は異常なまでに冴え渡っているのが、おかしな感じもするが、まぁ、端的に言えば、ページ数の都合なのだろう。それにしても人間椅子がバレると言うのはどんな心境なのだろうか? 例え相手が動機を誤解していたとしても、想像に難くない崩壊的なものだっただろう。さて、レビューに移ろう。

前回、野上は椅子の空洞を発見していた。最初は企んでいたと思い浮かべるも、一コマの推理ポーズをもって、その考えから最初から椅子の中に入っていたと断定。それに対して、佳子は必死に職人気質の桐畑にそぐわないと否定したがるが、野上は証拠を次から次へと指摘していく。

だが、超常的な人間椅子を見事に言い当てて見せた野上だったが、さすがに動機指摘までは叶わなかった。原作の人間椅子の男が最初の動機としたように、その動機を盗みだと考えたのだ。この変態トリックに、野上は佳子の推理小説の上を行くと、やけくそに感心して見せるしかなかった。

人間椅子、佳子は作家だけあって、頭の回転が速い女だ。椅子の中の人間の姿を思い浮かべて、茫然とするしかなかった。そして桐畑工房を訪れたときの情景を思い浮かべる。

一方の野上は動機が盗みと言う以外は全く思い浮かばないものだから、盗品がないかを問いかける。その途座だった。思い浮かべるは椅子の背のナイフ傷事件。野上はそれを桐畑の仕業であると断定。しかしここでも動機を勘違いしてしまう。さすがに野上自身への殺意であるということは見抜けなかったのだ。それは幸か不幸かどっちだったのだろうか? 野上の精神状態上は幸だったかもしれない。それは後を読めばわかるとして、ここでは野上はナイフ傷事件を、桐畑が盗品もろとも椅子を工房に持ち帰る策だったと勘違い。

野上の気は収まらない。桐畑を警察に付きだそうと躍起になる。しかし佳子は証拠不足だと主張。更に佳子は自身の面子と、また野上家具店の面子に関わるので、表沙汰には出来ないと言う。これは確かに正論だ。もしこれと同じ事が現在の社会で起こったとして、それが表沙汰になったらどうなるだろうか。容易に想像できるだろう。ワイドショーの主役になり、普通の精神しか持たない人間にとっては耐え難い状況になるだろう。もちろん一部の人間はビックチャンスとばかりに商売繁盛するかもしれないが。多少横道に逸れたが、ともかく野上は承伏するしかなかった。怒りは爆発寸前ながらだ。殺意がバレなくてもこれだ。バレていたら、どうなっていたことやら。ちなみに野上の剣幕中、佳子はあまりものことに頭が混乱していた。当事者だけに、この狂気のような現実を受け入れるのも至難の業だったに違いあるまい。

場面変わって、野上は桐畑工房を訪れていた。最低限の落とし前を付けに来たのだ。颯爽とやってきて、桐畑に立ち退き料を投げつける。桐畑はとぼけるが、野上は突き上げるかのような眼光で、「獄中は椅子の中よりは広い」発言で迎撃。桐畑は全てを悟るしかなかった。職具も野上に取り上げられる。野上は許せなかったのだ。家具を扱う人間として、桐畑のような職人が許せるはずもない。

嵐のような野上が去った後、桐畑は弟子に工房を畳むことを伝える。もはや絶望的状況なのだ。そこでふと思い浮かぶ。なぜバレたのか。いや、そんなことは、すぐ脳裏から消え失せた。脳裏に浮かびたるは佳子のことだ。当然のようにネガティブ思考で、あの桐畑が作った安楽椅子を毛嫌いしてし、二度と触れてくれないだろうことを思い、絶望感に頭を抱える。しかし何とか、そこに佳子から頂戴した名工の手と言う言葉を思い浮かべ、今わの際までまで名工でありたい、あらねばならないのだ、という最後の希望に取りすがりながら、今週は終了した。

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