《第6話 「百年の生命」》のネタバレ感想


出典:(コミックバンチ2004年31号(7月16日号(実際は7月2日発売日)))


人間椅子の桐畑とその主の佳子が、当たり前の人間として邂逅した。佳子の言葉に応じて、桐畑は椅子の背凭れの刀傷を見て、あまりの酷さに絶句してしまう。佳子に贈るはずだったよく切れる小刀に刻まれたる忌まわしい記憶。

佳子はその桐畑の様子が普通じゃないことに気が付き、原因が一ヶ月も経たぬ内から椅子を傷つけてしまったことかも知れないと思い、桐畑椅子への思いを語り始める。腰の具合が良くなったこと。今までデザインだけで選んでいたこと、それがこんなに気配りな椅子は初めてであったこと。などなど。

桐畑はそこで一つのお願いをする。佳子が椅子に腰掛けた姿を見たいと。と言うのも、椅子職人は椅子を完成させ納品後するや、椅子に座る主の姿は見る機会はない、という宿命に対する反動もあったからであろう。佳子ももちろん同意する。

不思議な光景だ。不思議な感触の世界で佳子に安楽を与えるべく椅子を演じてきた桐畑が、外側から、普段通りの右足組のポーズで椅子に腰掛ける佳子を眺めている。

桐畑はフト気が付く。佳子がスリッパを履いていないのだ。普段はスリッパの音を聞いていた桐畑にしてみれば、椅子の設計に問題があったことに思いいたったのだ。スリッパの分だけ理想的な座面の高さが変わってしまうという焦慮。

佳子は桐畑がスリッパで、いきなり椅子の設計について力説し、メジャーで計り出したりするものだから一瞬面くらったが、そこに理想の椅子へのあくなき探求心と見出し、安楽椅子の心地の良さの理由の一端を垣間見た気がした。そしてスリッパについては執筆中は履いていないことを明らかにし、桐畑を安心させる。その後、スリッパを履いている事実をなぜ桐畑が知っているか、疑問に思うが、例によって、雑誌で喋ったことがあったようで、一人納得してしまう。何度も書くが、人間椅子などと言うのは普通に人間の発想に入り込めうるものではない。現実的な盗撮や盗聴はもとより、屋根裏の散歩者以上に異質な物なのだ。

その後、桐畑は、椅子は百年の命だと力説し、内心では、貴方の椅子は本当に生きていたのです、とニヤニヤ考えながら、今回のお話は終わった。


テーマ的に期待させていただけに、その内容は今一つとしか言えなかった。人間椅子の男は感触のみに耽溺してもらいたいのだが、本作の主人公桐畑は、原作のように世にも呪われた醜人ではない。この面と向かって知り合いと化した状態で、今後の続きが「人間椅子」として収拾付くのかが注目される。

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