蘭郁二郎[らん・いくじろう]

【ガラスの島】(2002/11/06)
蘭郁二郎、昭和15年「小学四年生」8月号から昭和16年「国民五年生」7月号に連載された長篇少年冒険科学小説。ガラス人間という透明人間が登場し、大東京は不思議な事件で持ちきりだった。そのガラス人間が優しさを発揮した時に、主人公少年と中尉とが接触! そのままガラス文明に溢れるガラスの島に案内されるのである。そこでスパイ事件が起こるという展開を見せつけるが…。さて、博士の為していたこととその功績とは!? なお現在、残念ながら読めるメディアは無い状態である。

【黄色いスイトピー】(2002/3/23)
蘭郁二郎、「新青年」昭和13年7月増刊号に掲載。三年ぶりに再会した二人、主人公は農園をしていて、現状有り得ない黄色いスイトピーを開発したから、と誘われたので、行ってみると熱帯庭園は素晴らしい物だった。しかし・・・思わずも、その盗難事件に遭遇してしまうのだ。大金等をかけた大事業だけにショックを受ける農園主の友人、容疑者も次から次へと挙がっていくが、実に、その裏には切実なる反対の動機を隠されていたのである。珍しき本格物。なお現在、電子出版・平成復刻版等で読む事が可能だ。

【黒い東京地図】(2002/6/29)
蘭郁二郎、「オール・トピック」昭和14年10月号から15年2月号にかけて5ヶ月連載中篇。犯人当て本格探偵小説と言えるだろう。主人公の探偵助手は探偵所長を待ってる間に見付けた美少女とその奇妙な尾行者。しかも美少女が封筒を主人公のポケットに突っ込んできたと言う展開。その後、主人公も尾行に参加するも、射殺殺死体を目撃してしまうことになるのだ。外国の名画盗難事件に絡んだこの事件の犯人とは!? そして黒い東京地図の秘密は!? なお現在気軽に読める本は存在しなくなってしまったと思われる

【地図にない島】(2002/5/29)
蘭郁二郎、「ユーモアクラブ」昭和14年10月号に掲載された短篇。夏の終わりの淋しくなった海岸で望遠鏡覗き趣味を満喫していたら、突如飛び込んできたるは震災の時に死んだはずの科学者の伯父の姿、そして美女。と言う所からはじまり、主人公は地図にない人口蜃気楼で隠された島へ案内される。果たして超科学研究所だったが、恐るべきは同じ顔が揃っている事であり、主人公も美男として男代表にされてしまうと言う、何という夢現悪夢。なお、現在読める本は、無いのでは無いかと思われる、残念。

【地底大陸】(2002/2/10)
蘭郁二郎が、昭和13年から翌昭和14年にかけて「小学六年生」に連載した長篇空想科学少年物。蒙古で掘削作業中の主人公達は磁場の異様さに驚くが、フトした事から地底大陸へ入り込んでしまう。その地底大陸が圧倒的な超科学文明であるという本長篇はSF的アイデア満載で楽しませてくれるのだ。転覆者との争闘が始まるが、少年物らしく状況等に矛盾や違和、疑問も含むながらも、充分過ぎる程面白いと言えよう。蘭が売れっ子への道に導いた本作は、なお現在、三一書房「少年小説体系17」等で読む事が可能だ。

【寝言レコード】(2002/7/30)
蘭郁二郎、昭和14年「オール読物」2月号に載った短篇。これは傑作と言っても差し支えない面白さだ。赤い鴉マークの付いた二枚のレコードが海外からの荷物に紛れ込んでいた。主人公と友人の新聞記者はそのレコードを聴いてみるも、両者とも寝言とも付かぬ意味不明な日本語が吹き込んであるばかり。しかも寝言前の音までも似たような感じなのだ。この寝言レコードの謎とは!? トリック的着想も面白いし、更にこの時代を利用した意表と付く展開だと言えるだろう。なお、現在読める本は無くなってしまった模様

【脳波操縦士】(2001/11/25)
蘭郁二郎、「科学ペン」昭和13年9月号に発表の驚くべき傑作恋愛科学小説。この脳波操縦は、まさに異形の愛の究極形態・絶対愛のはずだった。所が突然の、主人公の登場による科学を超えたかのように見えたその敗北。その三角関係が崩れた時、自己崩壊と嫉妬が合い混じり脳波操縦士と美少女は心中を遂げるしかなかったのである。円周率の暗なる遺書は語る、その崩壊心理模様を。原題「人造恋愛」というこのストーリーは切なき愛に限界を設ける虚無の実だったのである。なお現在、電子出版・平成復刻版等で読める。

【白金神経の少女】(2002/8/30)
蘭郁二郎が、「奇譚」昭和14年8月号に発表の短篇。銀座のバーに入った主人公は、恋愛電気学に取り憑かれたような老人と話し込み、遂にはその娘の美しさにも惹かれて地下の研究所たる所に入り込むが、更には白金神経で娘の神経を代用しているとまで言い出したのである。まさに超絶。しかしミケランジェロの絵を巡って老人頭脳はショートし、馬脚を現してしまったのであるが、それによってこそ幸福なのであった。さすがに佳作。なお現在、国書刊行会「火星の魔術師」等で読む事が可能である。

【魔像】(2001/10/22)
初期・蘭郁二郎の誇る怪奇犯罪短篇の大傑作。狂気への過程が描かれていき、それはラストの章で爆発する。恐ろしき写真師の絶大なる悪魔の美学がここにある。趣味も高じては魂も腐り果てる。いや肉体までもその悪魔の美学の対象対象物だ。まだそれでは甘い甘い。一歩先を行く恐るべき伏線がそこにはある。その結果が魔像の対象だ!先にも書いたが、原題は「恐ろしき写真師」と言う。なお、現在、ハルキ文庫「怪奇探偵小説集(II)」(鮎川哲也編)等で読む事が出来るのでぜひお奨めさせていただこう。

【縺れた記憶】(2002/10/1)
蘭郁二郎、昭和7年8月に『秋田魁新報』で連載の短篇。元々極端に忘れっぽいところがあった主人公は、じきに一部の記憶を断続的に思い出せない状況が悪化。更にその記憶のない間に、彼は悪事を尽くしてしまうという恐慌。まさに二重人格による悲劇。しかしどうも最初のボケたような忘れ病と二重人格に連綿性が見いだせないところなどから、些か苦しいような感じはするのだが…。そこは記憶を超越した内なる犯罪心理が隠れているのだろうか? なお、現在気楽に読める本は無さそうだ。


渡辺温[わたなべ・おん]

【赤い煙突】(2002/11/22)
渡辺温が昭和二年に発表したショートストーリー。初出については私は知らない。赤い煙突は、黒い煙突二本に挟まれているのだが、ちっとも煙を吐かない。少女は、病の床からこれを眺め、自分に例えてみるのだった。それから歳月は過ぎたが、相変わらず赤い煙突は煙を吐かなかったが、それを悲しむ少女であるが、突如として現れた唄う青年の立ち去りし後、しばらくの間のみ赤い煙突は煙を吐き始めた。それはそれで、なぜと、少女には疑問が付きまとうが・・・。 なお現在、青空文庫で読む事が可能である。 

【嘘】(2002/8/18)
渡辺温、「新青年」昭和2年3月号掲載の短篇。嘘話の話比べをする会で、主人公井深君が話し出した。それがローマンスな嘘の話であった。まさに嘘のローマンスの応酬でなかなかユーモラスな結末だ。銀座の散歩を日課にしている井深君、不躾で奇妙な不良少女に出会う事になるが、ひょんな事から、カフェでお食事をする事になった。そこで井深君、外套を買うお金を提供しようかと思ったが、それがユーモラスに展開していくのである。さて、その果てにある結末とは!? なお現在、博文館新社「叢書新青年・渡辺温」等で読める。

【可哀想な姉】(2001/11/15)
渡辺温、昭和2年10月号の「新青年」に発表短篇。それはいかなるほど可哀想な姉だったろう。大人を嫌う姉、髭を嫌う姉、その理由も生活の、弟のための涙の花売り…。その姉は生まれついての唖で、更に病気だった。主人公は子ども時代から通じて、その可哀想な姉を最後まで食いつぶし、そして髭と恋人という大人への切っ掛けを掴むことになるのだ。悪夢のような出来事ながら、それは必要な儀式であったのかも知れない。何という効果、何という絶大なる残酷悲話だろうか。なお現在、創元推理文庫「名作集1」で読める。

【兵士と女優】(2002/1/22)
渡辺温が、オン・ワタナベ名義で「探偵趣味」昭和3年7月号に発表したほんの短い短篇。兵士になった男はカフェを辞めて女優になった女に出会い、世の中の不条理を語り合うのである。戦争とは何か、金儲けの手段こそが、そしてそれにも関わる映画のネタに過ぎないと言うのだろうか。その馬鹿馬鹿しい理由のために故郷を離れ、兵士は生命を賭けねばならない。にも関わらずそれを取り上げる活動写真は感動の的、これは何という皮肉だろうか。なお現在、光文社文庫「『探偵趣味』傑作選」で読む事が可能だ。


渡辺啓助[わたなべ・けいすけ]

【偽眼マドンナ】(2001/10/27)
渡辺啓助のデビュー作。人気俳優・岡田時彦名義で「新青年」昭和4年6月号発表短篇。[いれめマドンナ]と読む。偽眼の美しさに魅入られた芸術家の話で、異国情緒も溢れる名品である。またその底辺に流れる悪魔の美学には感銘すら覚える。偽眼、人工物だからこそ美しいという感性。そして持ち主が変わりうる不思議。刳り抜きたる心理、そしてそれが真眼でないかと疑われた怪異。ラストも含めて、効果的に幕を閉じたと思う。なお、現在創元推理文庫「名作集1」等で読める。

【吸血花】(2002/6/8)
渡辺啓助、「新青年」昭和9年1月号発表短篇。芸術家の弟が突如服毒自殺したと聞いた統計士の兄は引き取りに行ったのだが、そこがまた湖畔の素晴らしい田舎の温泉場。そこにムシトリスミレの洋装断髪嬢がいたのである。そこには虚無の空気が流れていた。自殺を誘う空気であったかも知れない。しかし遺書にあったインクの染みは聖書にも。これが示す謎とは果たして重大であったのだ。幸福こそ呪われてしまう最大の対象だというのである。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読む事が可能である。

【血笑婦】(2002/3/10)
渡辺啓助、「新青年」昭和5年6月号掲載の怪奇幻想短篇。恐るべきは死の婚礼式。それが童貞女リカたる一枚の画がもたらした、フランスで唯一の画家としての成果が生んだ悲劇的ワンシーンであった。フランス帰りの男は、共に愛人にしていた日本のある姉妹からの金を全て使い果たしていた上に連絡も全く取らず…、そんなこんなで日本に帰っても極度に恐怖を感じてしまうが…、そこで待っていた悲劇とは!? なお現在、角川文庫「爬虫館事件(新青年傑作選)」等で読む事が可能だ。

【殺人液の話】(2002/10/31)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年6月号発表の短篇。満州に行っている息子の知人というのが、殺人液なるものを息子が発明し、更にその資金が要ると言ってきたという。その真偽はかなり疑わしいものだが、とりあえず小金で追い返すも、残ったるは殺人液の瓶。それを中心に下宿のおかみである主人公の心理が微妙に変化していくのだ。まぁまぁの作品だが、啓助らしい感じはあまりしない作品だと言えるだろう。さて、殺人液と三十円札の秘密はいかなるものだったか!? なお現在読める本は無いと思われる。

【聖悪魔】(2001/12/08)
渡辺啓助が「新青年」昭和12年1月号に発表し、連続短篇の掉尾を飾ったもの。牧師の男の内なる狂的な悪質。しかも癲癇の朦朧状態になったら、それを抑制する自信もない。だからこその「悪魔日記」だった。これに空想の悪魔思念をいわば封印したのだ。しかしある時、純粋な弟子に読まれて悪魔日記は解放され、空想を超越してしまう状況を作り出してしまったのだ。この奇妙な暗示。空想の産物はあくまでそこに留まってくれていたというのだろうか。なお現在、国書刊行会「聖悪魔」等で読める。

【タンタラスの呪い皿】(2002/8/20)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年4月号発表の短篇。主人公は上野公園近くのある遺作展覧会でタンタラスの呪い皿という作品、しかも買約済となっているものに直面する。タンタラスの永劫の渇き地獄。そして肖像画の不思議。現れたるヴェールの女の悪夢のような暗示的言葉。主人公は戦慄しつつも、タンタラスの呪い皿に纏わる事を調査してみるが…。恐るべきはタンタラスの呪い皿に込められた悪魔的呪詛の念であったのだ。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読める。

【血蝙蝠】(2002/5/8)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年2月号発表の短篇。十五歳の少年はハッキリこの種の不思議な物音を楽しんだに違いなかった、深夜の小学校校舎。遊びで忍び込むがそこには悲しくも縁がなかったという憧れがあった。不断から暗闇を好み夜は明らかに元気になる不可思議な匂いだった。三日連続の小学校の闇蝙蝠遊には、しかし恐るべき罠が待っていたのだ。ああっ、血の悪霊よ。それに悪意が有るから邪なのだ。決して蝙蝠でない。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読める。

【血のロビンソン】(2002/7/12)
渡辺啓助、「探偵春秋」昭和11年10月号発表短篇。古物商で手に入れた長椅子で見付けたるは血ぬられたる花というなぜか思わせぶりで不気味なタイトルが付いた荘重な写真アルバム。その十二枚の写真には美女の姿が映り込んでおり、しかも万国美女博覧会の如くだ。しかしその中の日本美女がミスニッポンに輝いた美女でありしかも失踪中という奇々怪々な符合。さて血ぬられた花の真意とは!? ロビンソンの為した最終章とは如何なる物だったか!? なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読む事が可能である。

【灰色鸚哥】(2002/9/24)
渡辺啓助、昭和10年11月刊行の単行本「地獄横丁」が初出の本格的短篇。インコの言葉は灰色の如く、黒でも白でもない灰色。インコの語彙の研究は謎の言葉を聞いたという盲目老人から発した。そして更に新しい謎のような語彙はインコの口から。インコを介する奇妙な通信なのか!? 盲目の老人の自殺未遂事件、首無し死体事件等々が本篇は盲目の哀しきまでの悲劇だったのである。ああ、恨むべきトリック…。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」で読む事が可能である。

【亡霊の情熱】(2002/12/12)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年10月号発表の短篇小説。女学校にやって来た教師の主人公だったが、そこで起きたのは一人の女生徒に意識を集中してしまう自身の姿…。教師は気にすまいと思うが上手く行かず。しかし日記の恋文は女生徒に迫る中学生いる事を示し、轢死の亡霊は情熱を持って、魂に衝撃を与えたのである。少し怪奇じみた現実的恋愛小説と言っていいだろう。なお、恐らくは、現在気軽に読める本は無いのではないかと思われる。

【決闘記】(2003/9/25)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年5月号発表短篇。無力対暴力の決闘、その予想をも超えた結末にはスタンバイの葬送曲すらも鳴り出さない。殴られて怪我を負っても無力は与論の力を借りる事は無かったのだ。力で負ければ弱い方は泣き寝入りをするしか無いというのだ。にもかかわらず暴力のファッショを刺激し、大金を提供するという謎の行動。一体何を示すと言うのだろうか! そして恐るべき陥穽とは!? なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読む事が可能である。

【紅耳】(2003/9/25)
渡辺啓助、昭和12年6月刊行の単行本「聖悪魔」が初出の短篇怪奇。世界で二番目に美しい耳と嘗て褒められた女、その耳を美しいと言われるたびに悪夢のような出来事を思い出すのである。女の耳はその美しさゆえに売られてしまったのだ。そして切られた耳は何という食欲をそそった事か!? 被害者ながらもある呪われたの運命に加担してしまった女、美しすぎるな耳の重すぎる悪魔の代償だ。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読む事が可能である。

【北海道四谷怪談】(2003/9/25)
渡辺啓助、「ぷろふいる」昭和9年7月号発表の短篇。北海道の網走で行われた四谷怪談の芝居はまさに恐るべきものだったというのだろうか!? 主人公は師匠が父親ではなく、その実、真の親は師匠その人に殺されたのだという噂を子供時分に聞いた。無論そんな話は信じずに師匠と共に地方興行に打ち込んでいたのだが、ここに来て、埋まっていた二つの死体。そこから導きされたのは復讐だったのである。恐るべしまでだ。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」で読む事が可能である。

【屍くづれ】(2003/9/25)
渡辺啓助、「新青年」昭和12年3月号発表の短篇。なぜか「幽霊屋敷」という表札がかかっている家。見た目に陰気はないはずだが、何かその表札につられて妖異も感じるのである。そしてそれに伴う噂。その夫婦は炭坑爆発事故で包帯男となり直ってもなぜか取らない夫とその夫になぜか恐怖の念を感じる妻。そして女中と男。確かに幽霊いてもおかしくなかったのだ。この奸計。しかし何が私には何が新味で面白い点なのか、よく分からなかった。なお現在、ちくま文庫「渡辺啓助集」等で読める。


渡辺文子[わたなべ・ふみこ]

【地獄に結ぶ恋】(2002/3/16)
渡辺文子、「新青年」昭和7年9月号発表の短篇。猟奇事件として名高い大磯の心中事件天国に結ぶ恋を前提にした意外な見かけ心中事件の真実。それは意外性が二度もより起こす。地獄に結ばれる恋は悪意ある罠。復讐の念に固まった罠だったというのであろうか。大磯事件という前例から世間も警察も心中を疑わなかったが、ここに知るものが二人。この意味こそ恐るべき物だったのである。なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。